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第3話:偽りの目覚め

フランとセリアは深紅の地に横たわり、生命の兆しは微塵も見せなかった。赤い空の下、二人はただの影と化していた。


アオイは血にまみれ、腹部に剣の感触を感じていた。苦悶のうめき声が震えるエコーとなって唇から漏れ、涙が汚れを拭うように頬を伝い、口から溢れる血と混ざり合う。


一秒一秒が、永遠に続く苦痛だった。虚空を見つめる彼女の瞳は、必死に仲間の姿を探したが、そこにあるのは死の冷たい沈黙だけだった。


「あ……!」


彼女の嘆きは風に消えた。出口がないことは分かっていた。


しかし、死の淵で、あり得ないことが起きた。アオイの血が敵の剣の刃を伝い、ルビーの糸のように滑り落ちて、意識を失った少年の唇に一滴、また一滴と滴り落ちた。


最後の一滴の意識を振り絞り、セリアはそれを見た。痛みで霞む瞳が、その小さな繋がりに釘付けになった。


「……アオイ……い、癒やして」


セリアは囁いた。その声は、かろうじて吐息と呼べるほどだった。


「うっ……できない……」


世界が回り始める中、アオイは口籠もった。

「いいから……やって」


セリアはついに力尽き、その言葉だけを虚空に残して崩れ落ちた。


アオイの視界はぼやけ、草原の色は漆黒へと溶けていった。魂に残された最後の意志を振り絞り、血に染まった唇から囁きが漏れた。


「癒やして(ヒール)……」


時が引き伸ばされたように感じられた。皇帝は冷徹な無関心さで大剣を一振りし、邪魔者でも払うかのようにアオイの体を数メートル先へと放り投げた。


あるじは鋭く優雅な動作で刃を拭ったが、少年の体があるべき場所に目を戻した時……そこには何もなかった。場所はからだった。


シィィィィズゥゥゥン!!


耳を劈くような羽音が現実を歪め、未知の風圧が皇帝の鎧の背後を叩いた。


皇帝は踵を返したが、死体があるべき場所がくうであることを脳が処理するより早く、凄まじい衝撃がその胸当ての金属を陥没させた。


主は激しく後退し、その重いブーツは、抗えぬ力に押されるくわのように大地を削った。


そこに、彼が立っていた。


少年は拳を突き出し、毛穴からは固形化した濃密な蒸気が噴き出していた。目は閉じられていたが、その顔は氷の仮面のごとく、人間らしい痕跡を一切排除していた。


一瞬、彼の体はふらつき、崩れ落ちそうになったが、足元から湧き出した闇が、彼を影の傀儡くぐつのように直立させた。


数秒後、少年の体は再び大きく揺れ、今にも倒れそうに見えた。皇帝は剣を放した。この少年を仕留めるのにはがねは不要、必要なのは剥き出しの暴力のみ。


皇帝は銀色の残像となって飛び出し、岩をも粉砕する蹴りを放ったが、少年は流体のような滑らかさで身をかわし、その一撃を数ミリの差で避けた。


予告もなく、少年はあり得ない角度で軸回転し、鎧の基部を打ち抜いた。金属が崩壊する音が草原に響き渡り、皇帝は五メートル後方へと吹き飛ばされた。


「失望したよ。貴様の自称する力はその程度か。だが、準備運動は終わりだ。一つの真実を教えてやろう。罪は許されない。他者を傷つける者は、呼吸する価値さえないのだ。俺が……ユクセイが、貴様らすべての終焉を下す」


少年は呟いた。その瞬間、足元から絶対的な影の染みが広がり、進路上の光を飲み込んでいった。


ユクセイは頂点に立ち、闇と力の灯台となった。彼の体からは「熾影のしえいのうず」が放たれ、血の蒸気と闇の混ざり合いが、その白い肌に絡みつく。

その目は、闇を穿つ耐え難い白光の裂け目となっていた。彼の周囲では、石が地面から剥がれて浮き上がり、白熱した灰の群れが絶え間なく渦を作っている。酸素はオゾンと灰へと変わっていった。


右手には「一振りの剣」――オブシディアンの巨大なクレイモアが、世界が未だ見たことのない破壊を解き放とうとするかのように、液体金属のような強烈な熱を帯びて輝いていた。


ユクセイはオブシディアンの剣を構えたが、「熾影の渦」は人間の肉体にはあまりに過酷すぎた。


突如、瞳の白光が瞬いた。彼を直立させていた闇は風に吹かれる煙のように霧散し、剣の極限の熱も一瞬で消え去った。


ユクセイは崩れ落ちた。両膝が赤い土を叩き、その体はアオイの体のすぐ隣に、物言わぬ塊として前方に倒れ込んだ。


先程の衝撃から立ち直った皇帝は、金属的な唸り声を上げた。二度目の番狂わせは許さない。彼は倒れた少年の元へ歩み寄り、地面から巨大な剣を拾い上げると、大地を砕くほどの力で跳躍した。


空中、そのシルエットは残り少ない日光を遮り、ユクセイを真っ向から両断せんと鋼を振り上げた。


『死ね』。その鎧の重量がそう告げているようだった。

刃の先がユクセイの髪に触れるまで数ミリというところで、時が凍りついた。


虚空から、純粋で盲目的な黄金の光が溢れ出した。それは並の魔法ではなく、神聖な存在感プレゼンスだった。不可視の手がユクセイ、フラン、セリア、そしてアオイの体を包み込んだ。


瞬きする間に、彼らの姿は透き通り、光の粒子となって静かな旋風の中で空へと昇っていった。


ドォォォォォォォォォン!!


皇帝の剣がからの地面を叩いた。その一撃はあまりに破壊的で、深さ十メートルのクレーターを作り、土埃と岩の柱を巻き上げた。


皇帝はクレーターの真ん中で直立し、空白の空間を見つめた。屈辱と怒りに震え、あるじは深紅の空に向かって兜を仰け反らせた。


グゥゥゥゥアアアアアアアアアッ!!


純粋な怒りの咆哮が草原全体を揺らした。それは、どこへ転送されようとも必ず見つけ出すという、地を這うような執念の振動だった。

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