第24章 廊下での対峙 —— 真実を突きつけられた男
◆ 偶然の再会ではなかった
熱交換課の業務を終え、加藤が廊下を歩いていると、
前方から倉田が歩いてくるのが見えた。
以前のような、あっけらかんとした笑顔はどこにもない。
まるで何かに怯えるように視線を逸らし、
足早に通り過ぎようとした。
(……田辺に何か言われたな)
加藤は直感で理解した。
そして、逃げようとする倉田の進路を、
静かに塞いだ。
「倉田さん。少し、いいですか」
倉田の肩がビクリと震えた。
◆ 加藤の問い —— “事実”だけを淡々と突きつける
「一流大学の機械工学科を卒業した
“精鋭”の皆さんは、活躍していますか?」
倉田は答えない。
加藤は続けた。
「会社の中枢を担う“頭脳集団”は、
大きな責任を背負える集まりでしたか?」
沈黙。
「結局、会社が大金を払って時間を掛けて教育した正社員は、
CADの操作すらできない。」
倉田の喉が、ごくりと鳴った。
「だから、昔みたいに図面の数字だけを書き換えて、
寸法を無理やり合わせる“原始的な修正”に戻ろうとしている。」
加藤は一歩近づいた。
「それとも、下請けに丸投げですか?」
倉田の顔が強張る。
「どちらにしても……出来の悪い人達の集まりでしたね」
◆ 個人としての“責任”を突く
「倉田さん。奥様を毎晩、遅くまで待たせてましたよね。
30分は必ず。 朝ならまだしも、夜遅くにあれは負担が大きい。」
倉田の表情が曇る。
「その“傲慢な心構え”が、冷却技術開発部署をダメにしたんですよ」
◆ 守るべき人を守らなかった罪
「真面目に働いていた中原さんは再雇用無し。
制御盤設計で力になってくれた長澤さんも派遣のまま。
部署の雑務を全部こなしてくれている篠部さんも派遣のまま。」
倉田の目が揺れる。
「仕事ができる人。
人として尊敬できる人。
そういう人を大切にしなかった。」
加藤は最後に静かに言った。
「倉田さん。 あなたが無能だからです。
自覚してください。」
倉田は言葉を失い、ただ立ち尽くした。
◆ そして——佐久間が現れる
廊下の奥から、ゆっくりと佐久間が歩いてきた。
その姿は静かだが、空気が一瞬で張り詰める。
佐久間は加藤の横に立ち、倉田をまっすぐ見据えた。
「……こうなることは、最初から分かっていたんだよ、倉田」
怒鳴り声ではない。
しかし、廊下の空気が一瞬で冷えた。
倉田が顔を上げると、佐久間は淡々と続けた。
「だから、あのとき言ったんだ。
“加藤くんを正社員にしてやってくれ”と」
倉田の表情が凍りつく。
「お前は笑ってごまかしたな。
『学歴が』だの『派遣だから』だの……
そんなくだらん理由で、目の前の才能を見捨てた」
佐久間は一歩近づいた。 逃げ道を塞ぐように。
◆ 倉田の言い訳 —— 完全粉砕
倉田は震える声で言葉を絞り出した。
「……ち、違う……俺は……
会社の基準に……従っただけで……
べ、別に加藤くんを軽視していたわけじゃ……」
その言い訳は、 自分でも信じていないような弱々しいものだった。
佐久間は冷たく言い放つ。
「基準に従った……? なら聞くが、
誰がその“基準”を使って人を切り捨てた」
倉田は息を呑む。
「お前だよ、倉田。 “会社のせい”にして、
自分の判断を誤魔化しただけだ」
倉田の肩が震えた。
◆ 佐久間の静かな怒り
「中原さんの扱いも、長澤くんの扱いも、
篠部さんに押しつけた雑務も……全部だ。」
「お前は“人”を見なかった。 見ようとしなかった。」
倉田は唇を震わせ、 それでも必死に言い返そうとした。
「……俺だって……努力は……して……」
その瞬間、佐久間の声が鋭く切り込んだ。
「努力……? “努力しているつもり”の人間ほど、
一番タチが悪いんだよ」
倉田の目が大きく見開かれる。
「結果も出せず、人も育てられず、
責任だけは他人に押しつける。
そんな努力は、努力とは呼ばない」
倉田は完全に言葉を失った。
佐久間は最後に、淡々と告げた。
「……自覚しろ。 お前が耳を塞ぎ、
目を逸らし “自分は悪くない”と逃げ続けた結果が、
今の惨状だ。 皆を苦しめたのは、お前自身だ」
怒鳴り声よりも重いその言葉が、
倉田の胸に深く沈んでいく。
倉田はその場に立ち尽くし、
加藤はただ黙って見つめていた。




