第22章 静かに示された実力と、誰も気づかない価値
◆ 熱交換課での最初の業務 —— 外形寸法図40機種
熱交換課での最初の業務は、
驚くほど単純だった。
——販売している全機種の外形寸法図を作る。
40機種以上。 初めて触る2DCAD。
予備日も含めて 10日間の業務計画 を立てた。
(……少し時間をもらいすぎたかな)
ほんの少しだけ不安があった。
だが、作業を始めるとすぐに分かった。
この程度なら、問題にもならない。
基準線の取り方、寸法の置き方、図面の“見せ方”。
それらは、冷却技術開発部署で何百枚もの図面を整えてきた経験が
自然と手を動かしてくれる。
加藤は淡々と、しかし正確に、一枚ずつ仕上げていった。
◆ 業務完了 —— 想定より早すぎる納品
10日間の予定だったが、
加藤は 予定より大幅に早く 作業を終えた。
報告に行くと、武藤はあけらかんとした顔で言った。
「えっ……そんなに早く終わるの?」
驚きというより、
“想定外すぎて理解が追いつかない” そんな表情だった。
「はい、問題ありませんでした」
加藤は静かに頷いた。
それだけの会話で終わった。
◆ この作業は“表に出ない” —— 工数ゼロの現実
武藤は受け取った図面を確認することもなく、
ただ机の端に置いただけだった。
•作業工数にもならない
•実績にもならない
•評価にもならない
ただ淡々と、加藤がこなしただけの仕事として
記録にも残らず消えていった。
(……まあ、こういう仕事もある)
加藤は静かに受け止めた。
だが、心の奥ではわずかな違和感が広がっていた。
(俺の力量を見たいだけの仕事…… それは構わないけど、
“評価しない”という空気は、冷却技術開発部署と同じだな)
◆ 加藤の観察 —— 2F熱交換課の“空気”
加藤は、配属初日から感じていた。
この部署は、
•スキルより“勝ち負け”を気にする
•経験者から学ぶ姿勢がない
•改善より“現状維持”を選ぶ
そして今回の外形寸法図の仕事も、
その空気を象徴していた。
(……俺の仕事は、ここでも“見えない仕事”になるのか)
冷却技術開発部署で何度も味わった感覚が、
また静かに胸に戻ってきた。
しかし加藤は、その感情に飲まれることはなかった。
(評価されなくてもいい。 俺は俺の仕事をするだけだ)
加藤は、別の戦いの準備をしていた。




