美しきマリオネッタ、アントワネット
美しい街並みを歩きながら周りを見ると、貧富の差をあまり感じられないどころか、全員が姿勢よく綺麗な所作で、服も個性はあるが整っている。ぎこちない人もいるが、どこを見ても美しい。
街の人達はミッシェルを見ると、微笑み、優美に手を振る。
とても平和で良い国だがその美しすぎる環境があまりにも異質だ。
「何だか綺麗な街ですね」
浩一の言葉にミッシェルは笑う。
「ここの四天王は美しいものしか許さないやつでな、国民にもそれを求める、この国では殺すよりも美しくない事の方が罪になるんだよ、ガイア、気を付けろよ」
ミッシェルの言葉にガイアは顔を引きつらせる。
「自分を美しいとは思わねぇが、直接言われると傷つくぞ」
ミッシェルがさも当然と言うように言う。
「見た目じゃないさ、よく見ろ、お前のような人もいる、要は所作だよ、お前はガサツだから気を付けろってことさ」
そんな話をしながら王都の門を通ると、そこには見た目も美しい洗練された人達しかいない、建物も華美で可憐な街並みになっていて、街ゆく人は上品に笑っている。
異様な美しさに何だか怖さを感じていると前からひと際美しい一団がこちらに向かってくる。
一番前にいる人はよく見ると関節が球体関節の人形のようだ。
美しい人や魔族を引き連れ、優美に歩くその人形のような魔族が、ミッシェルの前に来ると、会釈をする。
「ミセス・ミッシェル、ようこそ我が国へ、相変わらず美しいですわぁ」
人形の魔族はうっとりとミッシェルを見る。
ミッシェルは不敵に笑う。
「あぁ、歓迎ありがとう、アントワネット、勇者パーティーで試練を受けたいんだがいいかな?」
「あら、勇者パーティーですか?」
ミッシェルがそう言うと、アントワネットと言われた人形の魔族がミッシェルの後ろにいる浩一達を見る。
そして、アントワネットは浩一を見て言う。
「うーん65点」
アイリッシュを見て感心する。
「まぁいいわぁ89点」
ロトを見て微笑む。
「あら可愛い、95点」
ビリーを見てにっこりとする。
「いいわぁ、素敵よ、87点」
そして、ガイアを見て顔を引きつらせる。
「33点、不合格ね」
ガイアが胸を押さえしょぼしょぼした顔をする。
「まぁ、旅人だから逮捕はしませんが……、いいでしょう、いい試練があるわ」
ガイアは危うく逮捕されるところだったのかと浩一たちは冷や汗をかく。
そしてアントワネットが言う。
「では、お城に招待しますわ、城門から王の間まで試練を越えてきてくださいませ」
アントワネットが体を反らし、その後ろの美しい人たちの並びが割れて道の先に美しい白い城が見える。
今回の試練はどんなものだろうか。
アントワネット達は優雅に先に城に帰って行った。
「じゃ、私達もゆっくり行こうじゃないか」
そう言って本当にゆっくり城に向かった。
城門に着くと、美しき門番2人が槍を仰々しく回し、ガチャンと言う音を立てて槍を合わせる。
「第1の試練!姿勢の試練!お通りください!」
その言葉と共に槍を自分達の前に戻す門番達。
ミッシェルが悠々と門を通ると、10冊の本が頭に乗る。
「ほら、お前達も来な」
呼ばれて浩一達も通れば、浩一は5冊、アイリッシュも5冊、ロトは8冊、ビリーは3冊、ガイアは1冊頭に乗った。
ガイアは1冊だけなのに早速落としている。
そこに、美しき魔族が数人並ぶ。
「頭の上の本を落とさぬよう我らを避け、城に入ってください、でははじめ!」
ミッシェルは軽々よけ、浩一も簡単に避ける、アイリッシュとビリーはちょっと慎重に、ロトは軽々避けている。
ガイアは危なっかしい、走るだけでも落ちそうだ。
だが、全員が何とか城の入り口に着いた。
「第一の試練合格です、次へお進みください」
みんなほどほどに疲れてはいるが、ガイアは今、熾烈な戦いを越えてきましたと言わんばかりにボロボロだ、何とか本は落とさなかったみたいだが、避けることができていたかは謎だ。
そして次の試練、城の扉を開けると豪華に着飾った者達が並んでいる。
「次は礼儀の試練です。貴族達に挨拶しましょう」
司会の人がそう言うと、着飾った者達が一人ずつ、それぞれの前に立ち「ごきげんよう」とあいさつをする。
ミッシェル、アイリッシュは女性の挨拶であるカテーシーを美しく披露する。
ロトが片足を後ろに引いて頭を下げる。浩一もビリーもそれに倣う。
ガイアは危うく普通に頭を下げるところだったが、浩一とビリーに気が付き、慌てて片足を後ろに下げる。
