魔王城と青年
「兄さんどこ行ったんだよ」
神田賢哉、浩一の弟、趣味はゲーム、サッカー部のエースでありクラスの中心人物、分け隔てなくオタクも不良もスポーツマンも賢哉を中心に楽しく話している。街中でも好青年で人気だ。
そして神田家のパーティーは地域で人気のパーティー、その日だけ、浩一は人の扱いをされていた。それを何となく察する人もいた。それがロトの母親だった。
「今日は楽しかったわ神田さん、お片付け手伝いましょうか?」
「いいのよ、家族でするから」
「でも……」
ロトの母は一人片付ける浩一を見る。
「問題ないわよ、そうでしょ?間宮さん?」
「そ、そうね、お邪魔しました」
パーティーの料理も準備も浩一が一人でしたものだった。
それを両親は家族でやったのだと言っていた。でもパーティーの片づけはいつも浩一だった。
そしてロトの母親は知っていた。賢哉の母が料理ができないこと、不器用なこと、いつも買い物やお茶会しかしてないことを。
だって本人から聞いているから。
「だからね、賢哉君、私ね、勇者と共に浩一君が消えた時にこう思ったの。あぁ浩一君を見捨てた自分への罰だって」
ロトの母は、浩一が消えた経緯を説明する時そう言っていた。
そして浩一に家事のすべてをさせていた神田家は崩れて行った。
両親は喧嘩の毎日、家事をする人がいないからと家事代行を頼んで浩一のように扱うから、もう家事代行で来てくれる人はいなくなった。
家は荒れ果て、食事はお金を置かれ、適当に買っていた。
そんな賢哉にロトの母は賢哉の母の過去を話した。
「あの人ね、昔から人気者でクラスの中心だったから、私達のような人を見くだしてたの、その一人が浩一君のお母さんなんだけど、旦那さんが優しくしてくれたから、意地悪なあの人から引きはがしたくて家の力を使ったのよ、やり方は悪いけど、私達は称えたものよ」
あんなに自分を愛してくれて、優しかった母はもういない、自分を跡取りにするのだと頑張っていた父は、兄が居なくなってまともな服が着れず、まともな食事ができず、イライラするばかり、社長の威厳は無く、部下に当たり散らし、下の者を見下すようになり、下請け会社が次々に撤退し、株主総会では社長職の辞任を叫ばれ。
焦りを覚えるばかりの日々で、そんな中で不満を漏らす母に苛立ちをぶつけ、喧嘩になる。
浩一というはけ口、奴隷を失い家庭は壊れるばかりだった。
「兄さん」
賢哉がそう漏らした時だった。
地面が光った。
「な、何!?」
賢哉はその光にロトの母の言葉を思い出す。
『地面が光って消えてしまったの』
「兄さん!!」
もしかして浩一と会えるかもしれない、期待に賢哉は胸を膨らませた。
そして目を閉じ次に目を開けた時、賢哉は人でないものに囲まれていた。
「へ?えーと」
「おお、成功したか」
骸骨の様な男?が言う
「まぁ!綺麗な顔ね!」
陶器でできた大きな人形がふふと笑っている。
「なーんか弱そうじゃない?」
可愛らしい見た目でドラゴンの様な尻尾や羽根を持った少女が言う
「知略が高そうですね、魔王様、この者でしょうか」
馬耳の真面目そうな男が椅子に座った鎧の人に声をかける。
鎧の人は賢哉に近づいた。
「いい顔だ」
鎧にこもった低い声。男の人だろうか。
「お前は頭がよさそうだ、参謀になれ、サルバドール、教育しろ」
「はい、魔王様」
鎧の人がそう言って、馬耳の人が返事をする。
「では、後の事はサルバドールに任せる」
「「「「お任せください、我が君」」」」
周りの者が跪き、魔王を見送った。
賢哉は冷静に考えた。
つまり自分は魔王城に召喚されたということだ。
「まず見た目だな、」
