偽物はどちらか
武器制作の話から半月たった。
アイリッシュは高出力の魔力を出すためのあと一歩が越えられず、今までは倒れていた。だが今、魔力は流動的にアイリッシュの体の中を巡り、力を満たした。
アイリッシュは練習用のマジックロッドを自分の前に出した。
「メイストローム」
アイリッシュがそう唱えると大きな水の渦が現れ、激しい力を見せる。
パンとアイリッシュが手を叩くとその渦は消えた。
「よし!試しに行こう!」
そう言ってアイリッシュはミッシェルに教えてもらった高度な古代魔法、転送魔法を使う。
前はそれも使えなかった。だが今、アイリッシュはドルーンの外にいる。
「できた!」
そしてアイリッシュはドルーンの外の広大な更地で炎の呪文を唱える。
「煉獄」
その呪文と一緒に激しい火柱が現れ、その場所を燃やし尽くし溶かした。
「す、すごい!できた!できたーーー!!」
アイリッシュは大喜びで飛び跳ね、それを見ていたドルーンは大騒ぎになり、近くの森のモンスターが森の奥に逃げて行ったのだった。
一方森の奥ではいきなり大移動してきたモンスターの急所を、矢が確実に貫く。
真っすぐだけでなく曲がったりする矢は、モンスターには簡単に避けられない。矢の範囲外では、目隠しをした男が立っている。モンスターたちは男に突撃しようとしたが、男はまるで見えているように、簡単に自分に向かってくるモンスターたちを切り伏せた。
ゴブリンがスキをついて背後から殴ろうとしたが、男はゴブリンを見ることなく切り伏せた。
「突然のモンスター暴走だったな」
目隠しを外しながらガイアが言う。
「大きな火柱が上がってたよ、アイリッシュさんじゃないかな」
少し離れた所からビリーが駆け寄って来る。
「あの爆音か、アイリッシュ成功したんだな、俺達もいい感じじゃないか?」
ガイアは倒れているモンスターたちを見る。
「うん!修行の成果出たね!」
「おう!」
ガイアはニカッと笑った。
そして二人はモンスターたちの解体をして素材集めを始めた。
この一週間で浩一は100キロの重りの付いた棒で素振りができるようになった。
何度も筋肉痛を起こしながらも、ヒールで回復させて筋トレを繰り返し、無理やり筋肉を鍛えた。
無茶な筋トレとミッシェルとの手合わせで、浩一は目隠しでミッシェルにねぎまを一発あてる事ができるようになった。
そんな浩一は今、サンダードラゴンの前に立っている。
あの日、聖女村の森で襲って来たサンダードラゴンと同じ若いドラゴンだ。ドルーン大森林とルーミヤの間にあるドラゴン山脈にいるこの若きドラゴンは、独り立ちをして初めての狩のターゲットを浩一にしたようだ。
そして浩一はあの時と変わった自分を試すために、
今、立ち向かう!!