そしてミッシェル、ロト、浩一、アイリッシュ、ビリー、ガイアの順で点を言われる。
「流石です、100点です」
「素晴らしい、100点です」
「いいでしょう、85点です」
「素敵です、97点です」
「まぁ、いいですわ79点」
「頑張りましょう、21点」
ガイアの点数に試験官たちが首を振る。浩一たちは冷や汗をかく。
「ガイア様、教育の間にご案内です!ボウ・アンド・スクレープを綺麗にできるまで練習!」
ボウ・アンド・スクレープとは、ロトの見せた男性の挨拶だ。
「他の方は休憩です、こちらへどうぞ」
司会の人の案内で浩一たちは隣の部屋に移された。
「お茶を用意させていただきました、お召し上がりください」
浩一が力を抜こうとした時、アイリッシュに肘で横腹を突かれた。「なんだ?」と思いながら周りを見れば、一つの椅子に一人の貴族が立っている。
これはお茶の礼儀の試練だと勘付く。ビリーが震えている。
みんな慎重にそれぞれの椅子の近くに行く、もちろんミッシェルとロトは余裕そうなのだが―――
椅子を引かれ、席につき、それぞれにお茶が運ばれ、ミッシェルが優雅に紅茶を飲む。
「ガイアさんは大丈夫かしら」
ミッシェルがいつものサバサバした言葉遣いではなく丁寧な言葉遣いで言う。
それにロトが答える。
「彼はやればできる方です、安心して待ちましょう」
ここでは言葉遣いも審査されるのだと察して、浩一たちは緊張し、言葉少なに話しながら、ガイアを待った。
そして、司会の人がガイアの試練の終わりを告げたのは30分後だった。
別部屋から出てきたガイアは浩一達にボウ・アンド・スクレープをして見せた。とても様になっている。
お茶の試練も55点でギリギリ通ったようだ。
すると、浩一たちの側にいた貴族が、ミッシェル、ロト、浩一、アイリッシュ、ビリーの順で点数を言う。
「当然100点です」
「素晴らしかったです、100点です」
「なかなかのものでした、95点」
「素敵でした、97点」
「合格点です78点」
そこで司会の人が言う。
「皆さん合格です、ダンスホールへどうぞ」
ダンスホールと聞いて浩一は顔を引きつらせる。
ダンスなどしたこともない、浩一は緊張しながら足を進める。
ダンスホールに入ると、4人の貴族と二人の子供がいる。
「では、練習10分、10分後に本番です」
練習時間があるのかと、浩一は安心した。そして隣のアイリッシュからも安堵のため息が聞こえる。
そして、10分間、浩一、アイリッシュ、ビリー、ガイアは真剣に練習した。
浩一は何度試験官にため息をつかれたか、数えてはいないが、かなりの回数だろ。
だが、ガイアよりはマシかもしれない、ガイアの相手はだんだん語気が強くなっていっているように聞こえる。
ビリーの相手の女の子は楽しそうに教えている。アイリッシュはもう合格点のようだ。
ロト、ミッシェルは練習の必要はないようで練習相手と談笑しながら楽しそうに遊びながら踊っている。
そして本番、優雅な音楽が流れ浩一は相手の魔族の腰に手を当て、もう片方の手を肩に回す。
優雅にくるくる回り、女性が跳ねる時は両手で腰を支え、飛び跳ねる補助をする。
「あなた、本番に強いのね」
相手の女性は満足げに踊っている。
浩一は緊張していたがその言葉で少し緊張がほどけた。
音楽に乗って楽しむ余裕までも出た。すると、相手の女性は笑顔を深め、楽しそうに踊っている。
周りを見る余裕も出て来た。
ロト、ミッシェルはもちろん、アイリッシュとビリーも楽しそうに踊っている。
だがガイアは……
練習相手とガイアでワン・トゥー・スリッ!と言いながら、緊張した面持ちで踊っている。
大変そうだなと思う中、ミッシェルが楽しそうに相手役と密着して踊る様子に、胸がざわついている自分に気が付く。この気持ちは何なのだろう。
そして、それぞれが美しく踊り、音楽が止むと高いところから拍手が聞こえる、正面の壁にしつらえられた玉座で、アントワネットが観覧していたようだ。
「皆さま素晴らしかったですわ!お一人危なっかしい方がいましたが、いいでしょう、全員合格ですわ」
貴族たちが拍手をして祝ってくれる。浩一たちは胸を撫でおろし、安心していたが、ガイアは相手役にくどくど説教をされていた。
これで試練は終了だ。
そのまま歓迎のパーティーが始まった。
ガイアはまた相手役に引っ張られていった。相手役の顔が仄かに赤いのは怒りなのか何なのか、浩一には判断できない。
パーティーの会場ではミッシェル、アイリッシュが人気で、ロトもたくさんの人に囲まれている。
