第28章 閉ざされた扉と、再び動き出す影 —— 社長からの直メール
◆ 加藤は再び文章を作成していた
—— 楠田さんへ送るために
正社員面談の結果は「不採用」。
その事実を、
加藤は 楠田さんに正しく伝える必要がある と感じていた。
夜。 熱交換課の図面作業を終え、
静かな部屋でパソコンを開く。
画面の白いメールフォームを前に、
加藤はゆっくりと文章を打ち始めた。
◆ ✉️ 楠田さん宛メール(不採用報告)
件名:正社員採用の件につきまして(ご報告)
楠田様 熱交換課の加藤元です。
この度はご足労いただき、誠にありがとうございました。
改めて表題の件をお知らせいたします。
結果は、不採用でした。
前回の最初のミーティングでは、
•「会社側が悪いです」
•「冷却技術開発部署と交渉してみます」
と前向きな意見をいただき、
私も楽しみに待っておりました。
しかし今回のミーティングでは、
私が我慢する結果となりました。
仕事をサボっていた関係者には制裁もなく、
「当時の状況を知る人がもう残っていない」という理由でした。
私の意見を聞いてしまうと、
事実関係が露呈するため、
“何もしない”という判断だと推測しております。
以下、経緯をまとめます。
■ 経緯まとめ
冷却技術開発部署では、
SolidWorksのセットアップを私が行い、
そこから3D設計が本格的に始まりました。
8年11か月分の業務は、
すべて正社員の実績として横取りされました。
横取りした人は係長に昇進し、私は契約解除となりました。
パワハラ相談窓口に投稿した際は部署がざわつきましたが、
現在、加害者たちは普通に勤務しております。
私は一人負けで良いのでしょうか。
我慢しろと言われるなら、諦めるつもりです。
念のため、社長のアドレスをCCに添付し、送信いたします。
加藤元
加藤は深く息を吸い、 静かに送信ボタンを押した。
メールが送信された瞬間、 胸の奥に小さな痛みが走った。
(……これで終わりかもしれない)
そう思いながら、 加藤は画面を閉じた。
◆ 翌朝 —— 社長からの直メール
翌朝。 社内メールの受信音が鳴った。
差出人の欄に表示された名前を見た瞬間、
加藤の心臓が大きく跳ねた。――社長。
画面を開く手が、わずかに震える。
◆ 社長からの返信
件名:メールを頂戴した件につきまして
加藤さん
片岡です。メールを頂きましてありがとうございます。
以前の冷却機事業を始め、
現在の熱交換事業所にご尽力を頂いており大変感謝しております。
前回、楠田さんへお送り頂いた内容についても、
人事よりお伺いをしました。
お送りいただいた資料から、
様々な取り組みを頂いておりまして、
CAD業務の重要性も記載頂いている通りかと思います。
今回の正社員採用の検討の結果、
ならびに以前の冷却技術開発部事業における
派遣満了の経過につきましては、
改めて人事よりご説明させて頂きます。
どうぞよろしくお願いいたします。
片岡




