メンヒルに来た理由
部屋に荷物を置き、歓迎のご飯を食べ、後は風呂に入って寝るだけだ。
ハンベルン家のこの別荘は温泉がつながっているらしく、男たちは温泉に入る。
「はぁ~~~~、極楽だぁ」
「三歳児がオッサンみたいな反応するなよ」
浩一に抱っこされて溺れないようにお風呂に入るロトにツッコミを入れた。
「ロト様!ここに浮き輪が!」
「niceマーサ!」
マーサの出した浮き輪に入ってぷかぷか浮かぶロトは、
「はぁ~、本当はミッシェルさんとアリッサちゃん入りたかったんだけどなぁ」
「ダメです」「ダメだろ」「許されませんね」
三人に否定されてロトは口をとがらせる。
「俺は3歳だぞー」
「中身がオッサンだろ」「中身が大人ですからね」「あんな破廉恥シスターに任せられません!!」
何だろう、一人だけ違う言葉があった。
「そういや、ロト、なんでここに来たかったんだ?亜人の国を避けるためか?」
「んあー?なんでー」
浩一の言葉にロトはふにゃふにゃ言う。
「だって地図見たけどエルフの国の隣のサイラからエルフの国を通ったほうが魔国には近いだろ?メンヒルは逆だ大陸の端で東の人間の国、竜馬国の隣だろ?」
ロトはまだふにゃふにゃと言う。
「よく勉強したなぁ、こういちぃ」
「真面目に話して欲しいなぁ」
その浩一の言葉にロトはキリッと言う。
「ここにはな、俺の恋人の最強の魔法薬師エリー・マーフィーに会いに来たんだよ」
「恋人?でもお前100年前の人なんだろ?」
その浩一の言葉にマーサが答える。
「エリー様はエルフのクオーターなのでまだ生きてらっしゃいますよ、人間の血が濃いようなのでもうだいぶお歳を召してらっしゃいますが」
なるほど、なら長生きしているのも不思議じゃない、その話にダニエルが何か思い出したように言った。
「確か前勇者は魔国で死んでいましたね、そういえば私が受け渡しを仲介したのでした。」
「あ、それはご迷惑おかけしまして」
「えいえい、お気になさらず」
なんて不思議な会話だろう。自分の死体を運んだ人にお礼を言う光景など、なかなか見られるものではないだろう。
ダニエルに丁寧に頭を下げた後、ロトはまた浮き輪でぷかぷか浮いてふにゃっと言う。
「魔国にはエリーの反対を押し切って一人で行ったんだぁ、帰って来るつもりだったのに死んじまって、エリーには悪い事したからなー、会えるなら会いたくてさー、エリーがどう思っているか知らないけど、今はひ孫も居て幸せらしいから俺が死んでからの話も、聞きたいんだー」
それは……
浩一が思ったことはダニエルも思ったらしい。
「それは、エリーは怒っている可能性もあるのでは?」
「やっぱそーかなぁー」
いろいろ言っていた割にのんびりと気にしているのか気にしてないのかわからない言い方だ。
ダニエルはどこから出したのか、おぼんにお猪口と酒器を乗せて、そのお酒を飲みながら言う。
「私、葬儀に出ましたが、エリー嬢は怒りの顔で涙を流しながら、最後に馬鹿ロトと言って最後まで墓石の前に居ましたよ、その時にいい人がいたようには見えませんでしたが、ひ孫が居るなら乗り越えられる男が居たんですねぇ」
「その男にもお礼を言いたいけどなぁ、もういないよなぁ」
それにマーサものーんびりと言う。
「そうですねぇ確か旦那様はお亡くなりになっていたと思いますぅ」
「だよなぁ」
こんなゆるく話すことだろうか、のーんびりと話す大人たち(一人実年齢3歳)の話を聞きながら、死に別れた恋人に会うと言うロトが怒られないように祈る事しかできない、ロトとマーサは先に風呂から上がった。3歳児の長風呂は健康に悪いとマーサが連れて行った。
浩一はダニエルにもう少し付き合ってくれと言われたので残った。
お湯の流れる音を聞きながらのーんびりとお風呂に入る。
「アリッサは……」
ダニエルがゆっくりと言う。
「ずいぶんと君が気に入ったようだ……」
「そ、そうですかね」
何だろう、何だか緊張してしまう浩一。
「でも、婚約はきっと冗談だから、本気にしないでくれよ」
「あ、はい、わかってます、あんな素敵な人が俺なんか婚約者にするわけないですよねぇ!ははははは……」
ダニエルは微笑んでいるが、冗談で笑うような空気ではない。
「アリッサは好奇心旺盛でね、私とピューレ女史が教会を探っている事に興味を示していてね、ミッシェルと君が夜に寝室でその話をするのだろうと思って羨ましがったんだろうねぇ」
「そう……ですか……」
勘違いするなよ、と言うのを言葉に込めて言われて、何だか浩一は居た堪れない。
「ま、今晩は頑張ってくれ。」
「今晩ですか?」
ダニエルは風呂から上がり、浩一に手を振って出て行くのだった。
浩一も遅れて風呂から上がり、夜の廊下を歩く静かな夜にダニエルの事を考える。もしかしてアリッサが好きなのだろうか、だからアリッサが浩一を気に入ったことが気に入らないのか?
