そのために鍛える
武器カウンセリングの次の日、浩一はミッシェルに連れられ、ライオットの屋敷のトレーニングルームに来た。
「さて、浩一、全部100回ずつ行こうか」
「こ、この量を100回………」
そこには100台ほどのトレーニングマシンが見える。
「頑張ります………」
「浩一様ぁんには楽勝ですわぁん!」
「だまってねぎま」
「あはぁんん」
浩一は腕まくりをしてマシンに向かって行った。
一方、他のメンバーは
「おはようございます、あれ?ロト君だけですか?」
リラがロトたちに与えられた広い部屋に入ると、そこにはロトと人型になっているロキがチェスをしているところだった。
「あぁ、りらたん!そうさ!みんなレベルアップの修行中だ」
「修行ですか」
コテンとリラは首を傾げた。
アイリッシュはライオットの屋敷の精神の芯宮にいる。
そこは自然いっぱいで、草木ももちろん小さな滝に川、なぜか溶岩を吐く小さな山まである。
その溶岩はどうやら鍛冶室に流れているようだ。
アイリッシュは真ん中で座って姿勢を正し、精神統一している。
深く息を吐いて、深く吸う。その時体の魔力が激しくアイリッシュの体を巡る。
「うっ、おえっ、ゲホゲホ」
魔力の激しい動きに思わずえずき、倒れるアイリッシュ。
「まだまだ、全属性上級魔法を使うためにはまだよ」
そしてまた精神統一をする。
ロトがチェスの駒を動かしながらリラに言う。
「アイリッシュは全属性適性があるんだ。だが上級魔法はまだまだ、上級魔法、最上級魔法を使うには魔力の熟練度がまだまだだ、だから自然の世界で精神統一してわざと魔力を暴走させてそれを制御するんだ」
カツンと駒が置かれる。
そしてガイアは森に居る。
目隠しをして剣を構えている。
そこに矢が飛んでくる。
それをガイアは切り伏せる。
どんどん矢が飛んでくる。
その矢はいろんなところから飛んで来て真っすぐではなくカーブしたり
逃げたり戻ってきたりして、二本切りそびれてガイアの額に当たる。
「いってぇ」
「イエーイ!僕の勝ち!」
草陰からビリーが出てきてぴょんと喜ぶ。
「自由に動く矢を目隠しで全部払いのけろなんてできるか!!!」
ビリーは顔をしかめる。
「ロト君が目に頼り過ぎてるから、もっと耳と感覚を鍛えろって言ってたじゃないか」
「それはそうだけどよー、俺は人間だぞ!」
ふてくされるガイアにビリーはムッと言う。
「ロト君は三歳だけどできてたじゃないか50本ノーミス」
「あいつは勇者の生まれ変わりだ!!」
怒鳴るガイアにぴしゃりと言う
「でも3歳じゃん」
「それはそうだけどよー」
泣き言を言うガイアの周りを馬鹿にするようにビリーの矢じりのない矢が飛び回っている。
この訓練専用にたくさん作られた矢だ。
「僕のアーチャー訓練にもなるし、いい訓練だよ、僕にとってはねぇ」
「お前は見えてるからな!!!」
「僕は矢の操作とエイム、スナイプを動きながらする訓練だからね、ガイアがちゃんと本腰入れないと、僕の連勝が積み重なるだけだよー!」
「くっそぉ、次は50本いく!」
「次も僕が矢を当てるよー!」
ニヤッと意地悪く言うビリー
「うっせ!始めるぞ!」
「任せろ!」
ぴょんとビリーはまた草陰に隠れて矢を飛ばした。
ロトがまたこまを置く。
「ガイアは目に頼った戦闘を魔力感知や殺気などの感覚を鍛える事、ビリーは何本も打つことでの腕の訓練と弓操作、エイムなどを鍛えてる」
ナイトの駒をとるロト
「みんなの力を合わせて、チェックメイトだ」
カッと駒が置かれ、チェスが終わる。
「さて、俺も訓練に行くかな」
リラが言う。
「ロト君の訓練見てもいい?」
「あぁ!俺のカッコよさに惚れるなよぉ?」
「うふふ、惚れちゃうかな」
「あぁ!俺はカッコいいからな!よし!訓練場借りるぞ!」
そう言ってチェス盤を置いて、部屋を出るのだった。
フォーラは隠し部屋に入る。
一応姿を隠して。
そこには大きな試験管の中に魔族や魔物の死体が浮かんでいて、部屋の奥には鳥かごに入った悲しそうな不死鳥が居る。
「おいおい、誘拐して生態研究までしてんのかよ」
不死鳥の籠をライフボックスに入れ、いろいろ証拠になりそうなものをライフボックスに詰め込み、
部屋を記録水晶に記録する。そして机に散らばる資料には人間と魔族の融合などが研究されている。
