救わせてください
婚約パレードのフロートに乗る浩一達は、パレードから一転、音楽隊は騎士に、踊り子は魔法師団に、一般市民の人々は竜馬からドルーンに抜け、ドルーン、ルーミヤ、ゴートに囲まれた国、サイラに向かった。そこで、サイラに残り事実を伝える者と、サイラからゴートに入り、事実を伝える者に分かれる。
そして魔国と勇者パーティーの軍隊はゴートに入る。入り口ですぐにマーサ率いる聖勇者団が並んで待ち構えていた。
マーサは今はもう変わり果てた醜い顔に、憎しみの表情を浮かべる。
「まさかお前が勇者を名乗っているとはな、神田浩一」
殺意で口調が荒いマーサは本当に別人のよう。赤い目がらんらんと光り、浩一をねめつける。
浩一は悲痛な顔でマーサを見ている。
「しかもミッシェルは魔王だと?倒す対象とずっと旅をしていて、殺すべきところを手を繋いで仲良く凱旋?ふざけているのか神田浩一!お前は勇者などではない!魔王に懐柔されおって!!俺が二人とも切る!!!」
マーサが高く跳ねる。同時に、聖勇者団が騎士達に向かって行く。
だが、たかが人間。戦意も勇気も信念もない兵士など、魔族達は簡単にそれぞれの縄で縛り上げた。
ミリセントは泣きながらロトと戦っている。凛音はただ必死にガイアに向かって行っている。
マーサはそんなことに気が付くことなく、浩一とミッシェルの前に降り立った。そして大剣を振る。
ミッシェルはそれを指先一つで止めた。マーサは力を入れて剣を動かそうとする。
マーサの筋肉がぎちぎちと音を立てる。肌が薄くなっているのか筋肉の筋が見える。本当に皮膚が破けそうだ。
「マーサ、ずいぶん派手になったのに見掛け倒しだな」
マーサはその筋肉をさらに膨張させ、肌が少し破れ、血が噴き出した。
「あーあー血が出てるぞー、あんま無茶するなー」
ミッシェルは剣を吹き飛ばしてマーサの盛り上がった腹筋を潰すように腹に拳を叩き込む。
マーサは苦しそうな声と共に胃液を吐き出した。
「柔いねぇマーサ」
ミッシェルは続けて何発もマーサに拳を打ち込む。
マーサは醜い声をあげながら苦しんでいる。
ミッシェルの猛攻が終わるとマーサはまた胃液を吐いた。
信じられないことが起きているという顔をしてわなわなと震えている。
「どうした?マーサ、怖気づいたか?」
マーサはその言葉に叫びながら拳を上げる。
「私は!最強の勇者なのだぁあああああああ!!!!!!」
マーサの拳はミッシェルの顔面にぶつかるところだった。
だがその拳はまたミッシェルの指先によって止められる。
「マーサ、お前では私の相手にはならんよ」
マーサは瞠目し叫びながら拳を何度も繰り出す。
「私は!教皇猊下に!最強の力を!与えていただいた!私は強いのだ!神を越えるほどに!」
だがその拳は全て指先一つに防がれ、その細い指さえ折れない。
マーサはそれに愕然としてわなわなと自分の手を見る。
「私は……私は最強の力を……」
ミッシェルが素早く動きマーサの頭を地面に投げ飛ばす。
「ガハッ」
「マーサ、お薬の時間だ」
投げ飛ばされたマーサは違う違うと首を振っている。
そこに静かで優しい声がマーサを呼ぶ。
「マーサ、もっと力が欲しいのですね」
マーサは振り向く。
「教皇猊下!!」
マーサはフラフラと震えながら教皇の方に走っていく。
「申し訳ございません、申し訳ございません。教皇猊下、私は、私はまだ弱い」
ボロボロと泣くマーサを教皇猊下は優しく撫で、小瓶を出す。
「すまないね、マーサ、まだ君は不完全なんだ、これを飲めば完全になれる、私の為に、力を使ってくれるね?」
浩一は叫ぶ、ミッシェルは走った。
「マーサさんそれを飲んじゃだめだ!」
マーサはその小瓶を飲み干した。
ミッシェルは、あと一歩というところで、間に合わずマーサを押し倒すだけになった。
馬乗りになったミッシェルの下で、マーサの筋肉がうねり、皮膚を裂いた。
ミッシェルは飛びのき、浩一の前で守るように立つ。
どんどんと膨張し、雄たけびを上げながら、それは醜い筋肉の塊のような大きな生き物になった。
