一緒に行こうよ
「私は一緒に行けない」
アイリッシュが悲しそうにロトに言う。
朝早く、ロトはアイリッシュに勇者パーティーに入ってくれと言った。
「なんでだアイリッシュ、君の魔法なら魔王とも戦えるのに」
アイリッシュは顔を歪める。
「本当はロトたんと一緒に行きたいよ、仲間になりたい、でも私、薬が作れないの、魔法使いなのに薬が作れないまま師匠から離れられないの、だから、ごめんね!」
アイリッシュは名残惜しさを断ち切るように走り去っていった。
エリーは困ったように言う。
「私のせいでこの村には魔女は薬を作れるのが当たり前という風習ができてて、娘も孫娘も魔法薬が上手く作れててね、でもアイリッシュは魔法の才能には恵まれていても、魔法薬はなかなか難しいみたいで、それで昔から子どもたちにからかわれていて、今は皆気にするなって言っているのだけれど、あの子どうしてもそれが気になるみたいで、それに……」
エリーが言葉を飲み込むのを見て、ロトは少し悲しい顔をする。
「そういえば、エリーの娘も孫も見てないな」
エリーは悲しい顔をして言う。
「5年前、村に魔族の襲撃があってね、魔法使いの子ども夫婦と孫夫婦は戦いに出て、幼いアイリッシュと私は避難していたのだけれど、子ども夫婦も孫夫婦も戦死してしまって、アイリッシュは何とか薬を作るのだけれど死んだ者には効かなくて、当たり前よね、蘇生術の魔法ならあっても薬は生命力をあげるだけなんですもの、でもあの子には薬しかなかったの、私は薬しか教えられなかったから、最高の魔法使いの私の薬が魔法より無力だなんて思いたくなかったのでしょうね」
悲しい過去、きっとアイリッシュは必死に薬を作ったのだろう、頑張ってどうにか蘇らそうとして教えてもらった薬を必死に思い出して、沢山、沢山試したんだろう、沢山沢山試してそれでもだめだった。
尊敬する曾お祖母ちゃんの薬が効かない、そんな事あって欲しくなかった。
だから薬を必死に勉強しているのだろう、魔法より薬で人を助けたいのだろう。
「それは根深いなぁ」
ロトは考え込み浩一を見る、
「ならアイリッシュに浩一の魔法の先生をしてもらおう」
「どうしてそうなるんだ!?」
「浩一はアイリッシュに料理を見せるんだぞ」
「どういうつながりが……」
浩一が付いて行けていないのに、ロトはエリーに話しかける。
「エリー、アイリッシュは大体の魔法はできるんだろ」
「えぇ、私が上級魔法を使えないから上級魔法は独学みたいなのだけど、とても上手に使えているわ、薬ばかり作っていても、薬に込める魔力の質は良くならないと言って魔法を練習させているから」
「なら大丈夫だな!今日からだ!エリー頼むよ」
「えぇ任せて、では私も帰ります、アリッサ様、ダニエル様、失礼します」
エリーは楽しそうに家に帰って行った。
そして昼の中頃、アイリッシュがハンベルン邸にやって来た。
ロトとマーサは屋敷で前聖女の日記を読んでいる。
演習場ではミッシェルとダニエルにぼこぼこにやられ、アリッサに治療されている浩一が居た。どうしてこんな弱い奴が勇者パーティーなのか心底理解できないとアイリッシュは顔をしかめる。
「お、アイリッシュ、来たな」
ミッシェルが気がついて。そう言えば浩一もアイリッシュに気がつく、
「あー、ごめんねアイリッシュさん、急に魔法の先生なんて」
「本当よ、あんたみたいな雑魚になんで私が魔法なんか教えなきゃいけないのよ」
アイリッシュの言葉にアリッサは不機嫌になる。
「アイリッシュ!言いすぎですわ!確かに浩一さんは最初は全然ダメでしたけど最近は手加減されてるのにぼこぼこにされながらも戦えてるんですからね!」
「アリッサ、あんまりフォローになってない」
浩一がそう言うとアリッサは「申し訳ありません」と言いながら笑顔で治療をする。
ヒールで怪我や疲労を癒してもらった浩一がアイリッシュの方に行く。
「全然ダメダメな生徒かもしれないけどよろしくな、アイリッシュ先生」
浩一はニカッと笑ってアイリッシュに手を差し出す。
アイリッシュは顔を真っ赤にさせながらその手を叩く、
「私の訓練は厳しいんだからね!覚悟しなさい!」
「あぁ、よろしく」
浩一は手を見て、苦笑しながらアイリッシュに挨拶するのだった。
そして、まず浩一の実力を見ることにした。
アイリッシュは昨日のミッシェルの様に石壁を作る、強度は鋼、その石壁に最近やっと使えるようになったファイアーボールを打ったが、ファイアーボールはひゅるひゅるひゅるーと飛んでいって石壁にぶつかり、ぽんと消えた。
「問題外すぎるわ」
「やっぱ雑魚いなぁ」
