君と約束を残して
聖女屋敷に浩一達が戻って来た。
「魔族は消し去った!もうここは安全だ!」
浩一に抱っこされているロトが仰々しくそういえば村人たちは盛り上がり感謝の歓声を上げる。
「だが聞いてくれ!魔国に俺の所在がバレているようだ!このまま俺がここに居てはみなに危害が加わる。だから俺達勇者パーティーは明日旅立つ!」
ロトがそう言えばみんな目を潤ませて「ロトきゅんいかないでー」「ロトきゅんもう行っちゃうなんてぇ」なんてそれぞれロトが行ってしまうことを悲しんでいる。
「そして村の方がたには悪いのだが、勇者パーティーはアイリッシュも仲間として連れて行こうと思っている、貴重な戦力であるアイリッシュを勝手に連れていくこと!許してくれ!」
その言葉に村人たちは暖かく拍手を送る。
「ロトきゅんにならアイリッシュを預けられるよ」
「よかったねぇアイリッシュ頑張るんだよ」
「アイリッシュの魔法とロトきゅんの力で魔王なんてひとひねりだ!」
村人たちに激励をもらい、アイリッシュは照れくさそうに「頑張るね」と言った。そして、そのまま感謝のしるしにと、村人たちは夕方に食事や酒、ジュースを持ち寄ってその夜は感謝と送別パーティーが始まった。
大盛り上がりのパーティー、どこで覚えたのかロトがマーサと数人の村人にドジョウすくいを教えている
何やってんだよ、と呆れながら、浩一はロト達を見ていた。
明るい別れの時間
だがアリッサだけがどこか寂しい顔をしている事に気がつく。
アリッサは誰にも気づかれることなく、庭に出る。
浩一は何となく、それを追った。
アリッサは一人、庭の奥の薔薇のゲートをくぐって行く、
そこは聖女達の眠る場所の入り口、
ゆっくりそこに入ると、アリッサは一つの墓石の前で祈っていた。
並ぶ墓石には英名、和名、中華的な名前、
でも文字は日本語のようなつづり方で、わからないはずなのに読める平仮名のようなものとカタカナのようなもの、そして漢字、文字の構成は日本と一緒だから混乱することが無い、
アリッサの祈っている墓石には狩行恵茉と書かれている。
「前聖女だっけ」
浩一の問いにアリッサは祈りの為に閉じていた目をゆっくり開ける。
「教会は恵茉様が死んで聖女の象徴として見せしめのお墓にしようとしたんです、お母さまは恵茉様の死体を盗み、聖女として覚醒した私を恵茉様の死体と共にメンヒルに連れてきました。その最中にダニエル先生に出会えたのは幸運でした。おかげで教会は正面からメンヒルを潰すことは出来なくなった。」
「エルフの加護がこの村に着いたんだね」
「えぇ、元々聖女村は特別な一つの国だったのですけど守る術が無くて900年前にゴートの庇護に入ったんです、それでもメンヒルはゴートに縛られることはないんですけどね、私達聖女は依頼されればどの国の瘴気でも浄化しに行きます、私達聖女を縛れば、瘴気の浄化を金銭的に政治的に使うことができる、それが前聖女に起きてしまっていた。しかも教会が浄化をさせなかったくせに、聖女のわがままで浄化をしないのだと言っていたんです」
「え、そうなの!?」
「教会で酷使され、瘴気を浄化されない恨みが呪いに代わって、恵茉様は衰弱していきました。恵茉様は教会で生き延びるのに必死で呪いには気がついていなかったみたいです、私がそれをわかったのは恵茉様の霊体が酷く疲れたお顔をしてご自分の遺体を見ていて、その魂が呪われて現世に縛られてるからなんです」
「え?つまり前聖女様は死んでも苦しんでいるの?」
アリッサはどこかを見ながらぽろぽろと涙を流す、
「恵茉様は死んで呪いに気が付き、その呪いを受け入れています、自分が背負うべき業だと・・・・そんなはずないのに!悪いのは教会なのに!!」
「そうだね、前聖女様はもう安らかに眠っていいはずだ」
アリッサはポロポロと泣きながら浩一に言う。
「浩一様、どうか恵茉様の為に祈ってくださいませ」
「うん」
浩一は恵茉の墓標に祈った。
どうか恵茉がこれ以上苦しまず静かに眠れますようにと、心から願った。
すると何かの気配を感じて浩一は目を開けると薄緑の影の女性が浮いている。
『なんて、安らかな祈りでしょう、私には勿体無いほど、だからもう祈らないで』
「恵茉様……」
アリッサがつぶやいてそれが恵茉だとわかった。
『私は不甲斐ない聖女、罪の聖女どうかこの呪いを浄化しないで、これは私の業なのですから』
そう言って、疲れた顔の恵茉が、微笑んで消えて行った。
「あぁ、恵茉様どうすればその鎖を取り去れるのでしょう、恵茉様は何も悪くないのに!!」
うわっと泣いてアリッサは膝をつく、それを浩一は背中を撫でて慰める
「浩一様!!」
アリッサは勢いよく浩一に振り返る。
「どうか、魔王と和解したならば、教会の悪事を暴き、あの非道な教皇を、非道な彼らを!どうかぶっ潰してくださいませ!!」
悔しさと怒りを目に宿し期待を浩一に向ける。
