全てを明らかに
『浩一さん!今大丈夫ですか!?』
浩一の通信水晶からピューレの声が響く。
浩一は通信水晶を見る。
「どうしました?ピューレさん」
『フォーラさんが目を覚ましました!』
浩一がミッシェルを見る。
「タイミングがいいじゃないか、さすがだフォーラ」
浩一はピューレに言う。
「フォーラさんと話せますか!?」
ピューレの隣にフォーラが出てきた。
『あぁ、話せる。今、ギルド職員で俺が教皇の隠し部屋で見つけた証拠を精査しているところさ』
そしてピューレが言う。
『この証拠は完璧です。ヤタガラスの内部事情に加え、教皇の字で書かれた怪しい実験の資料もあります。これをもって明日、城に行き、国王に訴状を送るのと同時に全国の新聞で告発します』
ミッシェルがニヤッと笑う。
「それなら私達はすぐにレフトに戻って、そこから人国のヤンカル、ニュート、竜馬をパレードしながら通ってゴートに行こうじゃないか、勇者の凱旋を私と浩一の婚姻パレードにしてやろう」
「なんでそうなるんです!?」
『おや、おめでとうございます』
『魔王様の結婚でしたら盛大にしませんといけませんな』
勝手に結婚話が進んでいるようだ。
『ミッシェルさんが魔王なのは聞いていましたが、本当に魔王なのですねぇ』
ピューレが感心したように言う。
「すまんな、早く話を付けなくて」
ミッシェルの謝罪にピューレが首を振る。
『いえ、おかげでいろんな証拠が揃いました。そちらから送られてきた魔族の方々の証言だけじゃなく、諜報部隊の方々がキジ村を押さえてくださったので、そこに紛れていた教会職員を捕らえて、解呪師に心臓の爆弾呪文を取り除いてもらったものを見せたら、全て話してくださいましたよ』
浩一が顔をしかめる。
「人間を殺すのもいとわないんですね」
アイリッシュが苦々しく言う。
「教皇は何がしたいのよ、魔国と戦争させて、亜人と距離をとって」
ロトが顔をしかめる。
「帝王になりたいのかもな」
全員がロトを見る。
「幼い頃、教皇は世界を憂いていた。そして、世界を一つにすべきだと言っていた。自分はそれができる、俺がいれば世界は変わると言っていた。」
ガイアが苦笑する。
「500年、何度も蘇って世界征服を企んでたのかよ」
ビリーが怒ったように言う。
「それで不幸な人を作るなんてありえません!」
ミッシェルがパンと手を叩く。
「浩一が勇者だったと言って、勇者と魔王の国交樹立の婚約パレードに、魔国にいて幸せに暮らしている人間を連れて行って、魔国が友好的だと噂を広めさせよう」
サルバドールが立ち上がる。
「すぐに準備いたします。5時間ください」
「頼んだサルバドール」
サルバドールは素早く立ち上がり部屋を出て行く。
「僕も軍をまとめて参ります。パレード隊に紛れ込ませられるものを選別してまいります」
賢哉が立ち上がる。浩一は驚く。
「え、賢哉そんなに高い位置なの?」
賢哉はフフッと笑う。
「俺、軍務大臣なんだ!じゃ!仕事行くね!」
そう言って賢哉はサッと部屋を出て行った。
浩一が唖然と出入り口を見ているとミッシェルが立ち上がる。
「さて、我々も準備しなきゃね。5時間で形を作るよ!」
「「「形?」」」
「衣装だよ、婚約パレードだし威厳のある素晴らしい格好にしないとね」
そう言った瞬間何人もの使用人が衣装とパーテーションとともに入って来た。
「レッツ、フィッティング!てな」
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その日、配られた新聞で世界が震撼した。
全国に広がる教会の教理の真実、教皇の正体、魔国の現実。
そして勇者の凱旋という名の、勇者と魔王の婚約パレードがヤンカルで始まった。
ヤンカルの国王はたくさんの贈り物を受け取り、国民の声を聞いて、魔族を認め、魔王と握手した。
2週間後にはニュートでも同じことが起こった。
ゴートの国王、ウィリアム・ゴートは教皇を呼び出した。だが教皇はそれに応じなかった。
ウィリアムは新聞を注意深く読む。
「まさか、あの頼りない青年が勇者となぁ」
今、教会の周りにはたくさんの信徒が教皇の言葉を聞こうと押し掛けている。
だが、その門は押しても引いても開くことはない。
それならばと城の門を叩き、教皇のことを聞いてくる国民たち。ウィリアムは新聞を投げ捨てた。
同じころ新聞が暖炉に投げ込まれる。それは教皇の部屋。
マーサが憤慨する。
「あまりにも不敬すぎる。こんな嘘を並べ立てて教会を貶めるとは!」
マーサの美しかった顔は今、青白く、深すぎる彫りによって濃い顔立ちになっている。
ムキムキと青筋を浮かべる筋肉は強そうだが今にも皮膚を破るのではないかと思える。
「マーサ、私は悲しい。国民は私のことを糾弾しようとしています。国民だけじゃない、教会内部も私に疑惑の目を向けるのです」