「支援魔法は上手いんですがね」
「可愛いファイアーボールですわ♡」
次にウォーターショット
ぴゅるるーと指先から水が出るだけなんともお粗末、エアーカッターはシュッシュと風の刃が飛ぶがぴゅーと飛んで行ってちょっと石壁を傷つける。
リーフカッターも少し壁を傷つけた。サンダースピアはぴゅーんととんでぱっとはじけ、グレイシアショットは小さく岩壁に当たって砕けた。ストーングラーポの石つぶてもカチンとぶつかって落ちるだけ、フラッシュビームは穴をあけた。光魔法の適応力は高いらしい。
ダークボールはそもそも出せない、バリアはアイリッシュの攻撃を防げた。
支援魔法のブースト系は5倍の能力アップというありえないものだった。
「魔力はあるのになぁ」
「戦闘能力だけ見事に無いのはなぜでしょうねぇ」
「ブースト5倍ってありえないでしょ」
「浩一様はとことんサポート系なのですね、そんなところも素敵です!」
うーんと考え、ミッシェルがアイリッシュを見る。
そこでダニエルと目が合い頷く、
「アイリッシュ、浩一と一緒に森で魔獣狩りしておいで」
「魔獣狩りですか?」
ミッシェルの提案に疑問を口にすると、ダニエルが答える。
「浩一君は適正試験以来の戦闘経験がありません。適正試験もテイムしたモンスターが戦っていたと聞きます、ならばゴブリンなど森の低級モンスターから経験を積めば、戦うという命のやり取りをリアルに感じることができます。そうすることで浩一君の押さえつけられている魔力を魔法として真に発揮できるようにするのです」
「なるほど」
荒療治だが短期間の魔法上達には効果的な方法だ、だが、その浩一はそれを聞いて、
「じ、じっせん……ゴブリン……」
緊張して震える浩一を見て、アイリッシュはほとほと呆れる、勇者パーティーの一員であるのにゴブリンごときに怯える男、なんて頼りないのだろう、こんな奴の教育をするより、浩一よりも使えるこの国の人間にロトの世話をさせた方が絶対にいい。むしろ自分が世話係になりたいくらいだ。
だが、アイリッシュはまだ薬の調合に不安がある、アイリッシュの薬では身体能力を上昇させる薬が二倍くらいしか効果がない。
エリーは勇者パーティー時代、薬でパーティーを助けていたらしい、このパーティーには浩一が居るけれど浩一の料理は携帯できない、なら携帯できる薬を作れる自分の薬が勇者パーティーに相応しいものでないと付いて行けない。
なのにこの男はこんなに弱いのにプライドも無く、弱いくせに世話係だと言って勇者パーティーに居る。
こんなに気分を害すことはない。魔法なんて誰でも使える。
その中でも魔女と言われるのは上級魔法を使える者、又は薬に精通する者の二種類あり、エリーは薬に精通した魔女、それは母もお婆さんも一緒、自分だけ上級魔法を使える魔女、薬には詳しくなっているのに作るのは全然ダメ、そんな自分が情けない。賢者である薬師の孫なのに……
森に向かいながらアイリッシュは浩一を見る。アイリッシュと浩一だけで森に出され、緊張に震える浩一を見て、これが憧れの勇者パーティーの一人かと思うと本当に呆れる。
Eランクの小型魔獣レオルオの攻撃を見切れず、頭を砕かれかけたが、アイリッシュが吹き飛ばした。
その後、Dランクのゴブリンを見つけたアイリッシュは、
「んじゃ、浩一行きなさい」
「え、えぇ3匹もいるよ?アイリッシュさん一緒に行ってくれないの?」
「そんなんじゃ修行にならないでしょ、ほら」
アイリッシュは浩一の背中を押す、浩一はたたらを踏みながらゴブリンたちの前に出たものだから、3匹のゴブリンは浩一に襲い掛かる。浩一は逃げまどいながら魔法を飛ばす、弱い魔法で致命傷にならない、なんて弱いのか、助けようと思った時、浩一が今までと違うフラッシュビームでゴブリンの胸に穴をあけた。
それを見た浩一はしっかりと立ってゴブリンと向き合って、フラッシュビームをゴブリンに飛ばす、適性のある光魔法なのもあるが先まで光るだけだったのに明らかに違う。
「やる時はやるのね」
アイリッシュは思わずつぶやく、そんな声が聞こえてない浩一は自分の手を見てぱぁと目を輝かせ、アイリッシュを見る。
「アイリッシュ!やったよ!俺やった!」
喜ぶ浩一の姿が少し可愛く見えて、そんな馬鹿なと首を振る。
「ゴブリン3匹ごときで喜ばない!まだまだ行くわよ!」
だがその後、ブラッディースネーク、バイコーンと出会うが、浩一は全然落ち着いて対応できないので結局アイリッシュが一発で倒す。
「アイリッシュはすごいなー、俺ダメダメでごめんね」
「本当よ、それでよく勇者パーティーよね」