「えぐいな」
「どなたかいらっしゃるのかな?」
振り返れば入り口に教皇が居る。
「ふむ、声が聞こえたし………扉は開いていたしぃ……誰かいるはずだけどねぇ、姿を消せるのかな?それは研究したいねぇ」
にぃと口が弧を描き厭らしく笑う教皇。フォーラは隙をついて出ようと思った。
だが、教皇から無数の光線が出て部屋を駆け巡りその一本がフォーラに当たり、血が出る。
「おや、血の匂いがしますね、匂いだけで探すのは骨が折れますね」
無数の光線が部屋を満たしどこに避けてもフォーラに当たる。
太ももを抉り、腹に穴をあけ、頬をかすり、肩を削り
フォーラは透明化を維持できなくなった。
「おやおや獣人でしたか、それにどこかで見ましたね………」
「魔王様!!」
フォーラが叫ぶとフォーラの足元に魔法陣が浮かぶ。
そしてフォーラは姿を消した。
「転移魔法………遠隔でも使えるとは、本当に今の魔王はケタ違いなようだねェ
さてさて、ネズミが迷い込んでいたが………誰が招いたんだろうね?」
カーバンは魔王の念話を受け取り、すぐに教会から姿を消した。
テイマーギルドの地下にフォーラは送られた。
「ふぉ!フォーラ!?何があったの!?」
地下で研究担当のサラがフォーラに駆け寄る。
「ちと、しくじっちまった。だが、手に入れる物は入れたぞ、ハハ」
「そんなこと良いから!今は黙って!手当てするから!寝てて!」
そう言ってサラは部屋の奥に行った。
そして、そこにカーラ、ジャム、ユーラが現れる。
「ピューレさんにここに隠れてって言われました。なにかありましたか?」
カーラがそう言いながら地下に来る。
「フォーラさん!?教会に潜入中じゃ!?」
「どうしてそんなにボロボロなんですか?」
ジャムとユーラが驚いて駆け寄り、三人は慌ててフォーラを抱えてベッドに動かす。
そこにサラが薬や水桶と包帯を持って来た。
「みなさんありがとうございます、後は私が手当てします、監視水晶を見ていてください。」
「さらさらしゃべってる。」
「わ、わかった」
「フォーラさんをよろしくお願いします」
三人に託され、サラは必死に手当てした。
そして監視水晶を見れば、テイマーギルドにマーサが来ていた。
「今から魔族保護疑惑でテイマーギルドを調査する!全員動くな!」
そこにピューレが出てくる。
「お久しぶりですマーサさん、帰っていたのですね、他の勇者パーティーのかたはどうされたのです?」
「白々しい、お前もどうせミッシェルの事を知っていたのだろう!!」
「ミッシェルさんがどうされたのですか?」
「ミッシェルは魔族だった!どうせ他にも魔族をかくまっているのだろう!!」
「はて?いわれなき罪ですね」
「昔、こちらに渡した研究資材の魔族の死体と同じ魔族が教会に現れた!あの魔族の死体はどうした!」
ピューレはこともなげに言う。
「もう腐ったんで捨てましたよそんなもの、ダークスライムの良い餌になりましたよ」
「つまり跡形もないと?」
「えぇ」
「では教会に現れたのは別の魔族ということか」
「大方、双子とかそういうのじゃないですか?」
「なるほどな、だがどうやら人間の国にステータスをごまかして入り込んでいる魔族が居るようだ、これから全国民に詳細鑑定をする、まずテイマーギルドの職員全員、ここにいる冒険者達は教会に向かうように」
「承知しました。」
マーサはピューレを睨む。
「それと隠し部屋が無いか施設内を調査いたします」
「どうぞ、ご自由に」
ピューレはそう言って教会のほうに向かって行った。
マーサは他の聖騎士にギルド職員を任せ、2人の司祭とテイマーギルドの奥に行く。
研究室の中では職員が研究中のモンスターを牧場に返している最中だった。
「涼音さん、農場を探してください」
「えーーーーめっちゃ広いじゃん!やばいじゃん!私だけ!?ありえないんですけどー!」
「いいから行きなさい、広い牧場なら貴方の地獄耳の方が相性がいい」
「ちっ!教皇猊下のお願いじゃなきゃあんたの言うこと聞かないんだから!」
そこにもう一人の司祭が言う。
「失礼ですよ涼音、今はマーサ様が直属の上司、文句を言わず命令を聞きなさい」
「ミリセントは良いよね、好きな人だからー、私も教皇猊下の直属の部下になりたーい!そのためにカーバンを殺すためについてきてるのー、命令される義理はありませーん」