マーサは教皇の前でひざまずく。
「教皇猊下、奴らはもうすぐこの国に来ます。婚約パレードなど破壊して見せます」
「あぁ、マーサ、お前が私を信じてくれる。それだけで私は救われます」
「あなたを裏切るなど、ありえません」
「嬉しいよマーサ、いい子だ、いい子だね」
マーサの後ろに控えていた涼音とミリセントは緊張していた。
2人は今、自分たちが慕っていた者たちから逃げることを考えている。
ミリセントが憧れたマーサは、教皇の薬でおぞましい姿になっている。それを強くなった証だと思い、力ばかり求め、その異常さに気が付いていない。そして、盲信的に教皇を信じている。
凛音が憧れた教皇によって、マーサは怪しい薬で姿を変えられた。そんなものを見て、あの新聞が嘘だとは思えなかった。自分もあんな物を飲まされていたら背筋に氷よりも冷たいものが走る。
この二人についていけば、化け物にされるかもしれない。二人はいつも恐怖に呑まれていた。
ただ神のために、ただ憧れのために、正しく清らかに道を歩いていたと思っていたのに。
教会は汚れていた。教皇の野望のために。
「では、教皇猊下、作戦を練ってまいります、お前達行くぞ」
「「はい」」
いつからか、マーサは教皇以外に冷たくなった。ミリセントは静かに一筋の涙を流した。
どうか、誰か、マーサ様を取り戻してくださいと、何かの神に祈った。もう教会の神には祈れないから……
そんな願いに浩一の金色の玉がアイテムボックスの中で光った。
時間は戻り、婚約準備を終えた浩一たち。
細身の青いタキシードに、ミッシェルの髪色を思わせるピンクの宝石が埋められたネクタイピン。白いロングジャケットには上品に青い糸で魔国の紋章があしらわれている。
ミッシェルは白のロングベールをかぶり、白のボンテージに黒いベルトが走る。腰からスリットの入ったスカートには華やかなコサージュが咲いている。白のロングブーツはやはりピンヒールだ。
そして、ロトは聖鎧をクマさんの名残を残して白い衣装に変えている。
アイリッシュは華やかな紫と白の衣装に紫のマントで魔女らしく。
ガイアは黒いタキシードで襟が金の縁取りでなかなか決まっている。
ビリーも白い衣装で可愛らしく、ビリーとロトはフロート車の前で、なくなることのない花かごから花びらを撒いている。
アイリッシュとガイアは国民に手を振っている。
パレードというだけあって、フロートの前では、魔族の兵が華やかな衣装で楽器を演奏したり、小さな子がビリーとロトと同じように花びらを撒いたり、踊り子が舞ったりしている。
魔王と勇者のフロートの後ろには魔国に取り込まれた人国の人々が魔国の旗と各国の紋章の旗を振って楽しそうに歩いている。そして、その隊列を挟むように大きめのフロートが隊列の後ろをついてきていて、そのフロートの上で、フレイアとダリア、そしてシピーとアントワネットが華やかな魔法でパレードを盛り上げている。そして、それぞれの国で、人々は数人ずつパレードの列から降りて、それぞれの街で、魔族のパレードに驚く人々に話しかけ、魔族に治められた国がどれほど素晴らしいかを伝え歩いている。
浩一はフロートの上で緊張しながらも笑って人々を見た。
「外壁の大扉を勝手に開けてますけど、騎士団とか来ないですね。」
ミッシェルが言う。
「サルバドールと賢哉が先に国に入って話を付けているからな。私達は城に着いたら友好の話し合いを国王にするだけさ」
賢哉がそんな重要な位置にいて、浩一は誇らしい思いになる。
そして、ヤンカルの城に着くと、フロートから勇者パーティーと四天王が降り、1人の魔族の使用人を連れて、城に入って行く。パレードを盛り上げていた人達はフロートの中に入って休憩だ。フロートの中は魔法で広くされている。
ヤンカルの王は厳めしい。正に威厳のある王だ。
「よく来た、勇者と魔王よ。早速問おう。教皇が異世界人で世界征服を狙っていると?」
ヤンカルの王に浩一は膝をつき全てを話した。
王は額に手を当て、深いため息を落とす。
「まさか魔国からの襲撃だと思っていたものが、教会の仕業だったとは……にわかには信じがたい」
浩一が真剣に言う。
「この国でも、先行隊とこの国の兵士がヤタガラスを襲撃したと聞いています」
王はそれを言われて奥歯を噛み締める。
「そうだ、だからお前達の話を信用して受け入れた。……だがな、積み重ねというものがある。今までの固定観念をひっくり返すというのはなかなか難しいものなのだ、それも理解して欲しい」
ミッシェルはにっこり笑う。
「あぁ、すぐに信じろと言うのが難しいのはわかる。だが、魔国はこれ以上の争いや犠牲を望まない、全てを終わりにし、人と友好を結びたい、それをこの国から始めたい」