「あぁ俺も思うよ、でも俺には使命があるから」
浩一は自分の手を眺める。
「使命?ロト君をお世話するだけでしょ」
「はは、まぁそうだけど、」
「そんな弱くて勇者様の世話係なんて本当に信じられない、足手まといじゃない」
「手厳しいなぁ、アイリッシュの方がふさわしいよね」
アイリッシュは浩一を睨む。
「そうよ、私の方がふさわしいわ、けどまだダメなの、私は効果二倍の薬しか作れない」
「修行しながら旅しちゃダメなの?」
「は?」
「アイテムボックスに薬草とか入れて持って歩けばどこでも作れるし、実際俺達で薬も試せるし修行になるんじゃない」
「そ、れは……」
「あ、ごめん、偉そうだったかな、でもさ、アイリッシュ魔法凄いから、俺たちのパーティーに居てくれたら心強いなって思うんだ、だって魔法使ってるアイリッシュカッコいいし、その魔法できっと沢山の人が守れると思うんだ、だって薬も魔法もあのすごいエリーさんから受け継いだ物じゃないか!」
何の曇りもない顔で朗らかに言う浩一、平和な世界でのんびりと生きたんだろう、モンスターを倒すこともなく魔人に襲われることもなく、愛されて幸せに……
「どうせあんたは家族に愛されて平和にのんびり生きて来たんでしょ、私の悩みなんてわからないわ」
「おれは……」
突然、キエエエエエと言う鳴き声と共にサンダードラゴンが現れた。
「なんでこんなところにSランクモンスターが!?」
アイリッシュは浩一を背中に隠す、
「浩一逃げ」
耳をつんざくような鳴き声と共に稲妻がアイリッシュと浩一を襲う、アイリッシュはシールドを出す、だが吹き飛ばされる。シールドを破られ、攻撃をくらい、アイリッシュは重傷を負う。
「浩一、逃げて・・・・」
だが浩一はアイリッシュの前に出る、そしてライフボックスからオノケを出す、
「ケン!ミッシェルさんたちを呼んで来てダイ!ユウ!アイリッシュを守れ!シールド!!」
浩一はシールドを張る。
そのシールドに轟雷が降り注ぐ、少しひびが入るシールドを見てアイリッシュは顔を青くさせる
浩一はシールドを二重三重に張る。
「何……してんのよ!逃げなさい……よ!雑魚の癖に!!」
「弱いからって守らない理由にならない!ここから僕らが逃げたら村にこのドラゴンが行ってしまう!ならここでミッシェルさんたちが来るまで耐えるしかない!」
弱虫で、ゴブリンに怯えて逃げ回るのにSランクのドラゴンに立ち向かう、よく見ると震えながらも必死にシールドを何度も張りなおしている。
なんでよ……逃げてよ……弱虫の癖に、雑魚の癖に平和ボケで戦いも知らない軟弱者の癖にどうして立ち向かうの、弱いくせに!弱いくせに!
シールドを張り、内部からフラッシュビームを飛ばしてヘイトをとるのも忘れない、なんでそんなことができるんだ?怖いくせに怯えているくせに、普通逃げるでしょ
破られても、破られてもシールドを張りなおす、顔色が悪くなってきた浩一、もう限界なのだろう、ミッシェルたちは間に合うだろうか。だいぶ森の奥に来ていた。
「アイリッシュさん、俺ね」
浩一はシールドを張りながらアイリッシュに話しかける。
「俺さ、前世で何かやらかしたんじゃないかってくらい人に恵まれてなくてさ、両親にずっと家政婦として扱われて、殴られたり、蹴られたりは当たり前だったんだ、唯一の味方は両親に可愛がられている弟だけ、周りも愛されない俺を気遣う人はいなかった。ロトだけだよ弟以外で俺になついていたの!だからロトを守ってやりたいんだ、弱いけど、弱いからって人を守らない理由にならない、この召喚に巻き込まれて世話係になったんだから!俺はその使命から逃げ出さない!」
何それ、何それ、なんでそんな風に思えるのなんで世界を恨まないでいられるの、弟を恨まないの?ロトが懐いていたからって、怖がりの癖になんでそんな使命なんて受け入れられるの、わからない、わからないよ、
「逃げてよ……」
これじゃ見下げていた私が馬鹿みたいじゃないか、
もう新しいシールドを作れなくなっている。もう無理だ。
「チッ!ダイ!ユウ!アイリッシュさんを連れて逃げろ!!」
「何言ってんのよ!あんたも逃げなさいよ!!」
「俺はドラゴンをできるだけ引き付けます。だから逃げて!!ダイ!ユウ!シールドを解くぞ!」
「あんたが引きつけれるはずないでしょ!無駄死によ!逃げてよ!!」
ダイはアイリッシュを抱える。ユウは盾をかまえてダイとアイリッシュを守るように隠す
「3,2,1,逃げろ!」
オノケ達はアイリッシュを守りながら進む。浩一は雷を避けようとしたが、稲妻が浩一に向かう。
「浩一!!!!!」