ミリセントは顔をしかめる。
「私情で仕事をおろそかにするような貴方では無理です」
「なんですってぇ!!!」
マーサはため息一つ。
「涼音さんの力を見込んで教皇猊下がこの任務をくださったのです。頑張ってください、ミリセントも期待しています。」
マーサの言葉に涼音は高慢に笑う。
「当たり前よ!私は教皇猊下の一番のお姫様だもの!じゃあ牧場は任せなさい!」
そう言って涼音は牧場の方に行った。
マーサは笑顔で見送りながらこうやって、浩一も自分とミッシェルの喧嘩を止めてくれていたな。浩一にはいつも迷惑をかけていたな、だが、あの気の優しい青年も自分を騙した一人なのだ、マーサは頭を振ってすぐに顔を切り替える。
「では、本命に行きましょうか」
マーサは研究所の奥の方に行く、そして一部屋ずつ確認し、ピューレの部屋に入る。
ミリセントが周りを見る。
「マーサ様、あの本棚の裏に隠し扉が」
マーサは本棚を触る。ある本に違和感を覚えて引っ張れば、本棚が開き階段が現れる。
そこを下りると、ぼさぼさのおさげの一人の研究者がスライムを可愛がっていた。
「ひっ、人!あ、あの、なん、なな、なんですか?」
マーサが問う。
「貴方はどうしてここに」
「わ、私は、ひ、人がに、ににに苦手でしゃ、しゃべれなので、ここで研究し、ししっしてましゅ」
「そうですか、ここはあなた一人と?」
「は!ぃ」
「そうですか」
マーサがそう言うとミリセントが何かを発見する。
「マーサ様、奥に道が」
マーサはサラに言う。
「お嬢さん案内していただいても?」
「はぃ」
サラはマーサとミリセントの前を歩く。
しばらく歩くと階段を上がって扉を開くとそこには、
牧場が広がっていた。
「なるほど、牧場に出ると」
「あら?あなた達なんでここに居るのよ」
そこに居たのは涼音だった。
マーサが答える。
「隠し部屋がここにつながっていたのです、何か怪しい音はしましたか?」
涼音は首を振る。
「全然、モンスターの心音しか聞こえない」
「そうですか、一足遅く逃げられたのかもしれませんね、一応隠し部屋も」
そこに鎧に身を包んだ騎士が一人、走って来る。
「マーサ様!」
慌てたように騎士が言う。
「マーサ様、ギルド総帥が娘と一緒に逃げたそうです」
「ギルド総帥が?」
マーサは考える。ギルド総帥はミッシェルを個人的に呼んでいた。もしかしてギルドもわかっていて……
だとしたら………
「ギルドを良く調べる事が必要だな、行きましょう皆さん」
マーサはそう言ってテイマーギルドを後にした。
もちろんサラも連れて。
小屋の近くのクイーンビーがマーサ達を見送る。
そして、マーサ達が牧場を出て行くのを見てクイーンビーが落ちて姿が変わる。
それはフォーラだった。
フォーラが倒れるとカーラ達が姿を現す、カーラ達はフォーラのスキルで姿を隠していたのだ。
「フォーラさん!」
「まったく、地獄耳に透視か、厄介だよ」
フォーラはそれだけ言って倒れる。カーラ達は別の隠し部屋に移動した。
マーサ達が帰ってきてもいいように、壁の幻覚の魔法のかかった森の奥の研究所に。
浩一たちが食事をしている時ピューレから緊急連絡が入った。
『フォーラさんが目を覚ましません』
焦ったピューレの声に、ミッシェルが冷静に言う。
「ピューレ状況を話してくれ」
全員が浩一の周りに集まる。
『それが、フォーラさんと潜入してたカーバンさんから念話で聖騎士団が来ると連絡をもらったのでカーラ達を地下に送ったのですが、サラが言うにはボロボロのフォーラさんが突然現れたらしく、手に入れる物は手に入れたと言っていたとか、その時に手当てはしたのですが、すぐに騎士団が来て職員全員追い出されて、施設内をさぐられて、マーサさんに地下がバレて、フォーラさんは隠密スキルをカーラ達に使って、自分はモンスターに変身して何とか隠れていたんですけど、その場をしのいだ後に倒れてしまって、そこから目を覚まさないのです』
「カーバンさんから連絡はありますか?」
浩一がそう聞くと、ピューレが顔をしかめる。
