浩一の過去
一撃、二撃は避けた。3撃目はネギで受けた。だが4撃目が浩一の体を貫く。
「がはっ」
「こういちいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
自分を守ろうとした弱虫が、稲妻に打たれたのを見て、また目の前で誰かを……
倒れる浩一を誰かが抱き留めた。
「息はあるな、よく頑張ったじゃないか浩一、ここからは私に任せな」
ミッシェルがそこに居た。
「浩一!」
アイリッシュはダイから飛び降りて浩一に駆け寄る。
「ごめん、ごめん浩一、私のせいだ!」
「アイリッシュ、最高硬度のシールドを三枚張っときな、私は楽しもうかね!」
ミッシェルは笑いながらドラゴンに殴りかかる。ドラゴンは稲妻を放ち、ミッシェルをいくつもの雷撃が襲うが、ミッシェルには効果がなく、当たる雷撃も弾いている。
「すごい……」
アイリッシュは見惚れてしまうほどだった。
「うぅ」
腕の中から力のない声が聞こえる。
心音も弱く、もう死にそうだ。
「く、薬!ポーション!」
自分の作ったポーションを与えるが全然効いていない。
「どうしよう、どうしよう、死んじゃうよ……」
だんだん弱くなっていく心音、もう悩んでいる暇はない、魔法、ならば、
「ハイヒール」
アイリッシュの全力を持って上級光魔法のハイヒールをかけた。
苦しそうだった息は安定していき、
傷も消えていく。
「すー」
落ち着いた呼吸になり、完治したようだ。
「私、魔法なら………人が救えるのね………」
アイリッシュは涙を流しながら気持ちよさそうに眠る浩一の頬を撫でた。
ぐええええええという大きな音でドラゴンを見ればミッシェルの踵がドラゴンの頭を砕いていた。
「おわっ………た……」
アイリッシュはミッシェルと一緒に浩一を連れて帰った。
体力、肉体は回復したとはいえ、魔力が枯渇している。だから浩一は目を覚まさなかった。
ただ静かに寝る日々が4日続いた。
無理もない、ほぼゼロになるほどシールドを張り続けた。魔力を回復するのはなかなかに難しい。
昏睡状態の浩一、死んでもおかしくない状態だった。
でもアイリッシュの魔法で何とか一命を取り留めた。ミッシェルが「いつか目覚めるだろう」と言っていた。
アイリッシュはずっと浩一のそばで浩一を見ていた。
戦闘中に言っていた。浩一の過去、愛されなかった青年、
「う、うう」
「浩一!」
「あい……り……しゅ…」
「浩一が目覚めた!浩一が目覚めたよ!!」
アイリッシュの呼びかけに、みんな集まり、アリッサは泣きつき、ロトがおいおいと泣いて一気に騒がしくなった。
「さ、皆さん浩一さんは病み上がりです、騒がしくすると落ち着けませんよ、アイリッシュさん看病お願いします、皆さん出ますよ」
ダニエルがみんなを連れ出そうとしたが、アリッサが目を腫らしながら言う
「アイリッシュ、きつかったら私が変わってもいいのですよ」
「大丈夫よ、アリッサ、ありがとう」
本当は変わって欲しかったアリッサは頬を膨らましながら部屋を出て行った。
「ねぇ浩一、貴方の過去って聞いてもいいの」
浩一は薄く笑って口を開く。
神田浩一に、愛された記憶はない、物心つく前の幼い頃は老夫婦に育てられていたらしい、だが4歳のある日、老夫婦は莫大な財産を残し、この世を去った。
それから父に預けられ、幼いながらに家事もできた浩一は家政婦としてこき使われた。
父は老夫婦が死んだあと、すぐに愛人だった女を妻にした。そして浩一には一歳下の弟ができた。
弟は惜しみない愛を一身に受け、愛されることに疑いもなく、世界は愛に満ちていると思っていた。
そんな弟とは対照的に浩一は暴言、暴力にさらされ、愛などないのだと思っていた。
