第16章 崩れゆく職場と、再生する家族
◆ 母の退院 —— 清らかな朝の神社参り
手術後の経過は良好で、
母は今週退院することになった。
退院当日の早朝。 母は言った。
「近くの神社にお参りしたいねぇ」
通勤時間のざわめきが始まるころ、
加藤は母の車椅子を押しながら神社へ向かった。
空気は澄み、朝日は柔らかく、
まるで世界が母の退院を祝福しているようだった。
(……この光景を、ずっと守りたい)
加藤は静かにそう思った。
◆ 新機種 OCX HR420 の設計開始
OCX HR420 の設計に取り掛かっていたころ、
部署に新しい職員が入ることになった。
◆ 倉田の人材選びの崩壊
倉田が“自信満々”で連れてきた正社員3名。
•椎名
•笹川
•源田
倉田は胸を張って紹介した。
「高学歴で優秀な人材を選んできた」
誇らしげだった
。
外見だけ見れば、確かに「仕事ができそう」に見えた。
しかし—— 業務が進んでいる気配はまったくなかった。
CADルールを理解しようとせず、
資料を読んでも頭に入らず、
作業工数は増えるのに成果は出ない。
倉田が「優秀」と言った3名は、
職場ではただの “負担” になっていった。
◆ 一方で、加藤の業績は異常なほど順調だった
本来この部署では、
一機種につき5人で一年かけて作るのが当たり前だった。
しかし加藤は、
その作業を ほぼ一人で、確実に前へ進めていた。
担当の入先はモンスターストライクに夢中で戦力にならない。
むしろ邪魔だが、倉田部長には好印象らしい。
OCX HRシリーズは順調に進み、
•OCX HR620
•OCX HR520
•OCX HR420
•OCX HR320
加藤は入社から4年で 4機種目を完成間近 にしていた。
倉田が“自信満々”で連れてきた3名は、
時間が経つにつれて、その実力が露骨に露わになっていった。
◆ 椎名と笹川 —— 実績が出ず、他部署へ異動
椎名と笹川は、
•作業工数が上がらず
•実績は常に最低ライン
•CADルールを理解できず
•作業スピードは遅いまま
最終的に二人は「戦力外」と判断され、
静かに他部署へ異動となった。
◆ 源田 —— 早々に退職
源田は、入社当初こそ真面目に見えたが、
業務の難しさに耐えられなかった。
CAD操作も覚えられず、 図面の意味も理解できず、
周囲に助けを求めることもできない。
そしてある日、突然会社に来なくなり、
そのまま退職した。
◆ そして、残酷な結論が浮かび上がる
倉田が胸を張って連れてきた3名は、
誰一人として戦力にならなかった。
椎名と笹川は異動。 源田は退職。
そのころ、加藤は一人で 4機種目を完成 していた。
誰も作らず、 誰も整えず、
誰も責任を取らなかった“土台”となる基準フォーマットを、
加藤だけが静かに作っていたからだ。
加藤は、
この部署で唯一の “新しい作業方法を先行して作れる人間” だった。
その対比は、部署の現実を残酷なほど浮き彫りにしていた。
しかし加藤の努力は、 “派遣だから”と軽く扱われる。
◆ 母への家 —— 加藤家の悲願
加藤は、母に家を買ってあげることにした。
母は満州の引揚者。
両親がいない。 兄が二人いるが、兄妹はばらばら。
「自宅を持つこと」 「家族が帰る場所があること」
それは加藤家の悲願だった。
超低金利政策もあり、ローンが組めた。
(……役立たずの父親抜きで、ここまで来れたな)
加藤は静かに、しかし深く感無量だった。
◆ 新たなシリーズ OCX KS620 の設計開始
OCX HRシリーズの開発が終わり、
新たに OCX KS620 の設計に取り掛かっていたころ、
部署にまた新しい職員が入ることになった。
◆ 倉田が“遠征して選んだ”2名
正社員が2名入ることになった。
倉田はわざわざ遠方まで出張し、
「自分が選んだ最高の人材」 として2名を紹介した。
高学歴で、CADの実務経験もあるという。
しかし彼らが使っていたのは、
手書きのドラフターを少し良くした程度のCADアプリケーション。
倉田はそれを得意げに語っていたが、
加藤は最初から期待していなかった。
◆ 加藤の予感は当たる
加藤はCADルールを教えるために時間を空けて待っていた。
しかし2人は来なかった。
(……派遣を軽視している空気を察したのか)
結局、CADルールを無視したまま業務を進めることになった。
そして加藤が彼らの3Dデータを見た瞬間、心の中で呟いた。
(……二度とやらないでほしい)
その3Dモデルの作りは ガラクタ だった。
入先や吉口の「やらない」という選択肢の方が
まだ正しいと思えるほどだった。
◆ 加藤の結論:面接では人は見抜けない
加藤は思った。
面接と履歴書、職務経歴書だけでは、
人の良し悪しは見抜けない。
そもそも人を見る力がない上に直感力のない倉田。
学習能力すらないのは、最悪な無能な上司だ。
結局、真面目に働く者がバカを見る部署。
鷲世、入先、飯野課長の業務方法が“正しい”ことになる。
真面目に働く人がバカを見る部署とは分かっていたが、
静かな怒りと虚しさが広がった。




