置いて行った君と
翌日、浩一はいい香りを嗅ぎながら、鳥の声と共に暖かい日差しを感じて目を覚ます。何だか体に重みを感じながら左を見ると、美しい顔のミッシェルが見える。
「ミッシェル・・・・さん?」
「ん、ん、浩一、おはよ」
「おはようございま・・・・え?」
浩一は顔を引きつらせる。そして後ろからぎゅっと抱きしめられる。
「おはようございます♡浩一様♡」
「な、なんでええええええええ!?!?!?」
浩一の声が屋敷にこだましたのだった。
浩一的に衝撃的な朝になり、疲れた面持ちで朝食をとる浩一に対してミッシェルとアリッサはご満悦、
そんな3人にロトは不満げに言う。
「羨ましいぞぉ浩一ぃ!美女二人に囲まれて目が覚めるなんてさー!」
「不誠実です」
マーサは女子二人に厳しい視線を送る。
「いたいけな男の子のベッドにこっそり潜りこむなんてどういう神経をしているのですか!」
「あら、添い寝しただけですわ」
「そーそー寝ただけだよ、なーにを想像したのかなぁエロ僧侶ぉ」
「な!何も想像していません、お前と一緒にするな!破廉恥シスター!」
貴族の朝食とは思えない騒がしい朝を浩一達は迎えたのだった。
朝食後、浩一はミッシェルと訓練をし、マーサとロトは、ダニエルの案内でロトの前世の恋人エリー・マーフィーに会いに行く。
ダニエルに案内された家は質素で小さく、けれど大きな畑と小さな庭がある薬屋の看板を掲げた家だった。
ダニエルが扉を開ければ鈴が鳴る。
「おはようございます、エリーさん。いらっしゃいますか?」
「はいはい、あらダニエル様いらっしゃいませ、今日はどのような御用ですか?」
優しそうな銀髪のお婆さんは、朗らかに笑ってダニエルを見ていた。
だが、マーサの腕の中のロトを見て表情が変わる。
「エリーさん、実はあなたに会いたいというか……」
ダニエルがロトを紹介しようとしたが、エリーの顔がとても冷たくなっている。
「それは私の言葉を聞かず勝手に死んだ馬鹿の話でしょうか」
「馬鹿だなんて薬師え」「待てマーサ」
マーサがエリーに反論しようとしたらロトが止める。
「マーサおろせ」
「はい、ロト様」
マーサがロトをおろすと、エリーは冷たく言った。
「そんな見た目で過去と同じ声なんて気持ち悪いものねダンテ」
ロトは愛おしさを込めて言う。
「そう言うな、口を成長させなければ舌が回らなくてな、お陰でエリーとスムーズに話せるだろ」
「私の話を聞いてくれなかった人の話を聞けと?」
冷たい視線でエリーは言う。
「あぁ、悪い、わがままで」
エリーは相変わらず冷たい視線だがロトは暖かな視線を送り続ける。
そしてエリーは1つため息をつく。
「ダンテだけ来て、ダニエル様、僧侶様そこの席でお待ちください・・・・アイリッシュ!お客様にお茶を」
「はい、お客様こちらに」
店の奥から菫色の髪の女の子が出てきて店の隅にある机と椅子2脚のもとに案内する。エリーとロトはその子の横を通り店の奥に入って行った。
エリーとロトは小さな庭に出る。そこには薬草ではなくカスミソウが咲いている。
「いい庭だな」
ロトの言葉にエリーは冷静に言う。
「カスミソウ、村を出る時にあんたと埋めた物をここに持ってきたの」
「そうか」
2人は黙り、静かな時間が流れる。まるで大昔の恋人だった2人のような優しい時間。
「魔国は、いいところだった?」
「俺が殺されたのにそう聞くのか」
ははっとロトは笑う。エリーは何も言わない。
「魔国は平和で優しくて暖かい国民に溢れてた。互いを助け合い支え合う、王を信じ、笑顔溢れる国だった。そんな国だった、そんな国の王を殺したから俺は殺された。」
「敵を討たれたのね」
「あぁ、あっさりとな」
