魔法使いアイリッシュ!
エリーとロトが話し終わり、店に戻る。マーサはダニエルに話を聞いて喜んでいて、エリーのひ孫は何か薬を作っている。
「マーサ楽しそうだな」
ロトの言葉にマーサは顔を輝かせてロトを見る。
「えぇ!興味深い話をたくさん聞けました!」
「そうか、よかったな、それより、アイリッシュちゃん」
ロトがエリーのひ孫を呼ぶと、アイリッシュはびっくりしてロトを見て目をハートにする。
「な、なぁにぃ?可愛いねぇ僕ぅ」
メロメロなアイリッシュがロトの方に行って抱き上げ、可愛い可愛いと撫でる。
どうやら魅了にかかっているようだ。
「アイリッシュ、彼は勇者よ」
エリーの言葉にアイリッシュは驚く。
「勇者なのですか!?すごーい!こんなに幼いのにすごいねぇ勇者様ぁ」
よしよしと頭を撫でロトを可愛がるアイリッシュを見てエリーはやれやれと首を振る。
ロトは撫でられながら、アイリッシュにきゅるんと言う。
「俺ぇアイリッシュの魔法見たいなぁ」
「いやだわ、赤ちゃんとは言え元恋人のそんな行動見るの、少し寒いわよ」
そんなエリーにロトは頬を膨らませる。
「なんだよー、可愛いだろー」
「前世がちらついて無理」
エリーにバッサリ切られたのだった。
その後、ロトたちはハンベルン家の別荘にエリーとアイリッシュを招き入れた。
「あらアイリッシュ、エリー様いらっしゃい、どうなさったの?」
アリッサが演習場に来たエリーとアイリッシュに、嬉しそうに話しかける。
今、浩一はミッシェルに稽古してもらっている。
木刀を持つミッシェルと、くまさんのひらひらのエプロン姿でネギを振り回す浩一の姿を見てアイリッシュは怪訝な顔をする。
「あいつ、ふざけてるの?」
アイリッシュの言葉にマーサが真面目に言う。
「いえ、彼のネギとエプロンは神殿から下賜された正式な武器とアーマーですよ」
さっきからミッシェルは動いていないのに、浩一は一太刀もミッシェルに与えることができていない。まるで子供を相手にする大人のようで、全然戦闘になっていないようだ。
「あれ、本当に勇者パーティーの1人ですか?」
怪訝な顔をするアイリッシュにロトが言う。
「浩一の料理はプロ顔負けだ、しかも食べると一定時間ステータスアップしたり傷も癒されるぞ」
「そうなのぉ?ロト君のお友達はすごいねぇ♡」
メロメロしていたアイリッシュが姿勢を正し浩一を見る。
「魔法薬と同じ効能の料理ねぇ」
木刀で吹き飛ばされる浩一を見ながらアイリッシュは何か思うのだった。
浩一を笑顔で吹き飛ばしたところでミッシェルがアイリッシュ達に気がつく。
「おや、勇者、元恋人に許されたのかい?」
木刀をアイテムボックスに放り込んでミッシェルはロトの方に行く。浩一はアリッサに治癒されながらそちらを見る。
「あ、本当だロトおかえり」
傷だらけの体を治してもらいながらのほほんと言う浩一にアイリッシュは怪訝な顔をしたのだった。
そして、今、アイリッシュは、頑丈な石壁の並んだところに立っている。
「んじゃ、アイリッシュ、その石壁3つ、自由に破壊してくれ」
石壁を生成するために地面に触れていた手をぱんぱんと叩きながらミッシェルが言う。そしてミッシェルが石壁から離れた。
みんなが見守る中アイリッシュは石壁に向かってステッキを向ける。
深く息を吸い、鋭い目で石壁を見る。
「ファイアーガン!」
すっと飛んだ火の塊が石壁にぶつかり、大きな穴をあける。
「「「「おおぉ」」」」
次の石壁に「メイストローム」と言うと水の渦に飲まれ、石壁は粉々になった。