だから、浩一と弟、賢哉はお互いの存在を知って驚いた。
賢哉の前で両親は優しく温かなとてもいい親になり、
浩一の前で父と奥様は地獄の鬼とでも思うほど恐ろしい存在になる、
賢哉は兄を守ろうとしたこともある、
だが菩薩の様な顔の奥様に別の部屋に連れていかれ、その間父は般若の顔で浩一を罰した。
浩一の部屋は押し入れ、賢哉は両親に隠れて、食べ物を持ってきてくれたり、軟膏や冷やすものを持ってきてくれて手当してくれた。
そんな弟の愛に、優しい顔に、浩一は癒されていた。
こんなにいい子だから賢哉は愛されるのだ、俺もいい子になろう、いい子になれば愛されるかもしれないから、
でもそれはかなわない、
どんなに料理を頑張っても、
どんなに刺繍や部屋を綺麗にしても、
愛されることは無かった。それがなぜか、奥様が教えてくれた。
父は元々奥様と付き合っていた。
だが大学で父に一目ぼれした浩一の母は、大きな会社の社長令嬢で、
父の家を嵌めて借金を負わせ、助けてやるから結婚しろと迫った。
最初は抵抗した、借金も何とか返そうとした。
でも連日の激しい取り立てに父の両親は憔悴していき、
学校では、母の取り巻きが奥様に嫌がらせをしていました。
父と奥様は悲惨な大学生活を送った。
そして父は借金の為に結婚した。
結婚して母の家の後継ぎとして懸命に務め、その裏で奥様とも付き合っていた。
表向きに献身的な夫を演じた。憎い女を愛すふりをした。
辛さを奥様と分かち合いながら、復讐の時を待っていた。
そして母は浩一を産み、死んだ。
会長夫婦は娘の忘れ形見として浩一を大事に育てていた。
父は仕事の忙しさを理由に浩一を老夫婦に押し付けていた。そして浩一が家事がある程度できるほど大きくなった時に老夫婦は不慮の事故にあったのだと、だからお前は愛されないのだと、
奥様は浩一を殴りながら、恨みを発散するように言っていた。
老夫婦の事故は本当に不慮の事故だったのだろうか、
そして浩一は家事とストレス発散の相手を押し付けられ、
賢哉は習い事に部活にと充実した日々を送る。
浩一に体を鍛える暇は与えられなかった。
報復を恐れた両親は報復させないため家事以外はさせなかった。
けれど両親の出張の時、旅行の時、賢哉は家に残り、浩一に自由をあげた。
一緒にゲームをして、アニメを見て、代わりに料理も作った。
それだけじゃなく両親に抗議もしてくれた。
だが将来の社長に悪影響になるなら賢哉を一人暮らしさせると脅され、両親の酷い浩一への扱いを見逃すしかなかった。
そんな生活の中、賢哉に作る料理が一番の楽しみだ、運動神経のいい賢哉の体を作るため沢山料理のことを勉強した。家事も賢哉の為だと思えば辛いことなんてなかった。
たまに少し休んで公園にいると、3歳のロトがなぜか懐いてきてロトの母親もおっとりしていていい人で、楽しみが一つ増えた。そんな日々だった。愛は弟がくれた。
優しさはロトとロトの母親がくれた。そんな時の召喚だった。
「俺が居なければあの家は平和だ、俺に優しさをくれたロトを俺は守りたい、強くなりたい、だって俺、ロトの世話係だからさ」
「そっか、じゃあ私が魔法を鍛えてあげるよ」
「付いてきてくれるの!?う、」
喜び起き上がり眩暈を起こす浩一。
「ほらもう寝て、明日からは修行よ」
アイリッシュは浩一に布団をかけてやり、目を閉じさせる。そして優しい優しい歌を歌った。
子供に歌うように愛されなかった少年が初めて自分に歌ってもらえた子守歌は異世界の子守歌だった。
扉の前で声を殺して泣く女二人と幼児と僧侶と家令、真剣な顔で壁を見るシスターと初代勇者。
それが18という若さで精神攻撃耐性SSSランクの理由だと全員が知ったのだった。




