愛する優しさ
教皇は牢につながれた。特別な薬を飲むことができなくなった教皇は、みるみる老けていき、力もなくなった。神託のスキルがあると言っていたが、そのスキルも実はイグゼルから貰った不死鳥の血を飲んだ瞬間に消えていたようだ。処刑の日まで待たず、彼は静かにその命の火を消した。
浩一は今教会の病棟にいる。
教会は一斉検挙され、腐敗した神官たちは逮捕され、真面目な人々だけが残された。
手を繋がれて連れていかれる人々を浩一とマーサは窓から見ている。
「バーサ司祭様まで腐敗していたとは」
マーサはただ茫然と窓の外で連れていかれる人々を見ている。
「マーサさん、教皇が死んだそうです」
マーサの体がびくっと跳ねる。
病室の入り口にはミリセントと凛音がいる。
マーサはエルフと魔族が人間の神官やシスターと仲良さそうに話す姿を見つけた。
魔族と話しているのに神官もシスターも楽しそうだ。
「私は」
マーサは窓の外を見たまま言う。
「私は教会に育てられました。ずっと魔族は悪と習いました。」
浩一は静かにマーサを見る。
「私の世界は教会でした。ヤンカルの教会で教皇猊下に見いだされて、勇者となる訓練を始めました。それは厳しいものでした。でもそれを私は耐えた。教皇様のために強くなるのだと……けど私はヤンカルの魔族との戦争で勝てたものの、片目を失ってしまった。だから教皇は勇者召喚をしたんですよ」
マーサは浩一を見る。
浩一は目を反らすことなく真っすぐその悲しそうな顔を見つめる。
「勇者になるのが夢だった。人々を平和に導く象徴だから、でも、目を失って、教皇猊下は勇者を召喚するから俺はサポートに回れとおっしゃった。悔しかったー、まだ目指せると思ってたからね、だけど、ロト様が勇者ダンテの生まれ変わりだと聞いて嬉しかった。憧れだったから。でも、君が勇者だったんだね」
優しく、柔らかく、マーサは笑った。
「俺も、最初は驚きました。」
浩一は照れたように言う。
「でも今ならわかるさ」
マーサの言葉に浩一は驚く。
「君はいつも正しかった。いつも、平和的な解決を考えていた。私は31なのに18の君に諭されてることも多かったね」
「偉そうでしたかね」
浩一は頭をかいて苦笑いをする。
「偉そうなんて、感じたことないさ、ただ自分の未熟さを知ったよ」
マーサはまた外で話している魔族と人達を見る。
「俺は教皇に毒され過ぎていた。こんなことになるまで気が付かなかった。情けないね」
「そんなことは……」
「いいんだ、わかってる。俺は無知だった。だから、今から魔族を学ぶよ」
「マーサさん」
「ビリー君もミッシェル……魔王様か……二人はいい魔族です、一緒に旅してわかっていた。なのに魔族だからと悪としてしまった。こんな私ですが、また仲間にしてくださいますか?」
浩一は笑う。
「もちろん。でも、2人に謝ってくださいね?」
「えぇ、もちろん」
2人は笑った。ミリセントと凛音も微笑んでいた。
教会はカラバッシュ教から、創生神フェルスティアを筆頭に全神を祀る形になり、暫定的にダニエルが教皇になった。
そして、すべてが終わって改めて婚約パレードが行われた。
フロートにはマーサも乗っていた。
それと同時に魔国と人間国で勉強交流という交換留学が行われた。
そうすることで人の国にも、魔国、エルフの国、ドワーフの国にも様々な種族が交流するようになった。
世界は平和になった。
この先、小競り合いなどがあるかもしれない、欲深い人はいるから、でも、少なくとも今は平和で、みんなが幸せだ。
今日は魔王と勇者の結婚式。
大聖堂で祭壇に教皇のダニエルが立っている。
音楽が鳴り、浩一がバージンロードを一人で歩き、祭壇の前まで行く。
そして、新婦の入場。振り返ると、扉が開き、真っ白なボンテージ風のドレスを着たロングベールのミッシェルの姿がある。
母親の代わりにアントワネットがミッシェルのベールを下ろす。
そして号泣しているフレイアに手を引かれ、
ミッシェルはゆっくり一歩一歩、浩一に歩み寄る。
会場には各国の要人がその結婚式を見ている。
その一歩が魔国への道、その一歩が人間国の道、その一歩がドワーフへの道、その一歩がエルフへの道だ。
全ての国が争うことなく、魔王と勇者との結婚はそれだけで世界平和の証しになる。
浩一の目の前にミッシェルが立つ。
浩一はフレイアからミッシェルの手を受けとるはずなのだが、フレイアが手を離さない。
「ミッシェルたんがお嫁に行くなんて嫌だよーまだ早いよー」
ざわざわと騒がしくなる客たち。浩一が困っていると、ミッシェルがフレイアを蹴り飛ばす。
「まったく、さっさと孫離れしろよ、悪い、浩一、ダニエル」
そう言ってミッシェルは浩一の手を取る。
浩一は苦笑する。
「フレイアさんは仕方ないね、綺麗だよミッシェルさん」
ミッシェルは微笑む。
「ありがとな、旦那様」
浩一も微笑む。
2人でダニエルの方を見る。
「魔王ミッシェル、病める時も健やかな時も夫を愛すと誓えますか?」
「はい、誓います」
ダニエルが頷き、次は浩一を見た。
「勇者浩一、病める時も健やかな時も、妻を愛し元の世界に帰ろうなどとは思わず愛しますか?」
予定と違うその言葉に驚きながらも、浩一は強く頷いた。
「必ず、誓います」
ダニエルは微笑む。
「あなた達は人と亜人です、過ぎる時間も生きる長さも違います。それでも死が二人を分かつまで愛し、優しさを忘れず添い遂げられますか?」
「「はい、添い遂げます」」
ダニエルは微笑んだ。
「ここに魔王と勇者の結婚を認めます」
拍手が巻き起こり、教会の鐘が鳴らされた。
世界の平和を鐘が知らせた。
争いの時代は、もう終わったのだ。
それから15年後、ロトとリリィが結婚した。
「まさか魔王の生まれ変わりと勇者の生まれ変わりが結婚するとはなぁ」
浩一の言葉にミッシェルが笑う。
「お父様とロトは何だかすでに長年連れ添った夫婦みたいだよな」
「そうだよね、リリィ王女がそこらの男よりお前がましだって言って結婚したみたいだけど」
「あの二人らしいじゃないか、……あ、動いた」
ミッシェルのお腹は少し膨らんでいる。
「え、触っていい?」
「あぁ」
浩一は優しくミッシェルのお腹を触る。
「君はどのくらいで出てきてくれるのかなぁ」
「浩一がお爺さんになってからかもな」
「やめて!?」
「パパ様―――――」
ドーンと浩一にぶつかる幼女
「エマ、危ないよ」
「エマは危なくないの」
エマは浩一の瞳を持ったミッシェルそっくりの女の子だ。
「パパ、今、ママのお腹触ってたんだよ」
「エマも触る――!!」
「はいはい」
浩一は小さなエマを抱き上げる。
「弟さん、早く出てこーい」
「エマは6年で出て来たよね」
「人間の血が入っているが成長は亜人だな」
「てか弟のなの」
浩一がエマに聞く。
「弟なの!エマが魔王で弟が勇者なの!」
浩一とミッシェルは顔を合わせ笑った。
……end