次にサンダーストームで雷が石壁に降り注ぎ破壊される。
「「「「おおぉ!」」」」
見事に破壊された石壁。確か、石壁の強度は込める魔力量によって変わる。
ミッシェルはどれほど魔力を込めたのか。
「ほぉ、強度はミスリルレベルだったんだけどな」
「「「え」」」
「ん?」
つまり、アイリッシュはミスリルを破壊したということ。アイリッシュの魔法もすごいがミッシェルの力もすごい、浩一は飛んできた破片を鑑定する。
【ミスリル強度の石】
「ほ、本当にミスリルだ」
「本当ですね」
隣でダニエルも鑑定しているようだ。
そしてみんなの目はアイリッシュに向く、アイリッシュは少し頬を染めながら噛みつくように言った。
「な、なによ!こんなの簡単でしょ!」
そう言いながらもぷるぷる震えている。ミスリルでなんて訓練したことはないだろう。自分の魔法でミスリルが破壊できるなんて聞けば驚くのも無理はないだろう。自分の魔法に驚き怯える様は何だか可愛いが勝ち気な性格が災いして素直に驚けないようだ。
けどそんな事より、浩一は興奮している。
「アイリッシュさんすごいね!魔法の天才だ!」
あのミッシェルの作ったミスリルの石というか岩壁を壊した。その威力と派手さが男の子の中二心をくすぐる。
今まで見た魔法と言えばミッシェルの威圧とテレポート、ロトの魅了、治癒と派手さは無かった。やっと魔法らしい魔法で派手な見た目ですごくカッコイイ物を見た。
魔法って怖いだけじゃない!とキラキラした目でアイリッシュを見る浩一、そんな浩一にアイリッシュは顔を赤くしながらムッと顔をしかめて言う。
「あんたが勇者パーティーの癖に弱すぎるだけでしょ!どうせ魔法もショボいんでしょ!」
「こら、アイリッシュ!」
こつんとエリーがアイリッシュを小突く。
「いったぁ!だってエリーばぁ様!」
「まったく、ごめんなさいね、浩一さん」
「あ、いえ」
はははと笑いながらもぐっさり刺さった言葉に少し傷ついていた。
「エリー様、アイリッシュ、夕飯を食べて行かない?今日は浩一さんが作ってくださるのよ!」
その言葉にアイリッシュは怪訝な顔をするがエリーは微笑む。
「異世界の料理、とても興味ありますわ、御一緒してよろしいかしら、浩一さん」
浩一は優しい美しいお婆さんの笑顔に少しほっこりしながら答える。
「はい、頑張って作りますね!」
自分の力を一番発揮できるのは料理、それってどうなの?って思うがステータス上昇効果を持つ料理なのだから、勇者パーティーの為にもなるだろう、だからいいのだと……いうことにしている。
その夜、浩一は馬車に乗せてくれて、屋敷に住まわせてもらい、訓練までしてくれる。そんなお礼に浩一は訓練の走り込みのついでにオノケたちに食材を狩ってきてもらっていた。
浩一はその近くで薬草を鑑定スキルを駆使して摘んでいた。
オノケの捕ってくれたはぐれウ・コッケイと採ってきた薬草を使って料理をする。
「よし、作りましょう!」
「はい、よろしくお願いします」
「お願いしますね」
お手伝いしてくれるハンベルン家の家令レイブンと、見学のエリーとアイリッシュが居る。
薬草を料理に使うのは珍しいらしく、見学したいとのことだった。
「では浩一様ウ・コッケイは捌いときましたよ。どうしましょうか」
浩一は採ってきたハーブを見てうんとうなずく。
「ハーブソルト焼きと薬膳スープにしましょう」
「ほう、それはどんな」
レイブンに聞かれ、浩一はウ・コッケイの大きな手羽を持つ。
「まず肉を切りましょう」
そう言って浩一は肉を食べやすい大きさにある程度切っていく。他の食材も切って、
