第29章 希望の再点灯と、露骨な妨害 —— 会議室での決裂
◆ 社長からの直メール —— そして人事が再び動いた
社長からの返信メールを受け取った翌日。
加藤のメールボックスに、人事からの連絡が届いた。
「面談のアポイントを取りたい」
その一文を見た瞬間、 加藤の胸は久しぶりに高鳴った。
(……今度こそ、正社員採用の話だ)
社長が「人事より改めて説明させる」と言った。 それはつまり、
•人事の判断を信用していない
•冷却技術開発部署の判断も信用していない
という意味だ。
加藤は胸の奥で静かに希望を感じていた。
◆ 会議室へ —— 落ち着かない期待
面談当日。 加藤は約束の時間より少し早く会議室に着いた。
椅子に座っても落ち着かない。
指先がそわそわと動き続ける。
(……今日で、長かった戦いが終わるかもしれない)
そんな期待が胸を満たしていた。
やがて、会議室の扉が静かに開いた。
河田部長。 荒木課長。
二人とも、笑顔は一切なかった。
(……また、このパターンか?)
胸の鼓動が、期待から警戒へと変わっていく。
◆ 社長の指示を“無視する”部長
河田部長は椅子に腰を下ろすと、
開口一番こう言った。
「加藤さんを正社員にする件ですが……
社長から“加藤を正社員にしてやってくれ”と直接言われました」
その言葉のはずなのに、 声には怒気が混じっていた。
(社長の指示を無視する気なのか?
本当に大丈夫なのか、この人……)
加藤は静かに河田の表情を見つめた。
◆ “違法行為”という虚偽の恫喝
河田は書類を机に叩きつけるように置き、加藤を睨みつけた。
「加藤さん。あなたは派遣先の社員で、
私たちは大手家電メーカーの社員です。
個人で行う行為は“引き抜き行為”に当たり、
違法になります。 あなたのしたことは違法行為に該当します。
派遣元に連絡し、厳しく処分するようお願いするつもりです」
会議室の空気が一瞬で凍りついた。
加藤は久しぶりに頭に血が上った。
しかし、あえて冷静な声を保った。
「……この集まりは、私を正社員にする目的ではないのでしょうか?」
「だから、それが違法行為だと言っているんです!」
河田の声が跳ね上がる。
◆ 加藤の冷静な反論 —— “私は頼んでいない”
加藤は静かに言った。
「最初に楠田さんへ送ったメールにも、
その後の“不採用のご報告メール”にも、
私は一度も“正社員にしてください”とは書いていません。
もう一度言います。私は頼んでいません。
CCに社長のアドレスを入れただけです。」
河田の顔が歪む。
「……違法とは具体的にどんな行為ですか?
私は引き抜き行為などしていません」
その瞬間、河田の表情がみるみる変わった。
怒りを抑えきれず、ついに叫んだ。
「片岡社長にいくら頼んでも、あなたを絶対に正社員にはしません!!」
加藤は淡々と返した。
「だから、私は頼んでいませんけど?」
その冷静さが、逆に河田の怒りを刺激した。
◆ 正社員にできない理由 —— 部署が“CADを捨てた”
「そもそも、なぜ私は正社員にできないのですか?」
河田は鼻で笑い、言い放った。
「加藤さんがいた頃とは違い、
今の部署はCADをあまり使用しない部署に変わったんです」
加藤の脳裏に、
冷却技術開発部署が再び“紙図面の時代”に逆戻りする光景が浮かんだ。
(CADを使わない部署……?
図面の寸法を変えるだけの作業に戻るつもりか?
そんな部署に未来があると思っているのか?)
胸の奥から、怒りと虚しさが込み上げてくる。
◆ 会議室の空気は完全崩壊した
河田は続けた。
「加藤さん、今の部署で不自由なく仕事ができているのであれば
問題無しなのでは?」
「あなたが黙ってくれていれば、
大勢の人が安心できると思います。」
その言葉は、加藤の胸に深く突き刺さった。
(……黙っていれば安心?
つまり、真実を隠したいだけじゃないか)
会議室の空気は、もう完全に破綻していた。
加藤は静かに息を吸った。
そして、心の奥で決意した。
(……この会社の“本当の姿”を、俺はもう見逃さない)




