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生まれ変わっても佐藤だったので婿入りしようと思います  作者: とおりすがりのもの
第一章

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8/10

婿入りしようと思うのでモテる為に頑張ります。赤ん坊時代編5

「だぁあああああああっ!」

「わわわ何なにナニっ!?」

「こーら陽斗君驚かせちゃダメだって」


 大型ショッピングモール『クオン』でバケットハットを被った眼鏡の女性、桜庭柚葉に突撃しようとした俺の肩を母様が押さえて止める。

 

 離せぇえええええっ! 俺の行き場のない怒りを向けさせてくれぇえええええっ!


 待て、寧ろ正当な怒りと言っても過言ではない! 

 いや過言だけどそんなことはどうでもいい!

 桜庭柚葉ぁ! あんた俺の心を弄びやがったなぁっ! 


 春の暖かな河川敷に並ぶ桜の木々の下。

 桜の木がある庭を意味する苗字との出会い。

 春と桜。陽斗と桜庭。


 ――桜庭陽斗。


 めっちゃカッコいいやん!

 春と桜という季節感にマッチしたこの響きの良いフルネーム! 最高じゃねぇか!


 桜の花弁舞い散る場での邂逅は運命だって感じたよ。

 未来の俺に向けられた、神様や閻魔大王様からの粋な計らいだって。

 だと言うのにっ!



 あんたの子供、男じゃないかぁあああああっ!!



「ぶぅあああああああっ!!」

「ふ、ふぇえええええっ」

「ああちょ、(ふう)ちゃん泣かない泣かない! 大丈夫だから!」


 ちゃんを付けるなぁっ! そいつは、桜庭(ふう)は男じゃあっ! 君を付けろ君を!


 確かにあの時、子供が男か女か定かではなかった! なかったけども!

 あの流れだったら運命の女児と巡り合うって思っちゃうだろうがぁあああああっ!


 うん別にこれ桜庭家悪くないな!

 八つ当たりか? 八つ当たりだな! 

 俺の出来損ない滑舌への怒りと共にぶつけてやるぜ!


「ほーら暴れない暴れない」

「ぶぁああああああっ!」


 くそぅ! 母様が俺を抱き抱えたせいで先に進めない!

 離してくれ! 俺の心を弄んだ奴らに一矢報いたいんだ! 

 ただの八つ当たりだけど!


「柚葉さんもクオンに来てたんだね」

「は、はい! きょ、今日はその、旦那と一緒に来て、て」

「そうなんだぁ、ウチも同じなんだよ。今お会計行ってて……あれ? でも柚葉さんの旦那さんは?」

「だ、旦那は今、おととお手洗いの方へ」


 くっ、ママ友談義を始めてしまった。

 仕方ない、八つ当たりはまた今度にしてやるよ。


 それにしても柚葉さん。もう何度も母様と交流してるのに、未だに緊張しまくりで声が震えているのな。


「それにしても柚葉さん、よく私達がいるって気付いたね」

「えっ!? ああ、いやまあその……、き、聞き覚えのある叫び声が、聞こえたもので……」


 叫び声? ああ俺か。

 確かに俺の声はショッピングモール内に響き渡っていたかもしれない。

 だがそれをこの人ごみの中で聞き分けるとは。

 俺の声色はそんなに美しいのかしら。

 

「あ~、陽斗君の声って結構独特だからねぇ」


 は? 独特?


「赤ちゃんって大体可愛い声のイメージあるじゃない? 男の子だと風君みたいな」

「は、はい」


 まあ確かに、風の声はまるで小動物が鳴いたかのような、か細いながらも可愛い声ではあるが。


「陽斗君の場合、張りがあるって言うか、圧って言うか」


 おい待て。赤ん坊の声に圧って何だ。


「あ、何となく分かります」


 おいそっちも納得すんなや。


「その、こう言っては何ですが、小さい身体から出てる声とは思えないというか……」

「そうそう! 何か野太い感じなんだよね!」


 野太い!? 二歳男児の声が、野太い!?


「あとね、この間陽斗君がご機嫌だったのか、珍しく鼻歌歌ってたんだけどね」


 おぃいいいいいっ! あれ聴いてたんですかい母様!?

 てっきり昼寝してるもんだと思ってたのに!?


「何歌ってかは分からなかったけど、音程がさ、ほぼ一緒のままで……ふふふ」


 ……え? 

 手前みそだけど、結構、上手く歌えてたと思ってたのに……マジで?

 あと、歌ってたの、母様の曲だったんだけど、ワカンナイクライダメダッタ?


 もしかして俺――音痴?


「まあ、そこも全部含めて可愛いんだけどね」

「あはは。確かに」


 今更そんなフォローいらんわぁ!

 何? 滑舌崩壊に野太い声に音痴なベイビーだって!?

 俺のお口はイケメン遺伝子の代償にデバフでも背負って生まれてきたのかっ!?

 神! 閻魔! お前らの仕業かこれは!


