第30章 派遣元との緊迫面談 —— 真実を突きつけられた者たち
◆ 派遣元との面談 —— 異様な空気
河田部長との面談が終わった翌日。
派遣元の貞富と支店長が、加藤の前に座った。
二人とも、まるで“処分を言い渡す”かのような険しい表情だった。
(……なんだ、この空気)
貞富はいつも13時10分に来る。
だが今日は、一時間も遅れている。
その“遅れ”が、加藤の胸に小さな違和感を生んでいた。
◆ 支店長の切り出し —— いきなり核心
支店長は、いきなり言った。
「加藤さんは違法行為をしていますね」
(……は?)
加藤は眉をひそめた。
「なぜ、その話になるんですか?」
支店長は淡々と続けた。
「連絡がありましてね。
“うちの社員が良くないことをしている”と。
急遽、私が来ました。まずは情報共有をしたい。ご説明願います」
その口ぶりは、 まるで“すでに結論が決まっている”ようだった。
◆ 支店長は“すべて知っている”ように話す
加藤は、2年前の契約解除からの経緯を説明した。
•通報窓口にメールした
•不良従業員に処分はなかった
•人事部長が定年で話が止まった
•何も変わらないので楠田さんにメールした
•人事課長と面談し、正社員の話が出た
•しかし人事部長が揉み消した
ここまで話すと、支店長はすぐに言った。
「加藤さんが正社員になれなかった理由は、
冷却技術開発部署がCADを使わない部署に変わったからです」
(……なぜそれを知っている?
俺が今から話す内容を、まるで“先に聞いていた”みたいだ)
加藤が口を開くたびに、支店長は遮る。
「例えそうでも、言われた通りにやってください」
(……完全に“結論ありき”の話し方だ)
◆ 紙図面に逆戻りした冷却技術開発部署
加藤は静かに反論した。
「CADを使わない? じゃあ、俺が配属した頃の作業に
戻ったんですか? 紙図面の寸法を書き直すだけの、
“設計とは言えない作業”に」
支店長は目をそらし、短く言った。
「……言われた通りにやってください!」
(図星か)
◆ 違和感の正体を突く
加藤は支店長の態度に確信を持ち始めた。
「貞富さん、今日はいつもより来るのが遅かったですね」
貞富の表情がわずかに揺れた。
「……それが何か?」
加藤は続けた。
「誰かと話していたんじゃないですか?
例えば――河田部長とか、荒木課長とか」
空気が一瞬止まった。
貞富と支店長の目が泳ぐ。
加藤はさらに踏み込んだ。
「事前に打ち合わせをして、口裏を合わせる。
俺を追及するための“筋書き”を作った。
それ、共謀に当たる行為じゃないですか?」
支店長の顔色が変わった。 貞富も、何も言えない。
◆ 支店長の“決めつけ”を崩す一言
支店長は、加藤の説明を遮るように言った。
「加藤さん。 あなたは“正社員にしてくれ”と
派遣先に直接言ったんですよね。
それが問題なんです!」
加藤は静かに首を振った。
「……言ってませんよ。一度も、誰にも」
支店長の顔から、緊張がスッと抜けた。
「……え??」「……ん?」
加藤は淡々と続けた。
「最初に楠田さんに送ったメールにも、
その後の不採用連絡メールにも、
“正社員にして下さい”なんて一言も書いていません。
CCに社長のアドレスを入れただけです」
支店長は一瞬、言葉を失った。
(……じゃあ、俺が聞かされていた話は何だったんだ?)
その表情は、 “安心”と“困惑”が同時に押し寄せた顔だった。
◆ 加藤が伝えるべき「3つの真実」
加藤は静かに、しかし確実に言った。
① 河田部長の“CADを重視していない”という嘘
「河田部長は“CADを重視していないから採用しない”と言いました。
ですが、私が契約解除された後、冷却技術開発部署は
CAD要員を3人も雇っています。 CADを重視しない部署が、
3人もCAD経験者を採用しますか?」
支店長の目が大きく開く。
② 問題社員を放置していたことが“上司にバレた”発言
「二つ目。 録音はありませんが、河田部長は私にこう言いました。」
『不良従業員たちに何もしていないことが、 上の人にバレた』
支店長の表情が固まる。
③ 前回の面談は“社長の指示”だった
「三つ目。 前回の面談は、片岡社長の指示で行われたものです。
社長が“加藤を正社員にしてやってくれ”と 河田部長に直接言ったそうですね。
その社長の指示を、河田部長は無視したんですよ。」
支店長の顔が険しくなる。
◆ 加藤の締めの一言
「支店長。 社長の言うことを聞かない部長……
今後、大丈夫なんですかね?」
その言葉は、 支店長の胸に深く突き刺さった。
支店長は初めて、 “自分が聞かされていた話は、
河田部長の作ったストーリーだった” と気づき始める。
会議室の空気は、 静かに、しかし確実に変わり始めていた。