なかなかめんどくさい事になりそうだ、そう思いながら浩一は部屋の扉を開ける、豪華な部屋に何人も寝れそうな大きなベッドがあり、豪華すぎて最初は別の部屋がいいと言ったが、恩人を質素な部屋になんて寝させられないと押し切られた。
部屋に入り、ベッドに横になっていると、カタっと二つの音。
「おや。アリッサとタイミングが同じだったか。」
「ミッシェル様!仲間に入れてくださいね!」
壁のはずの所から二人は出て来るなぜかドアノブがくっついてるなと思ったら壁じゃなかったのか!!
「な、なんで二人がそこから!?」
浩一が驚いていると、うふふとアリッサが笑う。
「ここは夫婦部屋ですわ!」
「め、夫婦部屋!?」
驚く浩一にミッシェルが説明する。
「この世界では夫婦は同じ部屋で寝ると言う習慣があるが、貴族は個人のプライベートも大事にする。だから大抵の貴族の家には個人の部屋と繋がっている夫婦部屋があるんだよ、それがここってわけだ。」
なんですと!?と驚く浩一。つまりここは夫婦の部屋そんな部屋を使っていたのかと何だか冷や汗がでる。
そして今度は入り口が開く。
「おや、皆さん、もう集まっていましたか。私が最後ですね」
ダニエルだ。高級感のあるシルクのパジャマが似合う。
「では、報告会を始めましょうか」
あ、なるほどそのための夫婦部屋かと浩一は納得したのだった。
4人で机の周りに集まり、通信水晶を起動する
『お疲れ様です、浩一さん、時間通りですね』
画面に映るのはピューレ、フォーラ、そして研究員のサラだった。
「お疲れ様です、ピューレさん、カーラ達は元気ですか?」
浩一の言うカーラ達というのは、
刺客の者達。
リーダーのドラキュラであるカーラ・サック、狼男のジャム・レンバー、鬼人のユウラ・J・マキーの3人はそれぞれに悲しい過去を持っていた。
カーラはヤタガラスで幼い頃から労働させられキジ村に保護された。
ジャムは村の子で幼い頃に人間によって両親を亡くした。
ユウラは魔族である鬼人に珍しい精霊の加護をもつ精霊使いで教会につかまり強制労働させられていたところをキジ村に保護されたらしい。
3人は今、人としてそれぞれの得意を生かしギルドで生き生きと働いているらしい、
『カーラは職人の手のスキルで毎日面白いモンスター用品を作って職員にも冒険者にも人気です、ジャムは楽しそうにモンスターたちと触れ合っています、そうしてユウラは精霊の力でモンスターたちを癒してくれています、皆さんとてもいい仕事をしてくれますよ』
3人はそれぞれ人に紛れて楽しく過ごしているらしい、ヤタガラスと教会、魔国の軍務大臣の関与、そこからキジ村がこの三つにつながっているかもしれないという情報、3人は最初怪しんでいたが、ピューレの今までの調査報告などを聞いて疑心暗鬼になりながらも協力をしてくれることになり、協力者ということで、人間に近い3人はギルドで職員として働くこととなった。
最初は強制労働させられるんだと思っていたみたいだが、好きに働かせてもらえて、今ではギルドの人気者らしい。
「新たな情報とかありますか?」
浩一の言葉でピューレは顔をゆるくして言う。
『カーラ達が私達の事を信用してくれたみたいで、キジ村の事を教えてくれまして、キジ村の村長がフォーラさんの情報で魔王軍軍務大臣イグゼルのおじであることがわかりました。』
やはりキジ村は教会と繋がっていることで間違いないらしい、
『キジ村の騎士は、ヤタガラスと教会からの救出者、そして隠れ森のはずなのになぜか襲撃してきた教会の騎士達に家族を奪われた子達が集められているようです、しかも襲われる家族は身体能力の高い子供が多く狙われているようです』
「騎士にするために狙ったか」