動いたのは同時、電撃を身にまといドラゴンが突撃してくる。浩一もネギをかまえ走る。
浩一に向かって飛んでくる電撃を避けネギで薙ぎ払い、距離を詰める。
ドラゴンはその巨体を軽々と動かし、翼で浩一を切ろうとした。だがネギを構えた浩一を見て旋回、また雷を落とす。
ネギでも聖剣……、ドラゴンはその危険性に気が付き聖剣ねぎまを避けた。
ドラゴンはねぎまを忌々しそうに見ながら、口から高出力の雷を浩一に向ける。
浩一はそれをねぎまで受け、聖鎧のエプロンが身を守る。自分の吐き出した雷が全く浩一を傷付けていないと知ると、ドラゴンは酷く気に障ったらしく、尻尾を暴れさせて吠えた。そしてドラゴンは浩一の方を見て吠えると幾筋もの雷が浩一を襲う。
浩一はそれを避け、素早くドラゴンに近づく。
浩一は大きく飛びあがり、ねぎまを振りかぶる。ドラゴンも大きく口を開ける。
そしてドラゴンはその場に伏し、ねぎまが脳天に突き刺さっていた。
「た、倒せた……Sランク………」
へなへなと座り込む浩一、ポンと肩を叩かれる。
「よく頑張ったな、浩一、ドラゴン肉は美味いぞぉ」
ミッシェルが笑って声をかける。
浩一はへなへなと笑った。
浩一がミッシェルと、ドラゴンを解体して持って帰ると、ちょうどアイリッシュとガイア、ビリーも帰って来たところだった。
「おう!浩一!生きて帰ったな!」
「浩一さん!ドラゴン倒せたんですね!」
「サンダードラゴンの素材はライオットが欲しがるかもって執事さんが言ってたわ」
アイリッシュの言葉に浩一はにっこりと笑う。
「若いドラゴンだったみたいだけどしっかり素材採れたよ!」
ミッシェルが自慢げに言う。
「流石、私が鍛えただけあって素材の取りやすい戦いだったよ」
はははははとミッシェルが笑う、ミッシェルが300レベルと知らなければ、浩一達は魔王と勘違いしそうな笑い方だ。
まぁ魔王なのだが、ロト以外はそれを知らない。
こんなミッシェルの笑い方にも慣れたものであまり気にしなくなったが、たまに思ってしまうようだ。
それが正解だったと知った時、浩一たちはどう思うのだろうか。
屋敷の玄関で、屋敷に入って来る一行をロトは見ながらそう思う。彼女が何を考えているのかはわからない。だが、今までの彼女を見て、彼女は青春を取り返しているのではないかと思う。魔族では若い10代で国の王にならなければいけなかった女性、その原因は前世の自分だ。
若者たちを見て、ロトは考えた。
だが、自分は過去の勇者だ。今、悪の者をどうするか、それを考えるのは今回の勇者である浩一だ。勇者ダンテ・ローヤルは死んだ。
教会が勇者と決めたロトはまだ赤子、神が選んだ子、本当の勇者じゃない。
神が選んだ浩一、彼が悪しき者達の今後を決めるのだ。
500年前から起こっているとされるこの事件、魔族の襲撃、それを止めるために100年前、魔王を倒したはずだった。
だがそれは間違いだった。
魔族の襲撃を起こしていたのは自分の信じる教皇だった。それは旅をするほど、調査結果を聞くほどに確定されていく。
平和の為に、教皇を信じて一つの国の立派な王を殺し、その復讐で勇者ダンテは死んだ。前世の必死な修行、旅、犠牲にした仲間、それらは一体何だったのか、だから今回は間違えない、必ず浩一を正しい道に導く、それが自分の使命なのだとロトは強く心に刻んだ。
楽しそうに自分達の成長を話ながら若者たちは戻って来る。
「お帰りだお前らー!ライオットが呼んでいたぜ!」
「まさか!」
ガイアが目をキラキラさせて聞く。
「あぁ、お前らのレジェンド武器ができたんだ」
ワッとみんな盛り上がった。
急いで鍛冶工房に走って行った。
「お、来たな」
ライオットが自慢げに笑っている。
全員が目を輝かせてライオットを見る。
「これが………、お前らの新しい武器だ!!!」
ライオットが布を引っ張って出て来たのは素晴らしい武器たち。
それをアイリッシュ達は手に取る。
アイリッシュのマジックロッドは木に蔓と葉を巻き付けたようなものに先端の籠に青い宝石が入っている。
ガイアの剣は青と白の斑に光り、その剣に込められた力を感じる。
ビリーの弓は銀の糸が輝き、弓の木は金色に光り、真ん中に青い玉が埋め込まれている。
「どーだお前ら!」
「「「最高です!!」」」
最高の武器を手に入れた勇者パーティー、1人1人が厳しい修行でレベルも上がり、レジェンド武器に相応しい人間になった。
さぁ次はいざ神聖国家ルーミヤ、エルフの国だ!!
