聖人とモルモット
ガイアはたくさんの藁人形に翻弄されている。
ガイアは重りを付けた慣れないグラディウスを振るい、動き回る藁人形を切る。
切られた藁人形は隅にいるマルシーの所に飛んで行き、中から精霊が出てきて、新しい藁人形に入る。
そしてたまにマルシーから剛速球の鉄球が飛んでくる。
それをガイアは危機一髪で切る。
「いいぞいいぞ!いいぞガイア!お前は最高だ!!!」
マルシーは大興奮している。
マルシーの剛速球で怪我しても、すぐに精霊が癒すので訓練を続けられる。
ガイアは息が荒くなりながらもグラディウスを振る。
「もっと強くなる!まだまだ、やってやる!!」
二体の藁人形と鉄球をスパッと切った。
森の中で、ビリーは一人で立っている。風の妖精は的を抱えて飛び回っている。
木陰に隠れたり、高速で移動したり。目で確認できないんじゃないかと思われるほど離れた妖精もいる。
マミリアが遠くの木の陰から矢をビリーめがけて射る。
ビリーは飛んできた矢に自分の矢を当てて撃ち落とした。そして、精霊たちの的に次々と矢を当てる。
三本一気に放ち、三方向の的に当て、隠れた的に当て、そして一番遠い的にはかろうじて矢がかすった。
ビリーは顔をしかめる。
「これじゃだめだ、もっと頑張らないと」
そんな健気なビリーを見てマミリアが悶える。
「可愛くてカッコイイなんてビリー君、素晴らしすぎるわ!」
そしてまた弓を構える。
アイリッシュの周りを飛ぶ美しい水の魚や走り回る可愛い泥人形、
その中心でアイリッシュが手の中で水の塊を練っている。
「集中しろ、些細な魔力も逃すな、繊細な操作は魔力の向上になる」
フリーダの作った魚たちや泥人形をちらっと見てアイリッシュはまた自分の水の玉に集中する。
「もっと、もっと繊細に」
アメーバのように動いていた水の玉が形を成した。少しいびつな魚だ。
「一日でここまで形にできるとは、やはり君は魅力的だ」
フリーダは満足そうに言った。
アイリッシュの頬が少し赤くなった。
浩一は天井に穴の開いた洞穴にいる。水たまりにぽつりとある小島に胡坐をかいて、姿勢を正していた。
そして深く息を吸い、ゆっくり吐き出す。次の瞬間、上から魔力と覇気が襲いかかった。
押しつぶされそうな覇気に吐き気を覚え、姿勢を保つことすら難しい。だが耐えなければいけない。自分の魔力を練り上げ、降り注ぐ圧力を押し返そうと集中する。
そんなことをしてしばらくその覇気に耐えていると、パッと魔力と覇気が消える。
荒い息を整えて、姿勢を正すと、次は魔力とさっきとは違う種類の覇気が襲ってきた。英雄覇気だろうか。それに威圧され、思わず跪きたくなる。冷や汗が止まらない。それでも、さっきと同じように耐える。そして覇気が消える。それを何度も繰り返していた。
洞窟の上、穴の近くにリリベルとミッシェルが立っている。
「なかなかいい穴じゃないか」
「魔力壺の洞窟です、魔力強化と精神力を鍛えるにはちょうどいいですわ!精神攻撃耐性はSSSみたいですけどね、浩一様」
リリベルの答えにミッシェルは言う。
「精神攻撃耐性はあるが覇気に弱い、覇気を食らったことが無いからだろう、まぁ今他の者なら気絶する覇気を当てているのに耐えているのはさすがだがな」
脂汗を滲ませ、繰り返し与えられるプレッシャーと魔力の渦に耐え、自分の魔力を練り上げていく浩一をミッシェルとリリベルは満足そうに見ているのだった。
それぞれが過酷な修行に耐え、自分を磨き上げる。
魔王との対話に挑むために、
そして、その先に待つ神のお告げの最終決戦のために――
そしてマーサは剣を振る。
何百、何千と剣を振る。
浩一に負けた。ただの世話係に、
剣が軟弱だったのかもしれない、そうであって欲しい。
あんなに軟弱だった。あんなに弱かった浩一に負けるなんて、ロトのように勇者の生まれ変わりでもない普通の青年に負けるなんて。
マーサは許せなかった。
教皇に真の勇者と認めてもらった自分が、負けるなどあってはならないことだ、ありえないことだ。
