第34章 決戦前夜 —— 最後の証明
◆ 荒木課長から届いた短いメール
荒木課長から短いメールが届いた。
「面談の日程が決まりました。準備をお願いします。」
その一文を見た瞬間、 加藤の胸の奥で、静かに何かが動いた。
逃げることも、諦めることもできない。
ここが、十年のすべてを賭ける場所になる。
加藤は机に向かい、資料作りを始めた。
◆ 加藤を正社員にするメリット
最初のページに、加藤は一行だけ打ち込んだ。
「加藤を正社員にするメリット」
かつて3000円でできていた仕事が、
今は5000円かかっている なぜか?
そして、なぜ加藤なら2500円にできるのか。
その答えを知っているのは、加藤だけだった。
◆ 現場の真実:CADを使わない設計部
資料の中心に置いたのは、この一文。
「設計部でありながら、CADを使っていない。」
加藤は、現場で見てきた“現物合わせの作業”を簡潔にまとめた。
•部品を実物で並べる
•黒マジックで位置をマーキング
•板金を加工業者へ送る
•やり直しが出れば輸送コストが増える
加藤は静かに書いた。
「これは設計ではなく、現物合わせです。」
◆ CADを使った場合の手順
•仮想空間で部品をモデリング
•最適なレイアウトを検討
•図面を作成して加工依頼
その結果、
•輸送コストゼロ
•板金サイズ最小化
•干渉チェック可能
•やり直しほぼゼロ
加藤は、OCX HR620を半分の大きさにした時の感覚を思い出した。
CADを使いこなしたからこそできた成果だった。
しかし、その功績は“なかったこと”にされた。
◆ 最後の一行
資料の最後に、加藤は静かに一行を添えた。
「悔しさではなく、会社の未来への危機感で、私はここに立っています。」
◆ 面談前夜
資料を閉じたとき、外はすっかり暗くなっていた。
机の上には、十年分の経験と誇りが詰まった資料が積み上がっている。
加藤は深く息を吸い、心の中でつぶやいた。
「これで刺さらなければ、もう後がない。」
だが同時に、確信もあった。
この資料は、誰にも書けない。 加藤にしか書けない。
唯一無二の証明だ。 面談の日は、もうすぐそこまで来ていた。




