第31章 崩れゆく技術力 —— 新入社員の図面と、正社員の限界
◆ 新入社員2人と、膨大な図面修正
加藤は、1年ほど前から新入社員2人と一緒に、
中国生産機種を日本仕様へ作り変えるための図面修正を続けていた。
中国と日本では鋼材規格が違う。LJ-IF 100〜800までの8シリーズ。
膨大なボリュームだが、板厚が変わる程度の修正が中心で、
新入社員にはちょうど良い教育になるはずだった。
(完成したとされる図面を毎日少しずつでも
確認してくれればいいんだが……)
しかし、武藤はその“少しずつ”すらできなかった。
◆ 半年分 × 2人分の図面が未確認のまま積み上がる
新入社員が描いた図面は、武藤が確認して出図するはずだった。
だが——
半年分 × 2人分。 膨大な未確認図面が棚に積み上がっていた。
武藤はついに加藤の席へ来て、 申し訳なさそうに頭を下げた。
「……加藤さん、助けてもらえませんか」
加藤はため息をつきながら、未確認図面を1枚だけ開いた。
完成率—— 30%程度。半年分 × 2人分
(……これじゃ、出図できるわけがない)
加藤は、楠田さんにメールを打ちたい衝動を抑えながら、
残業で対応するしかなかった。
(これでは、優先順位が低い外形寸法図…… あれは合わせて
80機種以上あったけど、出図はまた遠のいたな)
◆ 長谷川との衝突 —— “出図済みの図面”のぼんミス
翌日。 正社員の長谷川が、TUBE SHEET の図面を持ってきた。
長谷川は部署で No.1 と言われる人物だ。
しかし、その手に持っていた図面は
すでに出図済みの図面だった。
つまり、製造現場に渡っている。
そのまま作られてしまう可能性がある。
加藤は図面を見て、静かに言った。
「穴位置の座標が良くないです。
X方向もY方向も累積寸法になってますよね。
物は作れると思いますが、寸法の入れ方がダメです」
長谷川の顔が強張る。
加藤は続けた。
「穴の寸法を入れるなら、
X軸とY軸が交わる穴に穴径寸法を入れる。
必要なら、その穴に断面を入れる。
でもあなたは“違う穴”に断面を入れてます。
良くないですよ」
長谷川は動揺し、言葉を失った。
(……出図済みの図面でこれはまずい)
加藤は静かに付け加えた。
「物は作れるから大丈夫です。 改正する必要も無いですよ」
翌日から、長谷川は挙動不審になった。
加藤はそれを察し、 長谷川の NG 図面数枚をそっと隠し、
見せないようにした。(……壊れる前に守らないと)