『それが、カーバンさんもわからないそうです、カーバンさんは教皇に任された任務を行い、フォーラさんは教皇の部屋の隠し部屋がないかを探していたそうで、気が付いたら教皇が消えていて、魔王から逃げろと念話があったそうです。そしてカーバンさんはそれだけ伝えて国に帰りました。』
ロトが自分の顎を撫でながら言う。
「秘密の部屋を見つけて教皇に攻撃されたというところか」
ミッシェルが険しい顔をする。
「なんで、テイマーギルドがバレたんだろうねぇ」
『フォーラさんを覚えていたようで、テイマーギルドに渡した死体はどうしたと聞かれました。教皇が覚えていたのでしょうね』
ミッシェルが不機嫌そうな笑顔で言う。
「フォーラは特別に気にかけていたんだねぇ、諜報員と知っていたのかな?」
その言葉にガイアが言う。
「でもそれで死体引き渡すのはおかしくねぇか?特別だったんだろ?」
アイリッシュがなんとなく言う。
「魔王の手駒を減らしたいだけで、死体は必要なかったってこと?」
ビリーが頷く。
「透明化できて、念話もできる、諜報部の団長、重要人物です」
ガイアが言う。
「今回みたいに教会を探られる事を考えて罠に嵌めて処分しようと思っていたのか………処分し損ねているがな」
ミッシェルがせせら笑う。
「薬の治療法などないと思っているからな、上級魔族を馬鹿にし過ぎたな」
浩一がピューレに聞く。
「フォーラさんの傷はどんな状態なんですか?」
『ユーラさんの精霊魔法で何とか一命はとりとめましたが、見たこともない魔法の呪いが組み込まれているらしく、ジャムさんとユーラさんで呪いを少しずつ解呪しながら治療しています。流石魔族ですね、人間なら致命的な抉れかたをしていましたのに何とかもっています。』
そう言いながらピューレは水晶に治療を施されているフォーラを移す。
そこには無残な姿のフォーラが映っている。
息をするのも苦しそうで毛が脂汗でべとっとしていて、傷口から血がにじんでいる。
「ひどい………」
アイリッシュが口元を押さえる。
生け捕りなど想定していない、ただ殺そうとしたようなその傷、今生きているのが不思議で仕方ない。
ピューレが喋る。
『ギルドマスターも娘さんを連れて逃げました。ギルドマスターの義父である前ギルドマスターは復職して、ギルドマスターに騙されていたという演技と詳細鑑定で教会と表面上は手を組みました。保護下にあった魔族はほぼ逃げていたのですが、何人かは子供だけ逃がして伴侶を捨てられず残っていて、処刑されてしまいました。子供達は魔族の他の冒険者達に託されているらしいので旅に問題は無いかと思います。他の国でも同じ動きです、できるだけ検問を通らないように指示していますので厳しい旅ではあると思いますが』
そこでミッシェルが話す。
「そこは大丈夫だ、マーサにバレた時点でお爺様が動いてくれて四天王の部下たちが保護に奔走しているそうだ。各人間の国に秘密裏に紛れた魔族を探し出し、保護しているそうだ。」
浩一は首をかしげる。
「人間に紛れている魔族がそんなに簡単にわかるんですか?」
それにミッシェルはニヤッと笑う。
「人間以外は魔力を目視できて、それが人間であるか魔族であるかドワーフ、エルフであるかがわかるんだ。魔力を見れないのは人間だけだよ」
その言葉にロトは重く言う。
「つまり、俺が100年前魔国に忍び込んでいた時は………」
「みんなわかってて受け入れていたんだろうな」
「そうか………」
ミッシェルの言葉をロトは重く受け止めた。
ロトの考えている事を慮りながらミッシェルは皆に言う。
「とりあえず!きっとフォーラは大丈夫だ!魔族の中でも優秀な諜報部団長だぞ?簡単に死なないさ!
それにここでわかるのは教皇は一筋縄ではいかないってことだ。500年生きている人間の強さなんて未知数だ!来るべき日の為にもっと鍛えるぞ!」
「「「はい!」」」「「おう!」」
みんな覚悟を決めた。
ライオットはこのことを知らない、今もみんなの為に武器を作っている。
みんな、魔王を説得するために。
創造神が予言した最終決戦の為にそれぞれの力を鍛える。
教会が何をしたいのか、
教皇が何をしたいのかはわからない、
それでも、この不幸を生み出している元凶の教皇を倒さなければいけない、
魔族の誘拐を、危険な薬の製造をやめさせなければいけない、
その為に自分達を鍛えるのだ、フォーラの得た情報が核心に迫るものと信じて。