魔王がレベル3000?嘘だ。たった100年しか即位していない魔王が、そんなはずない。
マーサは無心で剣を振るう。
訓練場で素振りをするマーサ。その周りでは聖勇者団のメンバーが各々体を鍛えている。
涼音とミリセントも鍛えている。
だがこれでは足りない、まだ足りない、もっと追い込まなければ、もっと鍛えなければ、魔族を仲間にする裏切り者たちを成敗するために、もっと鍛えなければ。
「マーサ」
無心で剣を振るマーサに教皇が優しく話しかける。
「教皇猊下、このような所に来ていただきありがとうございます。」
周りの団員も修練を止め、頭を下げる。
「皆さん頑張っていますね、シスター達が、追い込み過ぎではないかと心配していましたよ。」
その教皇の言葉にマーサは頭を下げながらも言う。
「いいえ、教皇猊下、どれだけ鍛えても足りないのです。我らは人間の限界300レベルを越えねばなりません」
教皇はマーサの肩に手を置いた。
「全員にはできませんが、勇者であるあなたに特別な力を授けましょう」
マーサは顔を上げる。
「特別な力ですか?」
教皇はマーサを立たせ、その手を引いた。そして自分の部屋へと連れて行く。
そして、一つの薬瓶を差し出す。
「これは経験値を5倍にする薬です、これを飲み続ければきっとあなたは目指すレベルになれるでしょう」
マーサは薬を手にとった。そして、それを口に入れる前に浩一の言葉を思い出す。
「貴方じゃ勇者にはなれません、意識が間違っているのですから」
マーサは顔を歪める。
「私は間違っていない!」
ごくりと一気に薬をあおる。
「うっ……」
マーサは胸を押さえる。薬の異常だろうか。
教皇は顔をしかめる。
「う、うおおおお、力が!力が湧いてきます!」
自分の内なる力が溢れることに喜ぶマーサを教皇はにったりと見た。
ルーミヤに来て1週間、浩一たちはルーミヤの神殿に来ている。
「ではでは、誰から見ましょうか♪」
ワクワク楽しそうなリリベル、浩一たちの横にはそれぞれの師匠が自慢げに並んでいる。
当の弟子たちは顔を青くしているが、ガイアが手を挙げた。
「お、俺から行くぜ!」
するとマルシーがガイアの背を叩く。
「行って来いガイア!お前なら期待以上さ!」
「おう!」
ガイアは快活に返事を返しながらも不安げにリリベルの方に行く。
リリベルが手を差し伸べ、その手に引かれてガイアは光り輝くリングの中に入り、リリベルは踊るように下がる。
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名前ガイア・クルーセルレベル250
性別男MP4689
種族人間HP25000
年齢55
職業戦士
属性土
攻撃力SSS
素早さSS
防御力SSS
魔法攻撃 S
精神攻撃耐性SSS
魔法防御B
器用さA
家事能力A
【武器】グラディウス、大盾
【装備】アダマンタイトアーマー
【アクセ】パワーナックル
【称号】鋼鉄の剣士
【スキル】
身体強化SSS
超速再生SSS
痛覚無効
念話
幻覚S
【加護】
力の神
勝利の女神
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ガイアの上に詳細鑑定のスキルボードが浮かぶ。それを見てマルシーが吠えた。
「ガイアああああ!!お前ならできると信じていたぞおおおお!!!」
次にアイリッシュが行く。
「素晴らしい君が成果を残せないはずがない」
「はい」
リリベルがガイアにしたように、アイリッシュを誘導する。
そしてリングが光る。
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名前アイリッシュ・マーフィーレベル246
性別女MP8900
種族人間HP24600
年齢16
職業魔法使い
属性光、闇、木、火、水、氷、土、風
攻撃力A
素早さS
防御力A
魔法攻撃SSS
魔法防御SSS
精神攻撃耐性S
家事能力D
器用さA
【武器】マジックステッキ
