顕現!ねぎま!
翌日、浩一は村を走っていた。朝早くの自主練ついでに近くの草原で薬草採取と小さな魔獣狩りをするためだ、その途中、いつも挨拶する畑のおじさんが「おーーーい」と手を振るので立ち止まる。
「君目が覚めたんだなぁ!ドラゴンの足止めしてくれてたからなんだろ?
ありがとうなぁ、君のおかげで村は荒らされなくて済んだ!これ、持って行ってくれ!」
おじさんから沢山の野菜をもらった。
「じゃあ訓練、頑張れよ!」
「ありがとうございます」
おじさんは笑いながら畑に戻って行った。
他の畑でも野菜や穀物をもらい、子供達からは薬草をもらい、狩の獲物の肉をくれる人もいた。
浩一がドラゴンを足止めしたことでみんな感謝していた。
「薬草摘まなくても集まっちゃったな」
「ぴっぴ」「ぴゅーい」
沢山の果物を見て嬉しそうなカナとリアがライフボックスから出て、いつも鍛錬する草原を駆け回り、ユウ、ダイ、ケンも筋トレをしている。のどかな時間、浩一は苦笑しながらアイテムボックスを開き、テイムしたモンスターたちを見る。光輝はのんびり日向ぼっこして温志には浩一が火の玉をぽんぽん出すとしゅぽしゅぽと吸い込んで食べている。清は浩一の足に巻き付いて汗を食べている。平和な時間だ、モンスターを少し自由にさせる時間を終わらせて浩一はハンベルン邸に帰って行った。
ハンベルンの別荘で、村人にもらった物を厨房でレイブンに手伝ってもらいながら選別していた時だ、ミッシェルとロトが厨房に入って来た。
「ずいぶんな収穫だなぁ浩一」
「これだけあればしばらく食うに困らないね、村の人達がくれたのかい?」
レモンに似たラモンという果物を持ちながらミッシェルは言う。
「はい、俺、足止めしていただけなのにみんな感謝してくれて、」
沢山の食べ物を前に照れる浩一にミッシェルはにっこり笑って言う。
「いやいや、大したもんさ、Sランクの魔物なんてそうそう現れない、ドラゴンなんて脅威だ、村で暴れられたらこの村は半壊していただろう、森の方にドラゴンが見えた時には村は大騒ぎだった。でも森で立ち止まったドラゴンを見て冷静に避難できたんだ。」
ドラゴンは村にも見えていたのか、それでみんな知っているのだなと浩一は納得した。
でもそのSランクの魔物を単騎撃破できるミッシェルは本当に何者なのか、ゴーシュ僧侶はその師匠、生きていたらどんなに頼りになったろう。
「あぁ、浩一、三日後にこの村を出るから、この食糧大事に使うんだよ」
「え、そうなんですか?」
浩一は食料を見ながらミッシェルに聞くとダニエルが入って来る。
「ドラゴンを足止めできましたし、最近はけっこう動けていましたからね、あとは肝心な基礎体力をつけるのは旅をしながらでもできるでしょう、本当はもっと鍛えたかったのですけどねぇ」
にっこり笑うダニエルに浩一は苦笑いをする。
「そ、そうですねぇ」
伝説の勇者と伝説のシスターとの手合わせで、毎回ボコボコになるまで鍛え上げられ、アリッサに治療してもらって、また訓練、朝は薬草調達ついでに走り込みの自主練、結構ハードな毎日を過ごしていた浩一であった。
おかげで剣……もといネギの使い方は上手くなったと思う、そんな時だ、ロトが言う。
「そういや浩一のネギは聖剣なのに名前がないな」
「名前?」
ロトはベイリーと言う、つぶのあるイチゴ味の果物を見つけて食べながら言う。
「あぁ、名前は重要だよ、名前が付くとその物の力を倍に引き出す、聖剣ならば名前を付ければ強い力を引き出せると思うぞ」
「へー」
名前、名前を付けるのか、ねぎ、ねぎ、浩一は深く考える。
「ねぎま?」
浩一がそうつぶやくとネギが光る。
おお、とみんなその光を見守る。
輝いたネギに、艶めかしい唇、バサッと長いまつげの細い目が浮かび、光が薄くなり口が開く。
「ねぎま、顕現しました♡ あぁぁんやっと浩一様とお話できますわぁぁ!!ねぎま、なんて甘美な名前でしょう!」
なんか、
「なんかきもいの出て来たよ!?ロト!!」
「おぅ、これは予定外」
ロトも少し引いている。
みんな変な進化に顔を歪め、浩一を哀れに思う、なんて運のない男なのか、
「あぁん浩一様ぁん、これからももっと浩一様をお助けしますわぁん!」
「これ捨てていい?」
「へぁ!?」
浩一とねぎまから距離をとっていた人たちの方を向く。みんな困った顔をしている。
「いやですわん!浩一様ぁん!私を!貴方の特別な剣を!えい!妻を捨てるというのですかぁん!」
「妻ってなんだよ!いちいち気持ち悪いな!!」
「生ごみに出すか」
「おだまり小娘!!」
ミッシェルに怒鳴るねぎまに、いや、小娘って、と呆れる面々。
