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第10章 導かれる者

◆ シンクロニシティ ― 見えない力に気づく瞬間

その日、加藤は何気なく動画サイトを眺めていた。

特に目的があったわけではない。

ただ、疲れた心を紛らわせるように、

流れてくる動画をぼんやりと見ていた。


ふと、動画内の先生が言った。

「神秘十字線、地丘に向かう生命線、

そして聖職紋……  

この3つが揃う人は“導かれる人”です」


加藤は思わず左手を見た。

手の中心付近に、確かに十字の線がある。

生命線は地丘へ向かって伸びている。

人差し指の下には、

細い横線と縦線がいくつも並んでいた。

(……全部、ある)


胸の奥がざわついた。

直感が働いた。 これは偶然ではない。

•危機を察知し、避ける力

•先祖からの強い守護

•見えないものに守られている

動画の言葉が、妙に自分に当てはまる気がした。


◆ 加藤の“見抜く力”と、普通の人の“見えなさ”

加藤には、鷲世や入先が

「仕事をしていない」

「中身が空っぽ」 ということが、

数分で分かってしまう。


言葉の端、視線、態度、資料の扱い方――

そのすべてが“仕事をしていない人間”の特徴を示していた。


しかし―― それを見抜けない人が普通なのだ。

この事実に、加藤は少しショックを受けた。

(……みんな、本当に見えていないのか)

自分が“特別な感受性”を持っていることを、

このとき初めて自覚した。


◆ 陰口による評価の低下 ― 辞めようかと考えた日

鷲世、入先。 この二人の陰口によって、

加藤の会社での評価は底辺に落とされていた。


実際には、加藤が誰よりも早く出社し、

誰よりも丁寧に仕事をしている。

しかし―― 陰口は事実を上書きする。

(……もう辞めようか)

そんな考えが、何度も頭をよぎった。


◆ 倉田ふみひこ部長 ― ダメ部署の黒幕

ラグビー選手のような体格。

しかし自力通勤はせず、奥様の送り迎え。

夜遅くに迎えに来させても、

待ち合わせに遅れても、

悪びれる様子は一切ない。

奥様の不機嫌な表情にも気づかない。


そして何より――

自分の目で人を見ず、噂話だけを信じる。

この性質が、会社の闇を加速させていた。


倉田は「会社を良くしたい」と口では言うが、

その判断は常に見当外れで、

結果として “ダメ部署の黒幕” になっていた。



◆ 倉田と田辺 ― 個室での“謎の説明”

倉田は、何かあるたびに田辺を個室に呼び出していた。

ドアが閉まると、長い説明が始まる。


資料もメモもない。

ただ、倉田が思いついたことを、

思いついた順に話すだけ。


加藤は心の中でつぶやいた。

(……口頭で話したことなんて、

半分も覚えてないだろうな)


倉田の説明は、説明ではなく“説教”に聞こえた。

内容は薄く、論点は揚げ足取り。 結論もない。

それでも倉田は満足げに頷き、田辺を送り出す。


◆ 加藤から見た田辺 ― 優秀なのに“成長を阻害されている”

田辺は優秀だ。 理解力もあるし、

図面を読む力もある。

本来ならもっと伸びる人材だ。

しかし―― 倉田という“ノイズ”が、

田辺の成長を阻害していた。


加藤には分かっていた。

(……あの頷き、理解じゃなくて“聞いてますよ”の合図だろ)


倉田は、頷きの種類の違いすら読めない。

•納得の頷き

•反論を飲み込む頷き

•早く終わってほしい頷き

•とりあえずの相槌としての頷き

田辺はその“ノイズ”を処理するだけで疲弊していた。


◆ 加藤 ― 「読めない」倉田に対して、心の中でアドバイスを考える

倉田は今日も田辺を個室に呼び出し、

長い説明を続けていた。

田辺は静かに相槌を打っている。

しかし加藤には分かっていた。


(部長へ……)

(① 相手の呼吸を読んでほしい   

呼吸を読むことで頷きの意味も理解しやすくなる)


(② 噂話じゃなく、自分の目で心で人を見てほしい  

先入観で人を見るから関係が歪む。会社も歪む)


(③ 田辺の力を信じてほしい。

成長を止めているのは……  

無能部長、ふみひこおめえだよ!)

  

加藤は心の中で静かにそう呟いた。


◆ 母の入院の日程 ― 思い出す“あの出来事”

自宅で母と入院の日程の話をしていた。

母は言った。「元が一人だと心配だよ」

その言葉で、加藤は“あの日”を思い出した。


◆ 突然の異変

2階で昼寝をしていたとき、

突然胸が苦しくなった。

胸が硬くなり、呼吸ができない。

とても苦しい。 声が出ない。


枕元の携帯を手にし、

自宅に電話をかけた。

這いつくばり階段のところまで来た。


母は電話のディスプレイを見たのだろう。

息子の番号を確認し、

電話に出ないまま階段を上がってきた。


◆ 死の間際に見た“映像”

死ぬ間際、

色々な場面を見せられると言われている。


加藤が見たものは、あるテレビ番組だった。

意識を失った女性が深い水たまりに落ちて助かる話。


白衣の人物が説明していた。

「十数分間呼吸ができない状態で、

なぜ彼女は助かったのか?

 

彼女の場合、意識を失っていたためです。  

体を動かすパフォーマンスが少ないほど、

体内の酸素を使い切らずに済むのです」


コメンテーターが言った。

「そりゃ苦しければ体をもがき回すでしょう」


白衣の人物は続けた。

「極限まで苦しい状態だと、体をもがきます。  

しかしそのパフォーマンスが体内の酸素を使い切り、  

寿命を早く縮めます。

 

彼女の場合、意識がなかったことで酸素が保たれ、  

十数分間耐えられたのでしょう」


その話を思い出した加藤は、覚悟を決めた!

無駄なパフォーマンスを止めた!!! 

体を動かさず、酸素を使わないように。


◆ 母の救い

「どうしたの〜!」

上がってきた母は、

壁に寄りかかっている息子を見て、

すぐに救急車を呼んだ。


◆ 体と心が分離する感覚

救急隊が到着し、

加藤をタンカーに乗せた。

その瞬間――

自分の体と心が分離したような感覚があった。


タンカーに乗せられている自分を、

“外側から”見ているようだった。

救急隊の行動も、会話も、すべて覚えている。


◆ 救急隊と医師の会話が聞こえる

救急隊員が人差し指に何かをはめ、

受け入れ先の病院の医師と連絡を取っていた。

「35歳くらいの男性。中肉中背。

呼吸停止。意識不明。  

血ガス……33。いや、30です」


医師の声が聞こえた。

「30か……かなりまずいな。管を通すかもしれない」


救急隊員が答える。

「10分くらいで着きます」


その会話を“外側の自分”が聞いていた。

救急車内で酸素マスクを当てられたとき

―― 呼吸が戻った。

(これで助かりそうだな)


◆ 母への想い

息子の心配より、自分の体を心配してくれ。

手術を無事に済ませて、またビールで乾杯しようぜ。

(母さんには悪いことをしたな……  

息子の死顔を見せてしまった)


加藤は静かに目を閉じた。

(強い守護か……  いや、超ドSの守護だな……

死ぬほど苦しかったぜ

 ……いや 死んでいたのか? 苦笑)

その後、加藤は携帯電話を買い、

母と入院中でも連絡できるようにした。

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