第20章 運命線の予兆と、第二ラウンドの始まり
◆ 退職翌日 —— YouTubeの“偶然”が運命を告げる
退職後。
加藤は気を紛らわせるように YouTube を眺めていた。
その中で、ふと目に留まった一本があった。
——手相の先生が、運命線について語る動画。
先生は言った。
「運命線が地丘から出ている人は、
ご先祖様からの守護がある人です」
加藤は自分の右手を見た。
(……地丘から出てるな)
先生は続けた。
「そして、運命線が“感情線のところでズレている人”。
これは55歳前後に、大きな試練が訪れる相です」
加藤の指が止まった。
運命線は、感情線のところで確かにズレていた。
加藤は今年52歳。 その“55歳”は、もうすぐそこだった。
(……3年後か)
先生はさらに言った。
「この試練を乗り越えた人は、
その後の人生で“本当の使命”に出会います」
加藤は静かに手を握った。
(退職は終わりじゃない。
これは……試練の序章だ)
胸の奥に、確かな光が宿った。
◆ バイク教習所 —— 自分の時間を取り戻す
加藤はバイク教習所に通っていた。
冷却技術開発部署で失われていた“自由”を取り戻すように、
エンジン音に集中する日々。
(……また大手電機メーカーに戻れないかな)
そんな思いがふと胸をよぎった。
◆ ハラスメント相談窓口の存在
会社にはハラスメント相談窓口があった。
冷却技術開発部署で起きたこと——
陰口、責任転嫁、契約解除の根回し。
(これはもう、ハラスメント以上の領域だろう)
もし戻れたら、 そこで相談しようと加藤は考えていた。
◆ 「戻りたい」ではなく「不当な扱いを正したい」
加藤は冷却技術開発部署に戻りたいわけではなかった。
ただ——
•藤沢の陰口で契約解除されたこと
•正当な評価を受けられなかったこと
これらを会社に正しく伝えたいという気持ちがあった。
(会社として、これは見過ごしていいのか?)
そう思ったからだ。
◆ 貞富からの電話 —— “道が開いた瞬間”
ある日、スマホが震えた。
「加藤さん、冷却技術開発部署の下の階で募集がありまして。
もしよければ、面接を受けませんか?」
その言葉は、 まるで“加藤の願いを叶えてあげる”
そんなメッセージのように聞こえた。
(……戻る道ができたな)
「はい、受けます」
加藤は静かに答えた。
◆ 2Fフロアでの面接 —— 即採用
面接官は二人。
•石上
•津田
加藤が部屋に入ると、
石上は加藤の顔を見た瞬間、履歴書をほとんど確認せずに言った。
「加藤さん、いつから来られますか?」
(……もう採用前提だな)
「いつでも大丈夫です」
「では、よろしくお願いします」
それは、即採用の宣告だった。
◆ 2F熱交換課での再スタート
配属先は石上課長の部署。
直接の上司は小峰課長。
石上は言った。
「うちは年齢層が若い部署なので、
ベテランがサポートしていただけると助かります」
加藤は少しだけ期待した。
(協力し合う空気があるのかもしれない)
◆ SolidWorks標準フォーマットが存在しない
配属初日。 加藤は簡単な業務を任された。
だがすぐに違和感に気づく。
熱交換課で使うべき
SolidWorks標準フォーマットが存在しない。
どこかの部署のフォーマットをコピーして使っているだけ。
•誰も作っていない
•誰も必要性を理解していない
加藤は改善提案をしたが、反応は薄かった。
◆ “分かろうとしない人たち”
問題はスキルの差ではなかった。
•理解しようとする姿勢が無い
•経験者から学ぼうとしない
•負けたくないという感情が先に立つ
加藤は思った。
(学歴が高いとか、CAD経験があるとか、
そんな肩書きはどうでもいい。
仕事に向き合う姿勢が小さい人間は、
結局どこの世界でも伸びない)
彼らは “小さな勝ち負け” にこだわるあまり、
自分よりスキルの高い加藤の話を聞くと負けだと思ってしまう。
だから耳を塞ぐ。
だから改善が進まない。
成長もしない。
◆ 加藤の観察 —— 再び見えてきた“会社の本質”
加藤は冷静に状況を見ていた。
•CADスキルは明らかに自分の方が上
•だが誰も聞こうとしない
•“学ぶ姿勢”より“くだらないプライド”が優先
•結果として部署全体の質が低いまま固定されている
加藤は静かに呟いた。
(肩書きや学歴を守るために仕事を捨てる人間が、
こんなに多い会社とは)
そして胸の奥で静かに燃えるものがあった。
(……ここでも、俺は戦うことになるのか)