「まぁ、浩一専用の剣であることには変わらないし、助けられてきたろ、浩一」
ロトの言葉に顔を歪める浩一、
「そりゃそうなんだけど……」
「浩一様ぁん、ねぎまを使ってくださいませェん!」
細い目をウルウルさせて言うねぎま、そういう顔に弱い浩一、だが気持ち悪い、気持ち悪い、どうしよう、
どうしようと悩む、悩むが、ねぎまを見て……
「はぁわかったよ、ドラゴンの一撃は一回退けてくれたもんな」
「浩一様ぁん」
感動して涙するねぎまだった。
そして、今日の訓練で
「浩一様左ですわ!」
ねぎまの指示で左にねぎまを向けると、ダニエルの木刀をはじく、
「上に水平に!」
上にねぎまを向ければミッシェルの拳を受け止め吹き飛ばす。
「いいサポーターが付いたじゃないか浩一」
綺麗に着地して笑うミッシェル、ダニエルもにっこりと笑う。
「まぁ、少し問題もありますが、いい動きになりましたね」
その二人の言葉に、ふんと鼻で笑ってねぎまが言う。
「当たり前ですわぁん!浩一様ぁんとわたくしがぁん、協力すれば怖いものなしですわぁん」
「その喋り方どうにかなんないの」
浩一は呆れながらも次に備える。
ダニエルの剣術、ミッシェルの格闘技、2人の技を今ではねぎまのおかげで防げているので、いつもほどぼろぼろになっていない、だが、指示に間に合わず攻撃を喰らう事もあるので怪我をしていないわけではない。
「サポートがあっても動きがまだまだですね」
ダニエルがそう言いながら浩一を見る。
「まぁ基礎を飛ばしての荒療治だからな、基礎的な動きはこれからも実戦で鍛えたらいいさ」
ミッシェルは浩一の肩をぽんと叩いて寄りかかる
「小娘!浩一様ぁんに寄りかかるんじゃありませんわぁん!」
「お前にはできないもんな、私は抱き着くこともできるぞぉ」
むにんと胸を押し付けて抱き着くミッシェルにわわわわわと顔を火照らせる。
「破廉恥ですわあああああん!!!」
「ミッシェルさんずるいですううう」
浩一の治療のため待機していたアリッサも浩一に抱き着く。
「わたくしの旦那様ぁんに触れるなぁん!!」
「旦那じゃない!!抱き着かないでください!!」
浩一は真っ赤になりながら叫ぶ、
そこに一人の魔女が
「何してんのあんたら」
アイリッシュが魔法の授業に来たのだ。
「アイリッシュぅ、た、たすけ」「また小娘が増えましたわぁん!!」
ねぎまがキいいいいいいと奇声を上げ、浩一の鼓膜を揺らす。
訓練でぼろぼろの体に、女子のからかい、ねぎまの奇声、もう浩一のライフは0だ。
今日は演習場で的当てだ。
魔法は発動だけでなく、その操作性も見なければいけない、浩一は運動神経はほぼないが射的の腕は高いようで今のところフラッシュビームは100発100中だ。
「フラッシュビームはもう大丈夫そうねぇ後はエアーカッターとリーフカッターね、風と緑と光が適性属性だから、やってみて」
浩一はアイリッシュに言われ、
集中して手を前に出す。
「エアーカッター!」
黄色い風が的を切りつける。だが威力が弱く、実用的とは言えないだろう。
「り、リーフカッター!」
周りにあった木からいくつかの葉が飛び出し的に当たるが、……硬度は十分だが威力が弱く、これも実用的でない。魔力はあるが、どうも威力が悪い、それが浩一だ。
「本当に戦闘魔法ダメダメね、テイマーなんだからもう、モンスターにでも頼れば」
「うぅぅ」
アイリッシュに言われ、小さくなる浩一。背中で騒ぐネギ
「この生意気な小娘め!浩一様ぁんを愚弄するとは切ってしまうわよ!!」
「てかこのネギ、なんでしゃべってんの」
アイリッシュが不気味なものでも見るように言えば、ねぎまはキいいいと声をあげる。
「気安くネギだなんて言わないでいただきたいですわぁん!わたくしにはねぎま!という素敵な名前があるんですのよぉん!」
「ねぎまって安直な」
「ふん!この高尚な名前の素晴らしさがわからぬとは大したことない小娘ですこと!」
「ねぇ、このネギ、折っていい?」
演習を見ていたミッシェルとアリッサ、ダニエルにアイリッシュは聞く。
するとミッシェルが
「やっちゃえ」
と、いい笑顔で言った。
「浩一、そのネギ、渡しな」
「あ、はい」
「あぁん、浩一様ぁんなぜ私を手放すのぉん」
簡単に手放され涙するねぎまを思いっきり折るアリッサ、
「きもいんだよこのネギがぁ!!!!!」
「おご!わたくしは聖なるねぎ!折れても折れませんわぁ!!!おっほっほほほほ、おご!」
何度折られてもすぐに元に戻るねぎまなのだった。
そこに、村の端で叫び声があがった。
俊足のスキルの少年がハンベルンの別荘に駆け込む。
「ダニエル様!魔族の襲撃です!」
それは平和の終わりの音だった。




