第3.5話:服従せよ
空の忘れ去られた片隅、空気が最も澄み渡り、光が絶えることのない場所に「金色の三つ葉の神殿(ゴールデン・クローバー神殿)」はある。そこには、皇帝の造物主と呼ばれる二人の存在が住んでいた。
クルーンは大理石の柱を拳で叩き、埋め込まれた宝石を鳴らした。
「忌々しいッ!」
「お静かに、クルーン様」
もう一人の存在が答えた。その声はあまりに冷ややかで平坦、まるでもとより魂など存在しないかのようだった。
「どうやって静まれと言うんだ! あの出来損ないの皇帝め、罪人を逃がしおった! 我らには使命があったというのに、あの下衆がすべてを台無しにしおったのだ!」
「罵言は運命を変えません。ただ精神を汚すだけです」
相棒のセルフィは動じることなく言い返した。
「ああ、もういい! 理性を失う前に何か飲み物を持ってこい!」
クルーンは玉座に座り込み、うめいた。
「セルフィ、急げ。このことが大母の耳に入らねばよいが……」
「ご心配なく。あの方に知れることはありません」
「なぜそう言い切れる?」
「直感です」
「もしすべてが裏目に出たら、その欺瞞の報いを受けさせるからな」
「ご安心を。私は何千年もあなたに仕えてきました。私が何を言っているかはお分かりのはずです」
「ふん、なら例の物を持ってこい」
セルフィはクルーンに歩み寄り、ワイングラスを差し出した。
「あなたは、皇帝たちに不備があるとお考えで……」
「エネルギーが足りんのだ。我らが注いだ力では不十分だった」
「お忘れなきよう。エネルギーを注ぐたび、新たな罪人が生まれるということを」
「分かっている。だが問題は、あの……何と言ったか、あの罪人が持つエネルギーだ」
「ユクセイ、ですね」
「そうだ。下級神が我らに告げた通りだ。あやつは全く異質だ。エネルギーレベルだけで言えば、我らに匹敵するかもしれん」
「……」
「もっとも、我らにも確かなことは分からん。世界を知ったばかりの者が、あのようなエネルギーを持ち得るとは思えんのだがな」
「お代わりはいかがですか?」
「いや、だが……何かが噛み合わんのだ」
「何をお疑いで? 単なる覚醒など、馬鹿げた話です。エネルギーを持たぬ者に――」
クルーンが言葉を終える前に、神殿の床が震えた。
銀と半透明のクリスタルでできた扉が、床からせり上がってきた。クリスタルの中央には、並んだ二つの翼が盲目的な強さで輝いている。
クルーンは立ち上がり、セルフィは脇へ退いた。
扉から、神聖な光にエスコートされた二つの影――「天使」が現れた。彼らは首から足元までを覆う銀の鎧を纏い、その白い翼は捕らえられた太陽のように眩く輝いていた。
あらゆる人間的感情を排した彼らの視線が、クルーンを射抜いた。
「クルーン。皇帝の造物主よ。下された命を果たせぬ貴公の命は、消滅の宣告を受けた。始めたことを完遂するため、強制執行期間が言い渡される」
「……問わせてもらってもいいか。その命を下したのは誰だ?」
クルーンは目の前にそびえ立つ存在を見上げた。彼らは天使であり、その放つ権威のオーラから、天界の位階のいかなる高みから遣わされたかは明白だった。
クルーンの額に冷や汗が滲んだ。彼らの出現は単なる訪問ではなく、宣告であることを悟っていた。
「上の連中」に背くことは、肉体的な死で済む過ちではない。この存在平面において、不服従の罪は「存在の抹消」によって罰せられる。
それは単に死ぬことではなく、消し去られることを意味する。
もしクルーンが失敗すれば、上位階層は彼の歴史、功績、そして本質そのものを解体するだろう。地上や天界に残したあらゆる足跡は時の記憶から抹消され、最初から創造の中に居場所などなかったかのように扱われるのだ。
ドォォン!
天使たちが一斉に槍で地面を叩くと、神殿全体が震え上がった。
「申立人の情報を開示することはできぬ。我らが言えるのは、任務を遂行せよ、さもなくばその努力は無に帰す、ということのみだ」
その最後の一言が、クルーンの頭の中で何度も反響した。
「分かった、分かった……。申立人に伝えておけ、言われた通りにするとな」
神聖なる者たちはポータルへと戻っていった。扉が再び神殿の深淵へと沈んでいく間、床が最後の一揺れを見せ、後には恐ろしいほどの沈黙が残った。
「この後、どうされるおつもりですか?」
セルフィが尋ねた。
クルーンは震える己の手を見つめ、それから無限の地平線へと目を向けた。
「分からん。だが、我らを待ち受けているのは悲劇だ」
「本気ですか?」
「まさか。……さあ、狩りを始めようではないか」
彼の言葉は、神殿の虚無の中へと消えていくエコーと共に響き渡った。