武装は完璧、レベルもそれぞれ100越え、魔族と戦う準備はできた。
魔族と言えば100年生きると立派な大人となる。だからこそ寿命も長くレベルも高い。
大人の魔族一体に対して戦士100人は必要なのだ。
だがそれは大体の人が80レベル以上になるのが難しいから。
今の浩一達はさらに成長できる。ミッシェルとロトの訓練は過酷だがそのぶんレベルが上がりやすい。このまま訓練して魔国に入る前に200レベルになりたいものだと思う気持ちと。
魔王とだけ戦えばいいんじゃないか?という考えが巡りもする。
結局3000レベルに対応できるほどレベルをあげなきゃいけないので修行を緩めるという考えはないのだが。
それぞれが武器に興奮している時だ、
警備所長が駆け込んできた。
「ラ、ライオット様、教会の者が入場前の民間人を襲っています!」
それを聞いて浩一達はすぐに走って行った。
国境の入国申請の列が阿鼻叫喚となっている。
戦闘できる者が非戦闘者を守りながら聖騎士団と戦っている。
非戦闘者たちは急いで作られた仮入国場として提供された宿屋に案内されている。
国境線の小高い丘の上にひと際派手な一団が居る。
聖騎士、マーサのようだ。
「ドワーフ国に逃げ込むのは反逆者どもだ!排除せよ!!」
聖騎士団が守るべき民を傷つけ、魔族とドワーフがもう姿を隠すことなく民を守るために騎士団と戦っている。まるで地獄絵図だ。これが戦争というもの………浩一は初めて戦争を見ている。肌で感じている。
その戦争をマーサが指揮している。そしてそんなマーサと目が合う。
マーサは憎しみに醜く顔を歪める。
「偽勇者パーティー!!」
ミッシェルが首に指をあてる。
「ドワーフ、冒険者達、下がれ!!」
その声は遥か遠くまで声が響いた。
そしてその声に合わせて聖騎士団以外が検問門に向かって走って来る。
その波とは逆に勇者パーティーが逃げる民間人たちを追いかける騎士に向かっていく、
「サーフィング!!津波よ!」
アイリッシュの魔法で広範囲に水の壁がそり立ち、その水が津波のように聖騎士を押し流す。
「生意気じゃない!」
「許せません!」
マーサの左右に立っていた涼音とミリセントが津波をものともせず走って来る。
凛音にガイアが立ち向かう。
「冴えないオッサンが相手なんてついてなーい」
「冴えないオッサンで悪かったな!!」
ダガーと大剣が重なる。
ミリセントの蛇腹剣がガイアに向けられようとした時、ネギがそれを遮る。
そう、ねぎまだ。
「君の相手は僕だ!!」
「ただの赤子の世話係が私を止められるとでも!!」
ねぎまを抉ろうと蛇腹剣がぶつかる、だが、聖剣であるねぎまを蛇腹剣が抉れるはずもなかった。
そして、ミリセントは浩一をなめていた。ただの世話係だとなめて、大きく振りかぶった蛇腹剣の隙に、ただの世話係とは思えないほど素早い動きで懐に入り、腹にねぎまの凄まじい一撃を叩き込む。
「う、ぼぇ」
吹き飛ばされるミリセントを見て凛音が振り返る。
「ミリセント!!」
凛音がさっとミリセントに駆け寄る。
「凛音!ミリセントを連れて戻りなさい!」
マーサの声に凛音はミリセントを抱えながら、悔しそうに下がる。
水に流された騎士団も後ろに整列している。
マーサが一歩前に出る。
「偽物勇者たちめ、我ら聖勇者団がお前達を潰してやる!」
「聖勇者団ねぇ」
ミッシェルはアイリッシュの水に流されてぼろぼろの聖騎士たちを見る。
そしてアイリッシュはミリセントと凛音を見る。そしてアイリッシュはくすっと笑う。
「ずいぶん弱い勇者パーティーですこと」
マーサは顔を真っ赤にして叫んだ。
「神聖魔法、モスキュラー・コラプスよおーーい!!」
ガイアは肩をすくめる。
「おぉ、6人に大型魔法ですか」