ミッシェルの言葉にみんな頷く。騎士にするために目の前で人間に両親を殺させ恨みを作る、そしてヤタガラスや教会の救出も使える者を選定して救出という三文芝居をしているのだろう、それでも地獄から救われたと思えば救ってくれた者を助けたくなるのだろうか。
「酷い話だ、自分達で不幸な子達を増やしているのか、」
浩一が憎々しげに言えば他の人も顔をしかめる。
教皇は長生きすることで人の心を失っているのかと、4人は怒る。
『3人は自分達の暗殺部隊に配属される者達が全員そうだった事を思い出し、今はキジ村に不信感を抱いています、そこでフォーラさんが村に部下を潜入させるそうです』
浩一は驚く。
「部下の人と連絡取れたんですか!?」
そこでフォーラが出て来る。
『諜報員は諜報員同士と魔王様との念話を習得している。俺の意識が正常になったことで念話で対話が可能になりここはヤタガラスと違って魔力除去も無いどころか、魔力強化の水晶もある、魔国まで念話を飛ばすのに苦労も無い、お陰で部下との連絡ができた。そこで部下に潜入してもらって、死んだはずの軍務大臣の祖父が村長をしていることがわかったんだ。』
なるほど、念話ができるならば声に出さず話せるので誰にもバレず会話し、秘密の任務も行いやすいし、魔王と会話できるならば、ん?
「魔王様と念話できるんですか?」
浩一の言葉にフォーラは「あー」と頭をかく。
『魔王様は魔王様で今調査中だ。そして人間の父を殺した勇者を簡単に信じることは出来ないから自分と話したいのなら、エアドラゴンを倒して自分と面白い戦いをしろとのことだ』
ムリだ、他のメンバーならまだしも浩一には無理な話だ、ロトの言う交渉の勇者と言うのは自分だが交渉するには魔王が面白いと思う戦いができなければならない、だが浩一は戦闘スキルオールFの最低ランク、旅の途中でミッシェルとダニエルに訓練を付けてもらっていたが才能のさの字もない。浩一はもともと運動神経は悪い方で親たちにも笑われ、弟からも「兄さんは他にいいとこあるから」なんて励まされる始末、そんな自分に魔王を納得させる戦いをできるというのだろうか、今は基礎体力作り、基本の体と言われて筋トレをしているが……
伝説の勇者の指導を見たいと言って見ていたマーサには、ダニエルの指導が勿体無いほどの戦闘音痴と言われ、戦闘訓練の相手をしてもらったが子供の相手をするよりも簡単に倒せたと言われてしまった。
「ま、浩一の第一目標は戦闘をできるようになることだな」
ミッシェルの言葉に気が重くなる。
「安心しなさい浩一君ここに滞在しているうちに私とシスターミッシェルで協力して戦闘技術を身に付けさせます、
旅の一週間で君の悪い癖も今後の教育方針も固まった。
明日から頑張ろうね!」
ダニエルの言葉に浩一は背筋を伸ばす。
「はい、頑張ります」
国のためになんて思ってはいない、でも召喚されたならその意味を自分に見出したい、ロトのおまけじゃなくて、元の世界に心残りがあるとすれば、弟の事だけ。
だからこそ、魔王ならもしかしたら元の世界に帰れる、またはあの親の元に残してしまった弟を呼び出すこともできるのではと期待している。
魔王に話を聞いてもらいたい、そのためにも運動音痴なんて言ってられない、自分が頑張らないと!
「やる気に満ちていいですね、ではそろそろ寝ましょうか。」
ダニエルの言葉に通信水晶の向こう側も頷く。
『そうですね、もう夜も遅いですからね、では私達はこれにて』
『またいいタイミングで連絡くれ』
じゃあなと、通信は切れた。
「では、私達も部屋に戻りますよ女性陣」
ん?と振り返ると、真ん中に空間を開けてアリッサとミッシェルが寝ている。
「私はここで良いですわ、ダニエル先生」
「初代勇者、気にせず部屋に戻るといい」
いやいやいや
「二人とも部屋に戻ってください!」
「「えーーーー」」
不満そうな2人にお構いなしに、ダニエルがアリッサを浩一がミッシェルを部屋に押し返したのだった。