ロトは苦笑しながら言う。
「教会はね、貴方が新たな魔王と交渉しようとして無慈悲に殺されたって発表したわ」
「そうか」
「えぇ」
また沈黙。
そしてエリーが話し出す。
「おばあちゃんは教会が嫌いだった、私もそんなに好きじゃなかった。でも教会に居たあなたは好きだった。誰よりも真っすぐで優しくて馬鹿なあなたが大好きだった。だから貴方が勇者になる時、私も付いて行った。」
「あぁ、あの時は嬉しかった」
沈黙、
2人の表情は柔らかな物になっている、そしてエリーは一筋の涙を流す。
「どうして私を連れて行ってくれなかったの、どこまでも・・・どこまでも付いて行くって言ったのにっ!」
悲痛な顔をしてエリーは涙を流す、ロトは優しい顔をしてエリーを見た。
「ごめん、でも君に生きて欲しかった」
ロトに抱き着き、わんわんと子供のように泣くエリーをロトは優しく撫でた。
小さな頃泣いていたエリーを励ましていたように、2人は100年を取り戻している。
誰よりも優しくて、平和な国から王を奪った償いで死にに行ったおバカな勇者と、泣き虫の薬師の魔女の静かな時間だった。
泣いて泣いてしばらくして泣き声も出なくなった。
「なぁエリー、俺が死んだあと、幸せだったか?」
エリーはロトから離れ涙を拭く。
「幸せだったわよ、あんたの身勝手で置いてかれて泣いていた私を夫が支えてくれた。私があんたを好きでもいいから側に置いてくれって、優しくて寄り添ってくれて、息子も娘もできた、孫も生まれた、ひ孫も生まれた。
ひ孫は私の薬屋を継ごうと一生懸命薬を勉強しているわ、幸せよ、どんな家庭よりも、どう? 悔しい?あんたなしで幸せになってやったわよ」
ニカッと笑うエリーにロトは柔らかな笑顔で返す。
「君が幸せになれてよかったよ、願うならそばで見ていたかったけど、俺じゃその幸せは与えられなかった。エリーの旦那さんに感謝だなぁ」
「えぇ、本当に素敵な人だった、あんたに会わせたかったわよ、少しは見習えって」
「手厳しいなぁ」
エリーは呆れたような笑顔でロトを見る
「あんたは生まれ変わっても変わらないのね」
「俺は俺だからな」
ロトは胸を張って言う。
「あー、今のパーティーメンバーの苦労が目に見えるわぁ、あんたは本当に自由で、でもちゃんとメンバーを理解してて、最高の勇者だったわよ」
「ありがとう」
「でも赤ちゃんで勇者は早すぎない?」
エリーの呆れた笑顔がロトには嬉しくて昔の旅をしていた頃のようで、ロトはニカッと笑う。
「いいんだ頼れる世話係が居るからな」
「どんな子」
「俺の召喚に巻き込まれて一緒に来た子でな、前の世界ではしっかり者で良い子で本当に純粋で思春期真っ只中な男の子で、戦闘スキルはてんでダメだがそれ以外はSSS級だ」
「それは大丈夫なの?勇者パーティーよ?」
「大丈夫だ!だってSランク冒険者のシスターミッシェルと今はダニエル初代勇者に鍛えられている!きっと強くなるぞぉ!」
「あんたが言うなら大丈夫なのかもね」
エリーの笑顔を見て、ロトは優しい笑顔になる。
「私のひ孫ね、魔法が上手いのだけど、薬が下手で、それを気にしていてね……私は魔法が下手だったから羨ましいけど、あの子にとっては私が障害なのよね、きっと」
「魔法が上手いのか」
「えぇ、とても賢者にだってなれるわ」
今までの事を、見せられなかった過去を、話して、聞いてもらって、心を通わせる。
「エリー、ひ孫を俺に預けてみないか」
エリーはにっこり笑う。
「えぇ、あの子に薬以外の道を見せてあげて欲しいの、きっと旅をすれば、何か変わるわ」
清らかな朝の小さな優しい庭で過去の恋人たちは朗らかに笑い合ったのだった。