大型の魔法陣が1枚そこから無数の魔法が浩一達に向かって飛んでくる。
それに対してビリーが弓を構える。
マーサは笑う。
「は!弓で何ができる!!」
無数の魔法が迫りくる。
マーサは笑う、
「ははは!終わりだ偽勇者!!」
ビリーが矢を放つ。すると魔法矢がすべての魔法に当たり、それらを消し飛ばした。
「は?」
騎士団の平均レベルは68くらいだろう。筆頭騎士で75を越えるかどうか。人間で80レベルを超えるのは難しい。だからこそ、108レベルでレジェンド武器を持ったビリーに脆弱な魔法が効くことは無かった。
「な、何故だ!!神聖大魔法だぞ!!」
聖勇者団は慌てている。
最大の大技を破ったことでガイアはビリーの肩を叩く。
「やるじゃないかビリー!」
「すごいね、ビリー!」
浩一にも褒められ、ビリーは照れたように笑っている。
そんな穏やかに楽しんでいる勇者パーティーにマーサが叫ぶ。
「どうして真の勇者パーティーである聖勇者団の力の結晶、神聖大魔法が効かないんだ!!」
その叫びにロトが答える。
「単純に………、弱いんじゃないか?」
ニヤッと笑うその顔が憎らしい、
マーサは青筋を立て怒鳴る。
「神聖大魔法!よーーーい!」
そのマーサの肩にミリセントが手を置いた。
「マーサ様、もう魔力が」
怯えながら言うミリセントにマーサは周りの団員を見る。
「なんっ……て、情けない、いいでしょう、私が行きます!」
そう言ってマーサは剣を構え、突撃してくる。それを迎え撃ったのは、
浩一だった。
「邪魔ですよ!世話係!!」
「もう名前でも呼んでもらえないんですね!!」
ギギギと剣とネギが音を立て、互いを切りつけ合う。
「魔族なんぞと交流するような不埒者!名など勿体無い!!」
憎々しげに浩一を見るマーサに浩一は悲しそうに笑う。
「ミッシェルさんと仲良くなりそうだったのに、俺の事も気にしてくれたのに」
「魔族は悪なのだあああああああ!!!!!」
浩一は弾き飛ばされまた構え直す、すぐにマーサの追撃が来る。
今度は、浩一が本気でねぎまを振る。折れる剣、信じられない物を見るマーサ。
「な、なん………は?」
浩一は崩れ落ちるマーサに冷たく言った。
「貴方じゃ勇者にはなれません、意識が間違っているのですから」
マーサは浩一の胸倉をつかむ。
「私は間違っていない!!魔族は悪!あれは粛清すべきだ!!それを邪魔するのも悪だ!勇者は魔族を殺すためにいるのだ!!!」
哀れむように浩一はマーサを見て、腕をつかみひねる、浩一からそんな力が出るとは思えないほどの力にマーサは驚き、手を振り払い、掴まれた手首を守るようにもう片方の手でつかみ浩一を見る。
「ビリーを見て、ミッシェルさんを見て、それでも魔族を悪だと?」
マーサはわなわなと震える。
「なぜわからない!!あれは!あいつらの手だ!こっちを懐柔して、そのままこちらに入り込み裏の事情を魔王に流し、我らを壊すのです!そうに違いありません!」
浩一は悲しそうにマーサを見る。
「貴方はそんな考え方しかできないんですね」
マーサはなぜ伝わらないんだと怒鳴る。
「転生してきた貴方にはわからない!魔族とはそういう、者なのです!!!」
浩一は首を振って言った。
「魔王は3000レベルです、あなた達では弱すぎる、国にお帰り下さい」
そう言って浩一は勇者パーティーに帰って行った。
マーサははくはくと口を動かし、伸ばそうとした手を引き戻し、聖勇者団の方に戻って行きながらメンバーを見る。こんなに惨めな帰還はないだろう。
マーサはゴート国に引き返していった。
浩一はそんな悲しい団体を見送った。
森に入り、見えなくなった時に浩一は顔をしかめ、首を振って、ドルーンに戻った。