「ぎょうごうざまのだめにぃぃぃぃ」
肉塊から膨張した顔が現れ、その醜い生き物の雄叫びが上がる。
あまりにも醜い筋肉の化け物が教皇を守るように立っている。
醜い化け物は小さな声でうめいている。
何人かの魔族が恐怖に剣を向けたが、剣はあっけなく折れた。
マーサが叫ぶと咆哮が飛び、音波の攻撃と噴き出した汗の玉は勢いよく飛び弾丸のように周囲の人の体を突き抜ける。
教皇はその化け物を愛おしそうに撫でた。
「私の最強の盾が出来上がりました。あぁ素晴らしい」
教皇は何も隠すことなく、マーサを自分の盾だと言う。
浩一が怒号を飛ばした。そんな声も出るのかと誰もが驚いた。
「きょうこおおおおおおおおお!!!!ふざけるなああああああああああ!!!」
浩一は飛び上がり、ねぎまを振り上げ教皇に飛びかかった。だが、それは肉塊となったマーサの手によって阻止された。
浩一は後ろに下がる。そして吠える。
「お前は人をなんだと思っているんだ!!!!」
教皇は微笑む。
「そうですねぇ……とてもいい道具です」
教会関係者は失望し、魔族達は怒った。
浩一はまた怒りのままに行動しようとした。それをミッシェルは腕を掴んで止めた。
「浩一、お前はマーサにゴールデンボールを飲ませろ。魔物たちも対応できるかもしれない。特にゴールドモンキーズとだ」
浩一は今にも暴れ出しそうな体の奥底の化け物を沈めるように深く息を吸って吐いた。
「わかりました。俺はマーサさんを取り戻します」
「あぁ、頼んだ!」
浩一はすぐにライフボックスを開けて、モンスターたちを出した。モンスターたちはそれぞれに指示を受け、マーサに襲い掛かるものと縛られた騎士団を運ぶ者に分かれた。もちろん魔国の軍も攻撃していた。
マーサは硬くて魔法も効かず、暴れる腕と足に薙ぎ払われている。
浩一は護衛としてゴールドモンキーズを連れて走った。
振りかぶるマーサの腕を避け、吹き出す汗玉の弾丸を避け、切り伏せながら進む。怪我をしてもケンの魔法ですぐに回復し、ひたすらにマーサの体の上を走った。
そして、筋肉の膨張で、でこぼこした顔に到着する。
浩一はゴールドモンキーズと共にマーサの顔を降りる。
ダイの魔法で体を軽くし、ユウと一緒に筋肉の線維を掴みながら降りて行く。
浩一はマーサの口に近づく。そこで初めて、マーサが何を言っているのかがわかった。
「教皇さまぁ…なぜぇ…なぜぇ…」
目からは大粒の涙がぼろっと落ちた。
マーサはこの姿になって初めて教皇に裏切られたことを知った。
姿を変えられ、道具と言われ、マーサは絶望している。それでも、その体は教皇のためにしか動けない。
「マーサさん、今、助けます。」
浩一がマーサの口にゴールデンボールを投げ入れようとした、その時、背中を刺された。
その衝撃でゴールデンボールが手から離れ、唇の下の筋肉の筋に引っ掛かる。
浩一を貫いたのは魔法の剣だった。後ろを見れば、少し離れたところに教皇が浮いている。教皇はその手に魔法のナイフを出し、投げようとしている。
そこにミッシェルが飛びかかる。
「邪魔してんじゃねぇよ!じじぃ!!」
教皇はミッシェルを避けた。
「私のかわいい盾を盗むとは許せません」
浩一は剣を引き抜く。すぐにケンが来て、傷を癒す。浩一は無理やり体を動かし、ゴールデンボールに飛んでいく。教皇はミッシェルと戦いながら、魔法のナイフを何本も降らせ、浩一の行く先を阻んでいた。マーサ以外の誰が傷ついても関係ないのか、ナイフは縛られている聖勇者団にも容赦なく降り注ぐ。その聖勇者団を四天王がシールドの魔法で守っていた。
浩一は傷つくこともいとわずにそのナイフの雨を突き進み、口にゴールデンボールを投げ込んだ。
「やめなさい!!!」
教皇の言葉など無視した。
もう遅い、ゴールデンボールはマーサに飲み込まれた。
肉塊は咆哮をあげる。
筋肉が次第に縮む。醜い姿は次第に消えて行き、黒く毛深かった姿は金髪になり毛も薄くなった。
サッとロトが布を出してマーサにかける。そこには元の美しいマーサが横たわっていた。