鍋に手羽肉、椎茸に似た茸、ニンニクとこちらではジーニアと言われる生姜を入れて煮立たせる。
「灰汁取りお願いしていいですか?灰汁が取れたら、そこに清酒と塩、コクの実とタイガの実、八角を入れてください」
「把握しました。」
次に浩一は朝の内に捌いてもらっていたもも肉、ステーキサイズで少し大きめに切られたそれに、魔法で乾燥させ細かく砕いたハーブたちを塩と混ぜたものを振りかけ、マリーティアというローズマリーに似たハーブと一緒に漬け込んでいたものを取り出す。
魔道コンロにフライパンを乗せ、油を広げたそこに皮目から鶏肉を置く。すこしパチパチと聞こえてきたらアルミホイルがあればいいが、無いのでスキレットの様な物を置いてその上に重りを置く、
しばらく見ているとほのかにいい匂いが広がる。
重りとスキレットを退けてひっくり返せば、パリッと焼けた皮がおいしそうだ、
「うん、仕込み多めにしといてよかったな、後は裏面も4分くらい焼いて」
ウ・コッケイの肉はじゅーという音と、ハーブのいい香りに肉の匂いを乗せて食欲をそそらせる。
それを浩一は人数分焼けば、薬膳スープもいい感じに煮出され、最後にネギを入れて煮立てれば完成だ。
メイドのメライヤとレイブン、浩一で食卓に食事を持っていく。ロト達はもう座っていて、食事を並べ、みんなで楽しく食べる。
「やっぱり浩一の料理は力がわくぜぇ!」
「薬草がこんなに風味を豊かにするんですねぇ」
「本当に味わい深くなりますねぇ」
「ずっと浩一の料理が食べたいよ」
もりもり食べるロトと、感慨深いように言うマーサ、ダニエル、ミッシェル。
「本当にとても美味しいです!」
「まぁ本当にステータス上がってるのねぇ」
「なにこの効能、ステータス3倍上がるの!?」
アリッサは楽しそうに食べ、エリーとアイリッシュはステータスを確認しながら食べている。
研究しながら食べていたエリーが「あら」と声を漏らす。
「浩一さん、料理にも魔力を込めているのね、だから魔法薬みたいにステータス上昇するんだわ」
ダニエルとミッシェル以外が、「えっ」と浩一を見る。
「え、そうなんですか?」
浩一も驚いて目を丸くする。
そんな中、一人、動揺もせずダニエルはワインを傾けながら浩一に言う。
「浩一さんは付与魔術の才能があるんでしょうねぇ、魔力を抑える訓練もあまり進んでいないですし、自然と料理をする時に、真心と一緒に魔力も注いでしまうんでしょう、そして浩一さんの魔力は親和性が高く妖精の物に近い、それがステータス3倍なんてとんでもない効能が現れるんでしょうねぇ」
「俺の魔力、妖精と一緒なんですか!?」「妖精の魔力!?」
アイリッシュと浩一は驚き、他のメンバーは納得する。
「だからこんなに力が湧くんだな!」
「なるほど、ダニエルさんはエルフだから魔力が見えているんですね。さすが召喚者、特別なところがありましたね」
「浩一さんは清い方ですものぉ」
「美しいエメラルドの心地いい魔力ですよねぇ」
「訓練に付与魔術も入れようか」
「なるほど、魔力を込めて作るといいのですね、勉強になります」
「レイブンさんの料理がレベルアップしますね」
料理人も兼任しているレイブンはメモしている。
メイドのメライヤも嬉しそうに言う。
「ん?なら俺、魔力抑えない方がいいですか?」
浩一の問いにミッシェルが言う。
「いや、魔力をコントロールできれば、効率的に効能を引き出せるよ、頑張ろうな」
「はい」
そんな会話にみんな笑うのだった。
ただ一人アイリッシュだけが悔しそうな顔をしてうつむいていた。




