犠牲の先に歩く
魔国は広く、最初の領地に入ると、どこも平和で、子供が走り回り、貧富の差はあれど平和に暮らしている。サイフォンとは違い、豪快な人が目立つのが、違う国に来たのだなと思えた。
どんどん進み、1週間後に魔国の王都に着いた。
賑やかな街には様々な種族がいて、魔族である亜人、悪魔、獣人、魔人、知能の高い魔物までもいる。
そしてエルフやハーフエルフ、ダークエルフ、ドワーフ、天使もいる。
本当に様々な種族が混在して存在している。
「みっしーだぁ!」
魔国王都に着き、ゆっくり歩いていた浩一達の前を歩いているミッシェルに子供達が集まって来る。
ミッシーはミッシェルの愛称だろう。
「ミッシーお仕事は?」
「またサボり?」
「サボるとサーレが突撃してくるよ!」
キャッキャと楽しむ子供の頭を撫でながらミッシェルが微笑んで言う。
「これもお仕事の一部さ、この人たちを案内しなきゃいけないから今日は遊べんよ、ごめんな」
「えー」と不満を漏らす子供達。だが、一人の子供が言う。
「でもお仕事ちゃんとしなきゃね!」
「サーレがこうけつあつ?になるもんね」
「ミッシーまた遊ぼうねぇ!」
子供達は賑やかに笑いながら去って行った。
そんな子供達を見て浩一は微笑む。
「可愛いですね」
ミッシェルは微笑み子供達を見る。
「100年前、勇者が攻めてきた時、魔王は騎士にも部下たちにも戦わせなかった。ただ国中に、家に居ろ、外に出るな、勇者が来ても何もするなと言った。そして一人、ダンテ、お前達を迎え入れた」
ミッシェルはロトを見る。
ダンテは100年前の勇者だった時の名前だ。
ロトはただ真っすぐミッシェルを見る。
そして、納得する。
「俺達がすんなり城に入れたのは、国民を傷つけないために戦わせない選択をしたからなんだな」
ロトは賑やかで平和な街を見る。
「いい、王だったんだな」
「あぁ、素晴らしい国王だった」
ミッシェルの言葉にロトは悲しみと後悔の顔をする。
きっとあの日、国の民が向かってくれば、ロトはかまわず切っていただろう。
魔族なのだから当然と、何の感傷も後悔もなく、煩わしい羽虫を殺すように、
それがその時の勇者だったから。
だが今はどうだ、子供達が笑って走り回り、平和に国民が安心して生活している。
今の勇者、浩一は戦う勇者ではない。平和を願い、話し合いで未来を切り開く、交渉の勇者だから。
魔王城は広大な森に囲まれた場所にあり、多くの魔物が放たれている。
それと戦うことになると思っていたが……
「みんなメロメロだな」
ミッシェルが魔物に囲まれる姿に感心しながら言う
「あんなに魔物が集まるの初めて見ました」
ビリーがびくびくしながら言う。
「獰猛なのもふにゃふにゃ懐いてんなぁスゲー」
ガイアが感心している。
「流石スキルレベルSSSね」
アイリッシュが感心する。
「スキルで魔力開放してみろとは言ったがここまでとはなぁ」
ロトが驚きの中に楽しそうな声で言う。
そう、魔物たちがメロメロなのは……浩一だ。
好戦的に立ち向かってくる魔物たちに浩一がその特殊な魔力を解放すると、魔物たちが浩一にメロメロになったのだ。
「これなら無駄な殺しとかもしなくて済むからいいですね!」
浩一はニコニコ笑いながらそのまま進みだした。
ロトが言う。
「どんどん魔物が増えるな、ハーメルンの笛吹か?」
アイリッシュが聞く。
「それなに?」
「ん?向こうの世界の童話でな、ハーメルンてとこで笛を吹いて町中のネズミを町の外に連れ出して退治した男に退治報酬をケチったことで、怒った男が笛の力で子供達を集めて攫って行ってしまったって話があるんだよ」
「「「「なるほどー」」」」
全員が浩一を見てとても納得したのだった。
そして順調に道を進み城に入ろうという時だ、魔物たちが目を潤ませ、浩一に縋りつく。
「えーなんで離してくれないのー」
浩一が困っていると、ミッシェルが笑う。
「全員お前にテイムして欲しいんだよ浩一」
「え、ちょっと待って、1、2、3、4……24匹いますが」