ミリセントが泣きながら駆け寄って来た。
マーサはまだ苦しそうだ。
「ぴぴ!」
そこに現れるのはカナだった。カナがマーサの頭に浄化の力を送る。
浩一は気が付いた。
苦戦しているカナに浩一も一緒に浄化をする。
苦しそうだったマーサは落ち着いた呼吸になり、目が覚める。
「わた…しは……」
浩一は笑顔で言う。
「お帰り、マーサさん」
マーサは頭がぼーっとしているのか、何の反応もない。
争いは収まっていた。
教皇とミッシェルだけが睨み合っていた。
そして教皇はため息を一つ落とし、言った。
「あー、マーサなんて情けない、ゴールデンボールを吐き出すこともできただろうに、飲み込んだのですね、」
マーサはその声で頭が覚醒した。
「教皇…げい…か。私は……あなたの……」
「せっかく良い盾が手に入ったと思ったのに。」
教皇の言葉にマーサは悲痛な顔をする。
「私は……あなたを……信じて……」
マーサは涙を流している。
教皇は微笑む。
「やはり人は使い物になりませんね、魔族の方が使えますね」
にたぁと笑う教皇にミッシェルは言う。
「魔族も道具か」
教皇は微笑んだまま言う。
「私はダニエルと魔王討伐に動きました。」
ミッシェルは目を見開く。
「お爺様を大人しくさせた勇者パーティーの一人か」
教皇は微笑んだ。
「そうです、あの頃エルフのダニエル、異邦人の私、聖女のレミリア3人で討伐に動きました。
僧侶として私はパーティーに貢献しましたよ。それはもう素晴らしいくらいに、私の異邦人としての特別スキルは神託、私こそ神の代弁者であり、エアドラゴンを討伐した!それなのにダニエルは魔王と話し合いなんてふざけたことをした。それでダニエルは褒められた、平和の象徴と言われた。魔王と話しただけなのに。もちろん私も教皇になりました、人の国ではダニエルの次に敬われました。聖女も私と婚約しました。でも足りなかった。だって私は異邦人ですよ?神の言葉を聞ける者ですよ?私こそ世界を統べるにふさわしいはずです!」
「自分勝手だな」
ミッシェルの言葉に教皇は口角を上げる。
「魔王と同じでしょう?魔王というのは世界を統べることを目的としているのでしょう?」
教皇は笑顔を深める。
「魔王はあの時、世界を制していた!!ならば私は違う方法で!民の信頼を勝ち取って魔国征服し!そして魔族やエルフ、ドワーフを研究し、遅老、長寿を手に入れ!私は世界に敬われる!……そのはずでした。」
笑顔だった教皇の顔が怒りに燃える。
「なのに、不死鳥の血を使わずとも亜人達と同じく不老になれるかもしれない、やっと研究が終わる、そして魔王もくだして魔国を取り込むこともできる、そんな時に、たった10歳の娘が魔王になった。私に惚れこんでいるイグゼルが王になるはずだったのに!」
ミッシェルは笑う。
「あぁ、最初は戦争で武勲を立てていたイグゼルの名も出たな、だが民はあの時代、我が父の平和な治政に夢を持っていた。もう戦争は嫌だった。だから好戦的なイグゼルより、父の子供である私を選んだのだ」
教皇は憎むように言う。
「魔族は魔族らしく粗暴に生きればいいというのに!浩一君、君ならわかるだろ?魔族は悪、人が正義、そういうものだ、そういうものであるべきなんだ!なのに戦争を起こさせた国は100年前から次々に魔国に取り込まれ、人よりも平和に暮らすなんて馬鹿な事になる。ありえない!だろ!」
マイケル・レイベル、本当の名を斉森柊人、きっと彼はゲームや物語の勇者に憧れた元の世界の普通の青年だったのだろう。
「マイケルさん、いいえ、斉森さん、僕はそうは思いません、みんな仲良くじゃダメなんですか?」
教皇は叫ぶ。
「勇者の癖にふざけたことを抜かすなぁぁぁぁぁ!!!」
教皇は浩一に飛びついた。浩一はそんな教皇を浄化の力で顔面を掴んだ。
「あ、あぁぁぁぁぁ」
教皇はみるみる衰えていき、よぼよぼのお爺さんになった。そしてそのまま気絶した。
マーサは言った。
「なんて醜い人なんだ」
それだけ言って涙を流す。




