第3章 静かな違和感と、ひと筋の光
◆ 昼休みの違和感
昼休み。 女性職員たち五人が、
いつもの大きなテーブルで食事をしていた。
•小峰清子(50歳・鷲世さちよに完全に支配されている)
•鷲世さちよ(この小さな王国の“支配者”)
•小森(さちよの取り巻き)
•他1名
……そして、いつもなら篠部佳奈もそこにいるはずだった。
しかし、その日は篠部の姿がなかった。
(あれ……篠部さん、いないな)
加藤は、自分の端末前で一人で弁当を食べている篠部を見つけた。
その横顔は、どこか沈んで見えた。
(何かあったな……)
胸の奥に、嫌な予感が静かに沈んだ。
◆ 給湯室で見た“いじめの影”
数日後。 加藤が給湯室の前を通りかかったとき、
異様な光景が目に入った。
小峰が、小森に何かを言い募っている。
その後ろには、腕を組んだ鷲世さちよ。
声は聞こえない。 だが、空気だけで分かる。
(……これは、いじめだな!)
小峰は、鷲世の機嫌を取るためなら誰でも攻撃する“猪突猛進型”。
鷲世は、気に入らない相手を無言で追い詰める“支配者”。
小森は、鷲世の逆鱗に触れたのだろう。
加藤は足を止め、静かにその場を離れた。
だが胸の奥に、重いものが残った。
◆ 篠部佳奈の“勇気”
その日の午後。
加藤は偶然、別の場所で篠部が課長に何かを訴えているのを見た。
(……あの話をしているな)
後で分かったことだが――
小森はいじめに耐えられず、退職した。
そして、いじめを見かねて課長に報告したのが篠部佳奈だった。
しかし課長は、前向きな返事だけして“動くふり”をしただけ。
実際には何もしなかった。
「見て見ぬふり」 「波風を立てない」 「正社員の保身」
(……これが、この会社の闇か)
加藤は静かにそう思った。
それでも―― (篠部さん、すごいな)
美人は性格が悪いという偏見を、
彼女は完全に覆していた。
◆ コピー用紙の場所を聞こうとしたが…
後日。 加藤はコピー用紙の場所が分からず、
篠部に声をかけようとした。
「篠部さん、ちょっと――」
しかし、別の職員が割り込んできて、
そのまま話は流れてしまった。
(……タイミング悪かったな)
◆ 篠部の“丁寧すぎる”対応
少し時間が経った頃。 CADエリアに篠部が顔を出した。
「加藤さん、先ほどはすみませんでした。
お話、聞けなくて……」
その丁寧さに、加藤は驚いた。
(こんな人、なかなかいないな)
◆ 健康診断の話で距離が縮まる
業務が終わり、帰り際。 篠部が近くを通った。
加藤は何気なく言った。
「この間の健康診断、受けました?
バリウム……飲みました?」
篠部は笑って答えた。
「飲みましたよ。あれ、苦手なんです」
加藤は独り言のように言った。
「バリウム飲んだってことは……36歳は行ってますね」
篠部は上機嫌で笑った。
「この人、やるね〜♪」
その瞬間、二人の距離がふっと縮まった。
それから、篠部は加藤に相談事を持ちかけるようになり、
加藤も自然と彼女に話せるようになった。
冷却技術開発部署の中で、
初めて“信頼できる人”ができた気がした。
◆ 病院 ― 静かな診察室で
数日後。 加藤は母親を連れて病院へ来ていた。
診察室は静かで、
壁の時計の秒針だけが淡々と音を刻んでいた。
医師が検査結果を見ながら言った。
「今までの薬が効かなくなってきています。
容態は……良くはありません」
加藤は黙って聞いた。
母は静かにうなずいていた。
「それと、足首の手術を検討した方がいいでしょう。
足首は特殊で、都内の専門病院で診てもらうことをお勧めします。
紹介状は書きます」
加藤は深く息を吸った。
母の体調。 冷却技術開発部の闇。
派遣としての立場。 そして、これから始まる戦い。
静かに、しかし確実に、加藤の心の中で何かが固まっていった。