浩一はその期待を重く感じてしまった。でもその思い、その願いは今、自分にしか託せないものなのだろう、交渉の勇者、初めて聞く勇者で、それが自分で、実感がないけど腹を括らなくちゃいけなくて……
教会の話、聞けば聞くほどに非道徳で許されない事ばかりだ、人間に対していい思いの無い魔王と交渉して力を貸してもらい、教会の暗い部分を明るみに出し、不幸な魔族や襲撃や戦争の種を消す、それが目標だ。
それをするために、魔王に話を聞いてもらうために戦う、それが使命、
頑張らなければいけない、恵茉さんのような不幸の人を産まないように、
「わかった、俺頑張るよアリッサさん」
「信じてます、浩一さんあなたはきっと大きなことをなせる人だって私わかるの、聖女の勘は当たるんですのよ、ふふ」
微笑むアリッサに浩一は笑顔を見せ、2人を見る幽霊の恵茉が苦しそうにしながらも微笑んでいるのを見て無理やり異世界から召喚、と言う名の誘拐をする自分勝手な教皇を思い出す、まぁ前の世界は自分が居ない方がみんな幸せなんだろうけど、
「それから……」
アリッサは何やらもじもじしながらうつむく
「ん?なに?」
浩一が聞き返すと、アリッサは決意し、浩一の方を見る。
「私の親友になってくださいませ!」
「親友?」
アリッサは頬を染めて強く頷く。
「私、6歳からこの村に居ますの、王都に居る時は内気でなかなか友達ができなくて、でも教会に村娘の格好でお忍びで奉仕活動している恵茉様に会いに行っていましたの、恵茉様は優しくて、こっそり私が幼いお母様に似ているからすぐわかったと嬉しそうにおっしゃっていました。私は度々抜け出し、恵茉様に会いに行っていました。ある日、恵茉様にメンヒルに行くように言われて、それをお母様に告げた翌日、恵茉様はお亡くなりになりました。そして6歳でメンヒルに来て聖女として暮らしていました。皆さん優しくしてくださいます、でもお友達と言う人は居ません、でも浩一様は私を普通の女の子の様に扱ってくださいます、だからお友達になりたいのです」
アリッサは真剣に願うように浩一に言う。
「友達に……うん!いいよ!なろう!親友になろう!」
浩一のあどけない笑顔でアリッサは向日葵が咲くようにキラキラした笑顔で喜んだ、2人はそれぞれの理由で友達が居なかった。でも2人で初めての友達ができたのだった。
聖女屋敷の庭に面したバルコニーでワインをたしなむダニエルとミッシェルには二人の会話が聞こえていた。
「お友達とは可愛らしいじゃないか」
「アリッサは聖女として接してくる人ばかりでしたからね、あなた達のような人は珍しい、そして歳の近い浩一君に興味があるのでしょうね」
優雅にワインを飲むダニエルにニヤッと笑ってミッシェルは言う。
「いいのかい?お気に入りがとられてしまうかもよ?」
「18歳そこそこの若者に負けるようなエルフではありませんよ」
ミッシェルは口笛を吹く
「余裕だね、まぁ浩一とはここで別れるしね、浩一の水晶は会議システム使えるみたいだからお前らも参加するといいよ」
「えぇ、教会の動向には興味がありますから」
そんな会話をしていれば墓地から浩一とアリッサが戻ってきている。
仲良さそうな二人を見ながらダニエルは微笑む。
「勇者と聖女が一緒になるルールもありませんからね」
得意げに笑うダニエルにミッシェルは少し笑って言う
「魔族と勇者が一緒になってもいいと思わないかい?」
ニヤッと笑う二人は軽く握手して、またワインを嗜んだのだった。
翌日、浩一達勇者パーティーは旅の準備を終え、聖女屋敷を出る。
「浩一様!」
アリッサは玄関ホールを出て行こうとする浩一を引き留める。
そして何かを手渡す、それは剣の形のネックレス、
「ダサいですわね」
「ねぎま黙れ、ありがとうアリッサ」
浩一に言われ、ねぎまはしょぼんとしている。浩一はアリッサにお礼を言って、そのネックレスを付ける
「ありがとう、大切にするよ」
アリッサは真剣な顔で浩一の耳もとにこそこそと話す。
「浩一様にはもしかしたら浄化の力がありますわ、これはそれを使うことのできる媒介ですの、上手く使ってくださいませ」
「え!?」
「呪文は『悪しき者を浄化せよ、ヒーレル』ですよ」
「ちょっと待ってどういう事?」
浩一が驚いている間にアリッサはもう後ろに下がって手を振っている。
浄化の力……もしかしたらテイマーの力と浄化の力それが作用して狂化を?
「浩一!行くぞ!」
「え?あ、あぁ!」
考えていたらロトに呼ばれ、浩一は慌てて仲間を追いかける。
そして聖女屋敷から出て、村に行くと、村人が道に沿って出てきている。
浩一が驚いていると、他のメンバーはどんどん進んでおり、慌てて追いかける。
村人それぞれが、勇者メンバーを応援しており、中には浩一の名前もある、
まるで勇者の凱旋、小さな女の子から花冠を手渡された。
浩一は村人たちから勇気をもらい、修行をもっと頑張ろうと思えた。
村を出て、丘の上から村を見るとまだ手を振っている。浩一は大きく手を振って仲間たちの後を追った。




