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第4章 静かに潜む敵意

◆ CADエリアの4人 ― 最も厄介な男

冷却技術開発部のCADエリアには、

派遣社員が4人いた。


加藤元、鷲世さちよ、内村、そして――飯村あきうみ。

飯村は内村寄りの立場だが、ほとんど発言しない。

ただ静かに仕事をこなし、

「年功序列だけは絶対」という価値観を頑なに守るタイプだった。


自分より後から入った加藤を、

飯村は最初から“認めない”と決めていた。


◆ 静かに向けられる敵意

飯村は、加藤にだけ敵意を向けてくる。

表では何も言わない。 しかし――

•視線

•作業のタイミング

•無言の圧

•データの扱い方


そのすべてが、はっきりと“敵意”を物語っていた。

そして、くだらない勝負を挑んでくる。

•モデル修正のスピード勝負

•データ保存ルールの揚げ足取り

•加藤の作業への無言の牽制


だが、結果はいつも同じだった。

加藤が一瞬で片付けてしまう。

(……雑魚キャラだな) 加藤は本気では相手にしなかった。


◆ しかし、加藤の直観は告げていた

飯村は、鷲世や内村のように露骨に騒がない。

だからこそ、会社からは“問題なし”に見える。


静かで、仕事はできて、

しかし心の奥に冷たい敵意を持つタイプ。

加藤は、飯村の本質を一瞬で見抜いていた。

(こいつが一番厄介かもしれない)


静かに敵対する者ほど危険――

加藤の直観は、その危険性を正確に捉えていた。


◆ 図枠が完成し、いよいよ本格セットアップへ

図枠が完成し、加藤はようやくSolidWorksのセットアップに取りかかった。


(3D CADっていうのは、画面の中で実物大の物を作るんだ。  

戦艦を作るのも、腕時計を作るのも、同じ“1:1スケール”

だからこそ、最初の設定が大切なんだよ)


線の太さ、文字の高さ、寸法矢印――

毎回図面ごとに設定していては時間がかかる。


冷却技術開発部のように大型部品と子部品の差が

大きい製品なら、なおさらだ。


加藤は既存のエアコン室外機を冷却機仕様に変更するため、

SolidWorksのテンプレートを冷却機向けに最適化していった。

(これでようやく、まともな設計ができる)

そう思った矢先だった。


◆ 鷲世さちよの嫌味

「ふーん……加藤さん、

また何か勝手にいじってるんですか?」

背後から、柔らかい声が落ちてきた。


振り返ると、鷲世さちよが腕を組んで立っていた。

その目は笑っていない。


「SolidWorksのセットアップです。冷却機仕様に合わせて――」

「へぇ〜、すごいですねぇ。  

でも、そんなの作っても誰も使わないと思いますけど?」

にこりと笑いながら、刺すような言葉を投げてくる。


彼女は頭が良い。

だからこそ、相手が一番嫌がるポイントを正確に突いてくる。

「それに、うちのやり方って紙図面と差し金で十分なんですよ。  

昔からそうしてきたんですから」


(出たよ……その言葉)

加藤は心の中でため息をついた。

「でも、冷却機の新規設計は3Dでやらないと進みませんよ。  

紙図面じゃ、員数や取付け穴の確認、

干渉チェックもできない」


鷲世は肩をすくめた。

「干渉? ああ、はいはい。  

そういう難しい話は、上の人に言ってくださいね。  

私、そういうのわかんないんで〜」


わからないと言いながら、

その目は“全部わかっている”と告げていた。


責任を回避するために、

わざと理解しないふりをする――

それが彼女のやり方だ。

(頭はいいのに、使い方が最悪だな……)


加藤は冷静に言葉を返した。

「とにかく、これからは3Dで進めます。  

紙と鉛筆では、もう限界ですから」

鷲世は肩をすくめ、

「ふーん、一人で勝手にどうぞ!」

と言い残して去っていった。

その背中を見送りながら、加藤は静かに決意を固めた。

(このプロジェクトは絶対に、完成させてやる)


冷却機部署の闇は深い。

だが、加藤はその闇に飲まれなかった。

静かに、しかし確かに―― 戦いは始まっていた。

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