ヤンカルの王はミッシェルの言葉に一瞬、悩ましい顔をした。だが、心を決めてミッシェルに近づき、手を差し出す。
「ヤンカルは魔国と友好を誓おう、よろしく頼む」
ミッシェルと国王は硬く握手を交わした。
そして、魔国からの友好の証しの贈り物に驚き、感心した国王は笑顔で握手をし直した。ヤンカルに連れて来た使用人を大使として置いて行き、ミッシェル達は次の国に向かう。
ニュート国、竜馬国とも、それぞれに同じような会話をして、友好国となった。
竜馬だけは疑り深く、難しかったが、冒険者ギルドの古舘華弥子が話し合いに入ってくれて、何とか友好を結べた。
明日はついにゴート。
浩一はゴートの方を見ながら願う。
マーサの目が覚めていますようにと。
そして行進してゴート国に入り、浩一達はメンヒルに戻っていた。
「浩一様が教皇のすべての罪を、そして本当の恵茉様を大陸中に知らせてくださったおかげで恵茉様の鎖は外れ、成仏されました。ありがとうございます。浩一様、ミッシェル様」
アリッサは涙ながらにそう言った。
「恵茉さん、成仏できたんだ。良かった……俺で力になれて嬉しいよ」
アリッサが泣きながら浩一の手を握っていると、すっと隣に女性が現れる。
「貴方は?」
女性は涙を流しながら微笑む。
「私はレイアです。あの日記を公開してくれてありがとう。恵茉様を聖女様を解放してくださって……ありがとうッ……ございますッ」
浩一は二人の女性の心を救えたことに安堵した。
そこに先行隊が戻って来た。
ミッシェルがニヒルに笑う。
「邪魔されたかサルバドール」
サルバドールは怪訝な顔をする。
「ゴート王都に聖勇者団が張っている。異様な見た目の男が率いていた。」
「異様な見た目?」
ミッシェルが顔をしかめる。ガイアが難しい顔で言う。
「聖勇者団を率いているのはマーサのはずだろ?」
サルバドールが言う。
「黒く毛深く、筋肉が膨張して肌を突き破りそうになっていて、彫りが深く濃い顔の男だが、マーサだと名乗っていたぞ」
アイリッシュが目を潤ませる。
「まさかマーサが改造されたの……?」
ビリーが怒りで顔を赤くする。
「マーサさんを変えちゃうなんて!教皇は最低です!」
ロトが目を閉じて硬く拳を握る。
「マーサ……」
マーサに敬われ、一番そばにいたロト。そのマーサを前世の自分を育てた教皇が哀れな姿に変えたのだ。
それが、前世の間違いを証明している。
マーサは自分と違って教皇を最後まで信じている。ロトなら目を覚まさせることができていたかもしれない。だが、「たられば」を言っても仕方ない。もう、ことは動いているのだから。
浩一が何かに気が付いて、興奮したようにアイテムボックスから金色の玉を出す。
「ゴールデンボール!もしかしてこれでマーサさんを元に戻して考えを変えられるかも!」
みんなの目に希望が光る。
ロトが言う。
「考えが変わるかはわからない。だが、異形化を治せるのはゴールデンボールだけだろう。どうやって飲ませるかが問題だな」
賢哉が言う。
「マーサ以外の団員は戦意がありませんでした。ただ恐怖して、隊列を組んでいました。簡単です。相手に戦意も勇気もないのなら、マーサさんを戦闘不能にすればいい。あんなめちゃくちゃな改造です。きっと弱点を突けばすぐに動けなくなるでしょう」
ミッシェルが賢哉に聞く。
「弱点はわかりそうか?」
賢哉は難しい顔をする。
「改造は本当にめちゃくちゃです。筋肉を無理やり増強してます。顔の彫りが深く見えるのも、顔の筋肉が膨張しているからです。出発前に提示された研究資料に魔物や魔族の血での肉体改造をする未完成の資料がありました。まだあれは不完全なはずです。筋肉が膨張しているだけでオーガの鋼鉄の筋肉とはいかないでしょう、普通に剣は通るはずです。部隊も頭を取れば自然と瓦解するでしょう」
浩一は苦しそうな顔をする。
「マーサさんを傷つけなきゃいけないの?」
賢哉は厳しい顔で言う。
「兄さん、これはあくまで戦争なんだよ、ゴールデンボールだって無理矢理飲ませないときっと飲まない、いったん戦闘不能にして抑え込む、多少の傷なら魔法で治せる。覚悟を決めなきゃ、兄さん。」
賢哉の言葉に納得はできるがそれでも浩一は苦しくて肯定の言葉が出ない。
ミッシェルが浩一の背中を叩いた。
「浩一、お前はマーサに薬を飲ませることだけ考えればいいんだ。私が羽交い絞めにでもして押さえつけてやる!言ったろ、汚れ仕事は任せろ、バカの目を覚ませるために多少傷つけても、私が傷なんて無かったみたいに直してやるさ」
浩一はまだ辛そうに笑った。
ミッシェルが浩一の手を取って優しく笑う。
ゴールデンボールを見て、大きく深呼吸をして覚悟を決めた顔で言った。
「もう迷わない、行こう、最終決戦に」
勇者と魔王が手を繋いでゴート王国、王都に入った。




