苗字を変えたいので婿入りしようと思います
苗字を変える方法は『養子縁組』や『離婚』だけじゃない。
もっとシンプルで。
もっと自然で。
そして誰も不幸にならない手段がある。
結婚――婿入りである。
将来、佐藤姓以外の女性と結婚し、妻側の家名をもらえば、俺は何の問題もなく別姓を名乗ることができる。
プランA。養子縁組は親族疎遠により実現困難。
プランB。離婚は倫理的にアウト。
そしてプランC。婿入りは現実的かつ合法的で、みんなハッピー。
完璧だ。あまりにも完璧すぎる考えだ。
なぜ俺はこんな単純な答えに気付かなかったのか。まだ脳が覚醒していないからか?
……なんて、理由はもう分かっているんだがな。
本来なら、結婚なんて結論は一番最初に思い浮かぶはずだ。
なのに、どうしてそれを真っ先に選ばなかったのか。
それは――意識的か無意識か、俺は『結婚』という選択肢を最初から存在しないものとして扱っていたからだ。
結婚なんかできない。できるはずがない。
そういった思考、佐藤壱世の影響が大きいのだと思う。
未だ鮮明に思い出されていない――前世の俺の記憶が。
佐藤壱世は苗字と同じで、どこにでもいるような、それでいて暗い男だった。
クラス内カーストで表せば、底辺に属してたと思う。
かと言って、いじめられていた訳ではない。
殴られたこともなければ、露骨に罵倒されたこともない。
けれど、それよりもはっきりと――『価値がない』と突きつけられていた。
必要最低限の時以外、話しかけられることはほとんどない。
何とかコミュニケーションを取ろうとして話し出しても、会話は長続きしない。
楽しくて、嬉しくて皆が笑う輪の中に入ることもできず、ただ少し離れた場所で『空気』として存在するだけ。
それが、佐藤壱世の日常だった。
嫌われていた訳ではない。
いや、そもそも好きも嫌いもない。
居ようが居まいが変わらない。
だから俺は、自分で自分をそういう人間だと結論付けた。
だからだろう。
始めから除外されているような奴から、そもそも結婚なんて――誰かと生涯添い遂げるなんていう選択肢が生まれてくる訳がない。
結婚なんかできない。できるはずがない。
ありえない。
それが佐藤壱世の中での常識だった。
そしてその常識は、今世の俺にもしっかりと根を張っていた。
「ついさっきまではなぁっ!」
佐藤壱世の偏った常識という名の根が、脳の奥深くにまで食い込んでいるのを自覚した瞬間、脳内の俺はそれを強引に引き抜いて放り投げた。
前世の俺ならたとえ死ななかったとしても、一生独身のままだっただろう。
だが、今世の俺は違う。
引退しても衰えない魅力を放つ元アイドル。
どこに出しても自慢できる高身長イケメン。
二人の遺伝子を受け継いだ愛の結晶として、俺はこの世に舞い戻ってきた。
あとは何をすればいいか?
答えは単純だ。
モテればいい。
無論、何もせずにモテるほどこの世の中は甘くない。
頭脳・運動能力・トーク。
その他諸々も含め、真にモテるにはそれ相応の努力が必須となる。
神様及び閻魔大王様。貴方達は俺にこう仰るのですね?
「イケメンというチートは与えた。この先は己の力で突き進むがよい」
上等ですぜ。
最初から何でも手に入る人生なんて、イージーモードすぎて真っ平だ。
本当に欲しい物は、俺自身の手で掴み取ってこそ価値がある!
赤ん坊の小さな手で拳をぎゅっと握る。
誰にも気付かれない小さな決意。だがそれは、確かに俺の中で燃え始めていた。
呼応するように、脳内にいる俺の拳が炎を纏い始める。
俺の人生目標は決まった。
あとはこれからの俺次第だ。
苗字一つでここまで執着してる時点で、俺は多分異常なんだろう。
だがそれで構わない。
異常思考上等。
二度目の人生。今度こそ俺が望む幸せを勝ち取ってみせる。
その為には。
「結婚できないなんて前提は――ここで焼き尽くすっ!」
燃え上がる拳を引き抜いた根に向けて思い切りぶつける。
ぶつけた瞬間、拳の炎が根を駆け巡るように燃え広がり、消し炭となって思考の彼方へ散っていった。
もう迷いはない。
俺は絶対婿入りして、最高の苗字を手に入れてやる!
お読み頂きありがとうございました。
プロローグはここまでとなります。
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もし宜しければ、また読みに来て頂けたら幸いです。