 くそぅ許せねぇ! やっぱ八つ当たりだ! 八つ当たりしかねぇ!

 八つ当たり万歳だこらぁ!



「柚葉」



 俺が再び暴れ出そうとした時、かなり低い男の声が響いた。

 その声に名前を呼ばれた柚葉さんが振り返る。


「あ、博之さん」


 柚葉さんが男の名を呼んだことで俺は察した。

 この御方が旦那様か。


 ゆっくりと現れた人物を見て――俺は固まった。


 まず第一にデカい。

 父君の高身長など簡単に越すくらいに、デカい。


 次いで第二に怖い。

 漆黒に染まるサングラスを掛けて目つきは分からないが。

 眉が太く、顎が四角く、首が異様に太い。

 何より――いつ出来たのか分からない傷跡が顔のあちこちに刻まれている。

 分かりやすく例えるならば、ヤクザのような強面である。

 

 何ですかそのお顔は。

 一般人が道端で急に出会ったら確実に腰を抜かすレベルですぞ。

 俺なら間違いなく漏らすね。何なら少し漏らしたね。赤ん坊だから。

 

「………………」


 博之様の視線がこちらへ向く。

 すいません、眉をひそめながら無言でこっち見ないでください。

 怖さが倍になりますんで。これ以上漏らしたくないんです。


「あ、もしかして貴方が柚葉さんの旦那様ですか?」


 母様は普段通りの雰囲気で博之様に話しかけた。

 嘘だろ母様? この方を目の当たりにして、全く臆さないだと?

 臆さないどころか近付くだとっ!?

 ちょっと!? 近付くなら俺を解放してからにしてくださいよぉ!?

 ちびるってマジで!


「………………」


 対する博之様は無言を貫き通している。

 ただその場で微動だにせずこちらをずっと見ている。


「あれ? えーっと? 大丈夫ですか?」

「………………」


 返事がない。ただの強面のようだ。


「ああああの!? すすすいませんっ!」


 割って入るように柚葉さんが俺達の間に入り込んだ。


「こ、この人う、ウチの旦那なんですけど、その、旦那も、私と一緒というか、わ、私以上に、逢さんの大ファンでっ!」

「えっ、そうなの? 嬉しいなぁ。あ、じゃあ握手した方がいいかな?」


 その時だった。


 棒立ちのまま動かなかった博之様が、まるで伐採された大木のようにその場で直立したまま後方へ倒れた。

 その巨体故に、倒れた際の衝撃で軽い地震のような揺れが起きた。

 

「えええええっ!?」

「あああっ!? やっぱり!? ひ、博之さーん!?」


 柚葉さんは慌てて倒れた博之様に駆け寄り、安否確認を始める。

 掛けていたサングラスを外すと、博之様は完全に白目をむいている状態だった。


「だ、大丈夫ですか!? 救急車!? 救急車呼んだ方がっ!?」

「だだだ大丈夫ですっ! これ、いつものことなのでっ!」

「いつものことなの!?」


 いつものことなの!?

 何だその恐ろしい常習性! 

 病院にいた方がいいんじゃないですか!?


「えっと、博之さん、逢さんのファンすぎて、昔もテレビで逢さんの可愛い姿見る度に気を失っててっ! で、でも最近は大丈夫になってきてたんですっ! テレビ越しだったら何とか耐えられるようになったんですけど、じ、実物は、耐えられなかったみたいでっ!」

「あ、そ、そうなんだ」


 つまりこの人、推しである母様を間近で見て嬉しさのあまり失神したと。

 漫画とかでそういうの見たことはあるけど、ホントにそんな理由で気を失う人いるんだ。

 そう思うと、何かもう怖くなくなってきたわ。

 

「すすすすみませんでしたっ!? わ、私達は一旦引き上げますので、あ、逢さん達はゆっくりお買い物楽しんでくださいではっ!!」


 早口で俺達に謝罪した柚葉さんは倒れた博之さんを引き摺ってその場から足早に去って行った。


 てか、柚葉さん片手で博之さん引き摺ってたんですけど。

 何なら風だって抱っこしてるよね? 

 見かけによらず力持ちすぎないあの人?


「お待たせ~」


 桜庭家がいなくなった後、アクセサリーの会計を終わらせた父君が戻ってきた。


「あ、幸君おかえり」

「少し騒がしかったみたいだけど、何かあったのかい?」

「さっきまで柚葉さんと話してたの」

「ああ、逢がよく話してくれてるママ友さんか。会ったことないから俺も挨拶したかったなぁ」

「そうだね。いつかちゃんと紹介できたらいいね。……旦那さんの方は、今はちょっと難しそうだけど」

「ん? 旦那さんもいたのかい? どんな人だった?」

「ヤクザみたいな人だったよ」

「ヤクザっ!?」


 うん、見た目はね。

 でもきっと大丈夫。あの人きっと根はいい人だよ。

 初見はちびると思うけどね。

 

 ……あ、そうだ。おむつ替えてもらわなくっちゃ。

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