第36章 加藤が送った3通のメール —— その本当の意図
いよいよ今週で、熱交換課との契約が解除になる。
加藤は静かにパソコンを開き、
かつての恩師・佐久間へメールを書き始めた。
佐久間さんへのメール
佐久間さん ご無沙汰しております。
いよいよ今週で、私はこの会社との契約が解除となりますので、
一報をお伝えしておきます。
直接の部署は熱交換課になりましたが、
私にとって佐久間さんは恩師です。
今回の経緯を隠す理由もありませんので、簡単にまとめます。
■ 冷却技術開発部で起きていたこと
仕事をしていない正社員が係長に昇進し、
仕事をしている派遣社員が契約解除になる。
この矛盾を、私はずっと見てきました。
熱交換課に移った後、
冷却技術開発部での問題を相談窓口にメールしましたが、
処分は一切ありませんでした。
■ もみ消しを予測し、楠田さんへ直接メール
このままでは何も変わらないと判断し、
最高顧問である楠田さんに直接メールしました。
すぐに対応していただき、 正社員の話が出ました。
しかし── 河田部長がその話を“なかったこと”にし、
私は正社員になれませんでした。
そこで私は、不採用の事実を、
楠田CEOと片岡社長へCCを付けて報告しました。
■ 片岡社長からの返信
片岡社長から直接メールをいただき、
私は「正社員になる」と確信しました。
ところが現場では、河田部長が 「加藤を正社員にはしない」の一点張り。
派遣元の支店長まで呼び出され、大騒動になりました。
■ 河田部長の動き
河田部長は、 会社に降りかかる“脅威(加藤)”を排除するためなら、
自らの退職すら辞さない覚悟を持つ方です。
その姿勢は、ある意味で筋が通っていると感じています。
片岡社長の話では、 河田部長も早期退職の対象になるそうです。
■ 私の今後
荒木課長から、
「10月から正社員として冷却技術開発部で活躍してほしい」 と言われました。
10月に、またお会いできればと思っています。
田辺さんへのメール
田辺さん ご無沙汰しております。
いよいよ今週で、私はこの会社との契約が解除となりますので、
一報をお伝えしておきます。
冷却技術開発部では、私が退職した後に業績が大きく落ち込み、
立て直しのために3名のCAD要員を採用されたと伺いました。
しかし、思うように成果が出ず、業務が滞っているという話も耳にしました。
もちろん、私はそのことを恨む気持ちはありません。
むしろ、冷却技術開発部のために再び力になりたいと考えています。
今回いったん契約解除となりますが、
荒木課長から 「10月から正社員として冷却技術開発部で活躍してほしい」
とお話をいただきました。
もし本当にそのような形で戻れるのであれば、
これまで以上に貢献できるよう全力で取り組むつもりです。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
加藤
倉田さんへのメール
倉田さん ご無沙汰しております。
その後、お変わりなくお過ごしでしょうか。
以前は、私も感情が高ぶり、
少し衝突気味のやり取りになってしまいました。
今振り返ると、あれも冷却技術開発部を良くしたいと
いう思いから出たものだったと感じています。
あの時のご指導には、今でも感謝しております。
ただ一つだけ、心に残っていることがあります。
なぜ、あの時私は正社員にしていただけなかったのか。
あの判断が冷却技術開発部の未来にどれほど影響したのかを、
今になって強く感じています。
もちろん、恨みではありません。
むしろ、あの経験があったからこそ、私は成長できました。
さて、私事ではありますが、
今週をもってこの会社との契約が解除となりますので、
一報としてご連絡いたしました。
今回いったん契約は終了となりますが、
荒木課長から
「10月から正社員として冷却技術開発部で活躍してほしい」
とお話をいただいております。
もし本当にそのような形で戻れるのであれば、
これまで以上に貢献できるよう、全力で取り組むつもりです。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
加藤
■ この3通のメールの意図
社内メールには“裏設定”があり、
誰のメールでも閲覧できることを利用しての行動
河田部長が、
私のメールを常に盗み読みしていることも把握しているので。
今回のメールは、 前回の会議に出席しなかった河田部長に、
事実を読ませるためのものです。