【装備】マジカルローブ
【アクセ】魔力強化のネックレス
【称号】天才魔法師
【スキル】
薬学A
人形使いS
魔力強化A
魔法陣SSS
【加護】
魔法の神
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「やはり君は魅力的だ」
フリーダは満足そうに言った。
次はビリーだ。
「ビリー君頑張って!あなたなら大丈夫よ!」
「は、はい」
ビリーがリングに通される。
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名前ビリー・ウィリアムレベル269
性別男MP50000
種族半魔人HP26900
年齢10
職業狩人→アーチャー
属性風、火
攻撃力S
素早さSSS
防御力A
魔法攻撃SSS
魔法防御SSS
器用さS
精神攻撃耐性SS
家事能力A
【武器】拳銃
【装備】ドラゴンレザーチャップス、
ドラゴンレザーベスト
【アクセ】創造のリング
【称号】百発百中のアーチャー
【スキル】
スコープアイSS
心眼S
サーチS
【加護】風の神
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「ビリー君流石よ!」
そして大本命、浩一のための詳細鑑定、今、浩一の実態がわかる。
「行ってこい浩一」
ミッシェルにうなずき、リリベルの手を取る。リリベルも優しく微笑み、浩一はリングに入った。
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名前神田浩一 (カンダ コウイチ)レベル290
性別男MP50000
種族人間HP29000
年齢18
職業勇者の世話役
属性風 緑 光 聖
攻撃力SSS
素早さSSS
防御力S
魔法攻撃 SSS
魔法防御 SSS
器用さS
精神攻撃耐性SSS
家事能力SSS
【武器】聖なるネギ
【装備】学ラン
【アクセ】聖なるエプロン
【称号】聖人の勇者
【スキル】
緑の手SSS 浄化
職人の手SSS料理エンチャントSSS
支援魔法SSS テイマーSSS
サーチSS 聖なる癒し
賢者の薬師
【加護】
従魔の神 光の神
緑の神 薬の神
料理の神 精霊王
芸術の神
時の神
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浩一のスキルボードを見た全員が「加護とスキル多いな!」と叫んだ。自分でもそう思う。ギルドで見た時は浄化も聖なる癒しも、賢者の薬師も無かった。加護も従魔の神だけだったと記憶している。
自分の隠されたスキルと加護に浩一は顔を引きつらせた。
そして称号の聖人の勇者、やはり自分は聖人なのかと確認できた。
浩一たちは通信水晶をつないでいた。
『緑の手SSS、浄化、職人の手SSS、料理エンチャントSSS、支援魔法SSS、テイマーSSS、サーチSS、聖なる癒し、賢者の薬師、まー積み込みましたねぇスキル』
通信水晶からのピューレの言葉に浩一は苦笑いをしながら言う。
「別に俺が積み込んだわけではないんですけどねぇ~」
今はそれぞれの詳細鑑定の写しをもらって、応接間でお茶を飲みながらゆっくり座って報告をしている。
『しかも、神の加護ももりもりと………魔獣王の加護、うらやましすぎます!神獣に魔獣王の加護があるのは聞いたことがありますが、人に!人に加護を与えているなんて!流石テイマーレベルSSS』
ピューレが羨んでいるうちにミッシェルが詳細鑑定の写しを見ながら言う。
「スキルは技術系が多いね、そしてやはり浄化のスキルがあるんだねぇ、魔族は魔獣から人族になったとも言う、魔獣の神の加護は魔族も貰いやすいが、ここまで治癒に特化したスキルを持つことは珍しい、魔獣王の加護、光の神、浄化の力、聖なる癒し、テイマー、これが重なって奇病の治癒ができるのかな?」
ピューレがまじめな顔をして言う。