「入場前に名前つけ大会だな」
浩一はミッシェルの言葉に脱力しながらも、名前を付けだした。
カルマホースのルシファー
パピヨンのような電気をビリビリ出してるテフテフと言うモンスターのあいき
メイジコープスと言うアンデットタイプのマーリン
ブラッドウルフが5匹でシル、ルシ、ナル、ベラ、レギュ
ミスリルゴーレム2体、ミス、リル
大きな蛇のバジリスクのメロディー
マンティコアのスマイル
九尾の楊子には五匹の野干が付いていて、はじめ、じろう、さんた、ししど、ごろうと呼ぶ。
ダークスライム2匹、ゆうとやみ
グリフォンのジェントル
ゴールドフェンリルのアーサー
フェンリル2匹ユウ、ナイト
浩一は一気に疲れへなへなとしゃがむが腕を引かれる。
「浩一、へばってる暇ないよ、魔王城だ!」
嬉しそうなミッシェルの顔が眩しく、そして可愛く、愛おしく、浩一は疲れた顔に今から来る試練を忘れ笑っていた。
さぁ試練の場に行こうか
魔王城に入ると、その入り口に大きな金の透き通ったドラゴンが寝ている。
魔王に代々仕えるというエアドラゴンだろう。それは浩一達に気がつき、頭をもたげる。
「さて、この挑戦者はどう迎えたものか」
ドラゴンが言う。
浩一はさっきのモンスターたちにケンカしないように言い、一匹ずつに餌を渡してからライフボックスに入れていた。
だがオノケ三匹とカナだけが出て来ていた。
ミッシェルが前に出る。
「普通に試せばいいさ、エルーン」
ミッシェルの言葉にドラゴンが目を細めそして上品に笑う。
「いいでしょう、私と戦いなさい勇者パーティー」
そう言ってエルーンが咆哮を上げる。
浩一達は打ち合わせなしでその殺意を受け止め、エルーンに向かって行った。
ガイアのグラディウスはエルーンの体を通った。通っただけだった。グラディウスが通りすぎる頃には、エルーンの体はすでに元に戻っていた。
ダイとユウの剣もエルーンの体をすり抜ける。
アイリッシュの魔法は吸収された。
ビリーとケンの弓もだ。
ロトは聖剣ロキでえぐり取ったがまだおもちゃの剣、傷口は小さくすぐに回復してしまった。
ミッシェルの踵落としが脳天に決まり、ガンッと首を落としたがさしてダメージがあるようには見えない。
浩一は魔物ならと魔力を解放してみた。
だがそれに気が付いたエルーンが目を細くしてクスクス笑う。
「知っていますよ、モンスターを酔わせるその魔力、確かに魅力的で程よい酔いをくださいますが、私には効きませんわ」
そう言うとエルーンは口から空気砲を放つ。浩一はねぎまをくるくる回してそれを絡めとり、封殺した。
テイマーの魅了が効かないのならば戦うしかない。だが、こんなもの、どう倒せと言うのだ。
刃はエルーンの体をすり抜け、魔法も吸収される。物理攻撃も、ミッシェルの攻撃は当たっているように見えるのにダメージがない。もちろん他の者の物理攻撃はすり抜けるだけだ。これを倒したというダニエルと100年前の勇者ダンテに感服する。
ダンテは今ロトとしてともに戦っているが、赤子なので前世のようには戦えない。
浩一はねぎまを持って挑むしかない。
切るしかない。
でも相手の攻撃は通るのに、相手に攻撃が通らない。こんな戦い、こちらが消耗するだけだ。
一旦下がって息を整えていると、オノケのダイ、ユウ、ケンが固まっている。
「どうした?ユウ、ダイ、ケン?」
3匹は震えている。何か大きな怪我でもしたのだろうか。浩一が近づこうとした時だ。
3匹が光った。
「ユウ!ダイ!ケン!」
見つめているとその光は止み、3匹は金色の大きなサルになっていた。
エルーンが冷静に言う。
「驚いたね、ゴールドモンキーズの進化がこの目で見れるとは」
浩一は即座に三匹を鑑定した。
【3体の大きな金色のサル、ブロンドの猿は癒しに特化し、ゴールドのサルは魔法に長けていて、プラチナの猿は鋼の体と破壊的な怪力を持ち、現れるのは非常に珍しく、唯一発見されているモンキーズは、神として崇められている】
「神!?」
浩一は驚く。するとゴールドの猿、多分ダイが口を開く。