ビリーは相手役の子と一緒にケーキを食べながら何か話している。
浩一は賑やかな会場から抜けてテラスに出た。
そこでオレンジジュースを嗜む、ここでは成人でお酒を飲めるのだがあまり気が進まない。
「パーティーはお嫌い?」
突然声をかけられ振り返ると、アントワネットが居た。
「そろそろ試練と同じ曲が流れますのよ、ミセス・ミッシェルと踊らなくてもよろしくて?」
優雅な笑顔で美しく歩き浩一の隣に並ぶ。
浩一はしどろもどろで答える。
「な、なんで、ミッシェルさんなんですか」
「好きなのでしょう?」
ドキンッと胸がひときわ強く鼓動した。
「な、なんでそう思うんですか?」
「だってあなた、ミセス・ミッシェルの相手役を睨んでいたじゃない、だから貴方の相手をしていた子は貴方から離れたのよ、勝算はなさそうだったから」
浩一は手に持っているオレンジジュースを見る。
「わからないんですこの気持ちが何なのか」
そんな浩一にアントワネットは優しく微笑む。
「ミセス・ミッシェルが笑顔だと嬉しいですか?」
「それはそうですよ」
「ミセス・ミッシェルがあなた以外の人と手をつなぐのはどうでしょう」
「少し嫌です」
「ミセス・ミッシェルが貴方の元を離れて行ったらどう思います?」
「離れて欲しくないです」
「それはどうして?」
「それは……」
「貴方は人間で彼女は亜人です、それでも離れたくないですか?」
「それ…は……」
「人はそれを恋と呼びますわ」
浩一は目を見開きアントワネットを見る。
アントワネットはクスクス笑って会場に向かっていく。
「亜人や魔族と違って人間の一生は短いですよミスター浩一、悔いのないように生きるのが美しいのですよ」
それだけ言ってアントワネットは混み合った人たちの波に呑まれていった。
浩一は次はダリアのラグルスに行くんだと思っていた。
「じゃあ、魔国に行こうじゃないか」
「え、ラグルスに行くんじゃないんですか?」
ミッシェルは忘れていたという顔をして言う。
「ダリアは四天王じゃないぞ、まだ若いしな」
その言葉にガイアが頭をひねる。
「シピーはもっと幼かっただろ?」
ミッシェルはそれを聞いて目を見開き、それから自分のポカを笑うように頭を叩き、笑いながら言う。
「シピーは純血のドラゴンだから106歳じゃ5~6歳くらいにしか見えないだけだよ」
「「「「106歳!?」」」」
あんな幼子が、明らかに遊び好きの幼女が106歳……、魔族は見た目じゃわからないものだ。
「ちなみにダリアは半純血だ、亜人とドラゴンの間に生まれてね、基本的に半分血が入っていても成長加減が変わるだけで見た目や能力はどちらかの親に起因するんだよ」
へーとみんな感心する、そんな会話をしながら、城の門の前に来た時だ。
「ガイア様!」
ガイアのダンス試練の相手が呼び止めた。
「お?リタか見送りに来てくれたのか?」
リタは綺麗なカテーシーを披露して、
息を落ち着かせて言う。
「ガイア様、全て終わったならば、サイフォンにいらしてくださいませんか」
ガイアは頭をかく、
「あー、俺は礼儀とか気にするより自由に生きてーんだ、すまんな!」
リタは泣きそうなのを我慢しながら言う、
「じゃあ迎えに来てくださいませ!」
「は!?」
「わたくし!待っていますから!あなたが行くところならどこにでも行きますわ!だから迎えに来てくださいませ!わたくしをふるなんて許しませんわ!!」
「リタ…俺、ガサツだぞ?」
「どんなあなたも愛して見せますわ、だから、だからお願い……迎えに……来てよぉ……」
ガイアは綺麗にまとめられたリタの髪を崩さないようにポンポンと頭を叩く。
「わかったよ、俺もお前が嫌いじゃない、全部終わったら恋を始めようじゃねぇか、リタ」
「はい、絶対ですわよ」
「あぁ絶対だ」
美しいリタの笑顔にガイアは今まで見たことないほど柔らかな笑顔を見せた。
そして王都を出て走る6人の話題は、ガイアのことだった。
「モテるじゃないか色男」
ミッシェルが笑い、ロトが飛びながら3歳児にはして欲しくないニヤニヤ顔をしている
「いやぁ甘酸っぱいねぇ、赤ちゃん成長しちゃうぜ」
アイリッシュがクスクス笑う。
「あの人ずっとパーティーでガイアさんの隣を死守してたものね」
ビリーが微妙な顔をする。
「なんか親の恋愛見てる気分で落ち着かないです、僕」
「わりぃな!モテちまって!」
がははと笑うガイアに
「調子に乗るな!」
とビリーが頭突きをしたが、止まることなく笑いながら走る5人を見て、
笑うミッシェルを見て、浩一は浮かない顔をするのだった。