『送ってくださった浩一さんの治癒の魔力のこもった魔石を解析しましたところ、浄化の力に魔獣を癒す波動、精神沈静効果を確認しました。そしてジャムさんが変化の魔法でヤタガラスに侵入し、薬を盗み出してくださいました。』
浩一が驚く。
「そんな危険な事をしたんですか?」
そんな浩一にピューレが言う。
『もともとは暗殺担当だったので忍び込むことにはたけていて、ヤタガラスに救助も行ったことがあったらしくそこに潜り込んでくださったみたいです、おかげで薬の解析もできました。』
通信水晶の周りで全員が息を飲む。
『薬には瘴気と従魔の呪いがありました。魔物をテイムするのではなく魔物の脳を破壊し命令を聞くようにする禁術です。瘴気で従魔の呪いを亜人、魔族、人間などの人種に使えるようにして、脳を破壊し、瘴気で魔力の増加をさせ、暴れさせていたようです。』
リリベルが口を押える。
「脳を破壊だなんて!」
そして、ピューレが言う。
『ここで浩一さんの癒しです、瘴気を浄化し、脳を正常に戻し、魔獣王の加護のあるテイマーの力で従魔の呪いを強制解除、これが浩一さんの魔法によって薬の中毒を解毒できる理由でしょう』
アイリッシュが納得したように言う。
「なるほど、ヒールで脳を完治させても呪いで再度脳が壊れて、浄化で瘴気を消しても呪いは解けず、魔力が弱くなるだけだったということですね」
『はい、そうです、従魔の呪いはテイマースキルも必要ありません、従魔と関係を築く必要がありませんからね』
そこにミッシェルが言う。
「だが、薬を飲んでいるときは正常なのだろう?」
ピューレは真剣な顔で言った。
『呪いで脳の損傷をしていますが、術者の側にいれば大人しいのがこの呪いです、それを薬団子にして食べさせ、術者の近くに居るのと同じ安定を与えていたのでしょう、そして術者の代わりに呪いを押さえつけていた薬を与えないことで、呪いに組み込まれた【暴れて求めろ】という呪いが発動するという仕組みです』
「なるほどな」
憎々しげにミッシェルが言った。
『それとですね………』
ピューレが気まずそうに切り出す。
『人種に仕えるようにと言ったのですが、こちらの調べでエルフ奴隷やドワーフ奴隷なんてとんでもない商売をしている者達の一斉検挙が行われたのですが、ヤタガラスがその商人たちからエルフやドワーフを買い付けていたことがわかりました。』
「「「「なんですって!?」」」」
リリベルたちが叫んで、思わず立ち上がった。
ミッシェルが怒りを目に燃やし笑いながら言う。
「魔族の次は亜人ってことかい、やるじゃないか教皇、世界を征服するつもりかい!」
ピューレが静かに言った。
『それはわかりません、ですが、ヤタガラスに潜入しているジャムさんが瘴気化の研究をしているチームを見たそうです。まだまだ瘴気を使って何かするようですね』
全員がそれぞれの思いで押し黙った。そこで浩一が言う。
「ミッシェルさん、魔王のもとまで急ぎましょう」
「浩一?」
「僕らはもう200レベル越えました。僕らなら、僕なら、魔王を満足させるために少しは善戦できるかもしれません、いつまでも足踏みしていたら、教皇がまた被害者を生みます!魔王を説得して、一緒に教皇の悪事を暴いてもらうんです」
ミッシェルは柔らかく笑った。
「魔王を説得せずとも教皇に向かっていく手もあるよ」
「いいえ、ちゃんと魔王に謝罪します。人間がごめんなさいって、けど信用してもらって、一緒に人間に魔族は悪い種族じゃないって言ってもらうんです。そして教皇を摘発して罪を償ってもらいます」
「倒さないのかい」
「話して分かってもらうって………やっぱり無謀ですかね」
浩一が頭を掻く。ミッシェルは立ち上がって浩一を抱きしめ額にキスをした。
「はああああ、そう言う甘ちゃんのとこもお前の魅力だよ、わかった汚れ仕事は私がする。お前は交渉の勇者だもんな」
「はい!」
浩一が照れて笑った。そしてその空気を打ち壊すように、
「きえええええええ!!許さぬこむすめえええええええええ!!」
ねぎまが嫉妬で叫んだのだった。