「浩一様、我らは貴方の力で進化できた。我らは貴方を守る」
ブロンドのおそらくケンが言う。
「僕らは浩一様のもの、何でも言ってください」
プラチナのおそらくユウが言う。
「俺達に全て任せろ、あんなドラゴン蹴散らす!」
浩一は頼もしいゴールドモンキーズに圧倒されながらも笑う。
「すごいよお前ら!うん!俺を助けてくれ!一緒にドラゴンを倒そう!死ぬなよ!」
「は!」「はい!」「おう!」
戦いにゴールドモンキーズが戻って行った。
さらに強くなって。
ゴールドモンキーズはエルーンに向かっていく、
その拳がエルーンの横っ面を吹き飛ばした。
その魔法がエルーンの体をゆがませた。
その癒しが、エルーン以外の周囲の者たちの疲労を取り除いた。
形勢逆転。
エルーンはゴールドモンキーズの力が効いていて、明らかに動きが鈍くなっている。
「スゲーぞオノケ!いやゴールドモンキーズ!魔法なら効くのか?」
ガイアがエルーンの体にグラディウスを振るのを止め、グラディウスに集中して魔力を纏わせている。
「僕らも負けていられません!」
ビリーがそう言って深呼吸し、魔法の弓を構える。矢が新たな形を形成しようとしている。
「私だって!古代魔法を習ったんだから!」
アイリッシュがロッドを構え、呪文を唱える。
「ゴールドモンキーズはオノケの進化系だったんだな」
ロトがエルーンの足の腱を傷つけながら言う。
「私も知らなかったさ。いいもの見られたね」
ミッシェルも執拗に足を攻撃し、エルーンを動けないようにしている。
ゴールドモンキーズの攻撃が続き、勇者パーティーの最高の攻撃も少しはダメージを与えているようだ。
エルーンが苛立ちを覚える。
そして、雄叫びを上げる。
その声は、思わず耳を塞がなければ鼓膜が破れるのではないかと思うほどだ。
「煩わしい!勇者を潰してやるわ!」
エルーンがそう言って口を開くと、そこに光の玉と魔法陣が浮かぶ。
「浩一!」
ミッシェルが叫び、飛び出す。同時に、そのビームはミッシェルに直撃する。
「がはっ!」
ミッシェルは口から血を吐き、腹には風穴が開いた。
「ミッシェルさん!!!」
浩一は悲痛な声をあげる。
そして、倒れるミッシェルを抱き留めた。
「ミッシェルさん!ミッシェルさん!」
ミッシェルは苦しそうに笑う。
「はは、下手うったね、かはっ」
「しゃべらないで!今直すから!ヒール!」
ミッシェルの傷口がじりじりと再生する。だが、遅すぎる。
「浩一、時間を無駄にするな、魔族はこのくらいじゃ死なない」
「でも痛いです!」
「はっ!ばーか何でもないよ、こんなもの、うっ」
「ミッシェルさん死なないで!まだ想いを伝えてないのに!」
「なんだよ、想いって」
浩一はめいっぱい涙を溜め、叫ぶ。
「俺、ミッシェルさんが好きです、ミッシェルさんを失いたくない!まだ一緒に居たい!もっといろいろ教えてもらいたい!ミッシェルさん、死なないで……」
ミッシェルは微笑んで震える手で浩一の頬を撫でる。
「私も。あい…して……」
ぼとっと腕が落ちる。目は開いたまま、首が傾く。そして、体から力が抜ける。
「ミッシェルさん!!!!」
浩一は絶望的な悲しみに吠えた。
そしてゆっくり立ち上がり、エアドラゴンに向き直る。
「犠牲が出たか、情けないねェ」
浩一は飛んだ。
誰にもその姿は見えなかった。
気づいたら、浩一はエルーンの首の上でねぎまを構えている。
「ねぎま」
「あんなドラゴン小娘にできる事なら私にもできますわぁん!」
ねぎまはその体を伸ばす。浩一は、その長いねぎまを振り下ろし、エルーンの首を切り落とした。
浩一が愛を失い、覚醒した。
そして、みんなでミッシェルを囲む。
浩一はしゃがみこみ、ミッシェルの頭の下に布を敷き、枕のようにして、体勢を楽にしてやった。
「ミッシェルさん、すぐに迎えに来ます。待っていてください」
浩一がそう言って奥の扉に向かう。他のメンバーも頷き、先に進む。
扉が閉まると、犠牲者は―――
「はっ」
と息を漏らした。
それを勇者メンバーは知らない。