賢哉が考えていたらサルバドールと言われた家臣がマントをかけてくる。
「お前は魔王軍参謀になる、そのために俺が教育する、元の世界に戻りたいと言っても送り返すことは出来ない、せいぜいいうことを聞くんだな」
「元の世界なんて、帰っても良いものじゃありませんよ………」
賢哉の言葉にサルバドールは呆れるような目線を向け、ため息をつく。
「あの人は面倒ばかり押し付ける。おい、こっちだ」
賢哉はサルバドールに黙って付いて行く。
兄さんに会えると思ったのにと気落ちしている賢哉を見てサルバドールは眉間をもみながら言う、
「お前に先にいい物を見せてやる」
「いい物ですか?」
サルバドールは資料が乱雑に積まれている部屋に入る。
サルバドールは水晶を出した。
「ミッシェル、浩一を見せろ」
「浩一!?」
賢哉が驚くと水晶に紫色の髪の女の子と話す浩一が映る。
「兄さん!」
賢哉は目をキラキラと輝かせて、顔を見たかった兄と同じ世界線に居る。それだけで嬉しくなる。
「こいつは今、勇者として魔王城に向かっている」
賢哉はサルバドールに剣呑な目を向けた。
「兄さんを殺すんですか」
「殺気をしまえ、殺すことはしない、魔王様と戦闘はするがな、魔王様の御遊びだ、魔王様の今の標的は教会だ、人の国は今も戦争を仕掛けて来る、お前がこの城で活躍すれば兄に会わせてやろう」
「本当ですか!!」
賢哉は今度はキラキラと輝いた目でサルバドールを見る。
「まずは身体能力と知能を見せろお前は参謀だからな」
「任せてください!チェスも将棋も得意です!」
「それが何かわからんが、せいぜい期待せず見てやる、こっちだ」
雑然とした部屋から出て、次はグラウンドのようなところに来た、戦士のような人がたくさんいる場所だ。
「レド!この人間の演習相手をしろ!」
レドと呼ばれた狼の男がこちらに近づいて来る。
「人間じゃないですかぁ、相手になりませんよ」
人外がどれほど強いかなど知らないが、舐められるのは、好きじゃない、
賢哉はサルバドールから木刀を受け取る。
「では、お手を借りますね、先輩?」
「てめぇ、人間のくせになめんなよ!!!」
レドが切りかかって来て、賢哉はサッと避け、木刀を振るう、レドはぎりぎりでそれを受け止め、賢哉から離れる。
「結構楽しめそうだな、人間」
「そりゃどうも!!」
賢哉はレドに切りかかる。カンッカンッと激しい木刀のぶつかり合い、一進一退の剣戟で賢哉の能力の高さを見ることができる。
そして賢哉が姿勢を低くしてレドの木刀を避け、今までの動きでは考えられない動きでレドの背後をとる。
「アブね!」
レドは受け身を取れない、賢哉の木刀がレドの頭を勝ち割ろうとしたが、それをサルバドールが受け止める。
「そこまで!十分だ、落ち着け賢哉」
その時、周りは初めて賢哉が狂戦士化していることに気が付く、サルバドールが威圧をだし、そこでやっと賢哉の狂戦士化が解ける。
「あ、俺………すみません!なんか止まらなくなっちゃって………」
賢哉がそう言うと、レドが目を輝かせる。
「す、すっげぇ!!お前強いな!!」
「え、あ、ありがとうございます?」
サルバドールも表情を和らげて言う。
「お前は強いが狂戦士化がネックだな、自分で制御できるようにならないとな」
「はい!」
賢哉の才能に見方が変わったのか、サルバドールは先ほどよりも優しい。次にサルバドールは文字や数字を教えてくれて、仕事の仕方を教えてくれた。
優秀な賢哉は、それをすぐに覚え、必死に自習もして、即戦力となり、騎士を中心に交友関係も広げていった。
賢哉は数週間で参謀の地位を手に入れた。




