20. 辺境伯のは・じ・め・て -オーキッドサイドー
カレン嬢があの小説の著者だったら、この場面を逃さないはず。
だって、今ここにいるのはクラウス殿にシリウス殿、そして私の主役のモデルが勢揃いだからね。
皆で話をしていたのに、アレッド殿一言でクラウス殿と私、そしてカレン嬢の三人でこの場に残されることになった。私がカレン嬢のエスコートをするから問題無いと言ったのに、クラウス殿にカレン嬢とゆっくり話をするいい機会だからとか言われて。
それに、ルイ君迄攫われてしまった。まあ、有益な人を紹介してくれるのは有難いけど。ルイ君の心配そうな目が居た堪れないね。
そんなに心配されるなんて……心外だ。私だって、誰彼構わずちょっかいを掛ける訳では無いのにね。
さっきから私とクラウス殿ばかり話をしているけど、カレン嬢は特に気にする様には見えない。寧ろ、敢えて気配を消して私達の話や様子を伺っているみたいだ。
たまに頷きながら、キラキラした瞳でニコニコしている。
本当に面白い。百面相しながらも好奇心満載の表情。話の方向によっては、真っ赤になったり青くなったりしているし、眉を上たり八の字にしたりしている。
考えていることが、全て表情に出ているみたいだ。きっと素直で温厚な性格なんだろうね。家族に愛されて育った証拠かもね。
『私とは、正反対だ』
彼女と接していると、陽だまりの様な温かさを感じる。
ほんわかして、ずっと傍にいたい。そんな気持ちが湧き上がって来るけど、ルイやカーン、ロゼリン達に感じるのとちょっと違う気がする。
『何だろうねぇ』
そんな事を思いながら、チラリと隣を見るとシャンパンを嬉しそうに飲んでいる。見かけと違って、結構飲める口なのかな。本当に美味しそうに飲んでいる。
しかし、随分と周囲の注目を集めているようだ。さっきからずっと視線を感じるね。それも四方八方から。
確かに、私の事を知っている者は余りいないだろうし、知っていても前回はドレス姿だったから、この姿を見たことあるのは王妃のお茶会、シリウス殿とリリちゃんの結婚報告の時にいた一部の女性達しかいない。だからからか、ヒソヒソとこちらを伺ってはいても、話しかけるきっかけが見つから無いみたいだ。
そうだよね。まともに知っているメンツなんて、さっき会った数人しかいない。まあ、不自由は感じていないけど。
ちょっと。
気が付いたらカレン嬢は、また新しいグラスを持っている。一体何杯飲んでいるのかな? 相変わらずニコニコしているけど、随分気を許しているのか、それとも緊張を解そうと酒に頼っているのか。まあ、そろそろ止めさせないと、ミラノ侯爵夫人から怒られそうだな。
目を覚ましてあげるよ。さあ、君はどう出るのかな?
クラウス殿にも振っちゃうよ?
「ところで、クラウス殿は誰かに似ていると言われた事はない? 例えば、『若き宰相のクラヴィス』 様とかさ?」
例の小説の主役の一人。若き宰相のクラヴィス。それは確かにクラウス殿がモデルになっているはずだ。さすがに髪色と瞳の色は変えてあるけど、挿絵の姿はクラウス殿そのままだったし、堅物で真面目な性格も、近視でモノクルや眼鏡を愛用していることも一緒だった。
問われたクラウス殿は、何を言っているのかと言うように目をぱちくりさせていた。
でも、カレン嬢は違ったね。
飲み始めたばかりのシャンパングラスを……一気に煽ったよ。
そして、
そして、
彼女は意識をポーンと放りだした。
これって、確信犯だよね?
◇◇◇◇◇◇◇◇
年上の男性が二人も付いていながら、令嬢が酔いつぶれた。
傍から見たら、下心ありで拘束されそうだよ。どんな不埒者だって。クラウス殿と顔を見合わせて暫し相談だね。
「クラウス殿、カレン嬢を休憩室まで運ぶから、一応ミラノ侯爵夫人に伝えて来てくれないか?」
「良いですけど、貴方が運ぶのですか?」
「うん。だって、今夜は私がエスコートするって言ってあるしね。ここまで飲ませてしまったのは、私にも責任があるから」
心配そうなクラウス殿にそう言ってカレン嬢を見た。濃茶の睫毛が頬に影を落としている。随分長い睫毛だな。
「判りました。探してすぐお連れします。カレン嬢をよろしくお願いします」
そう言ってクラウス殿は席を立った。ホールには沢山の客がいるし、ダンスも始まっているから見つけるのに手間が掛かりそうだ。
「カレン嬢? 大丈夫ですか? カレン嬢?」
俯いている彼女の耳に声を掛けて、肩を少し揺すってみるけど目を覚ます気配は無い。ピンク色に上気した頬が滑らかそうで、思わず触りたくなった。
マズイ。何を考えているんだ。
しかし、このまま椅子に腰かけた格好では危ない。一向に目を覚ます気配はしないし、段々体が傾いて来てる。
「カレン嬢? 休憩室迄行きましょう? 立てますか?」
傾く身体を支えて、更に声お掛けたけど、声にならない声がした。むにゃむにゃと何か言ったみたいだけど、良く聞こえなかった。
「仕方ないですね。カレン嬢、失礼しますよ?」
そう声を掛けて、足元のドレスを押えると膝裏を支えて抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこ。だね。
「「「きゃーっ」」」
そこかしこから黄色い歓声が上がったけど、今はソレに構わず彼女を抱いたままホールの出口に向かった。
若草色の眠り姫だ。
苦しそうじゃないかと覗き込んだ顔は、さっきより安心した様な顔に見えた。良かった。気分が悪くなっていたら可哀そうだもの。
「それではカレン嬢、行きましょうか」
華奢で温かい身体をそっと抱く。
そう言えば、自分から女性を姫抱きするのって、初めてかも? しれないね。
ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます。
ちょっと甘々にしてみました。
カレンさんの知らないオーキッドさんの気持ち
段々変わっている様な?
目立たない生活を心がけていたカレンさん
ですが、オーキッドさんのお陰で
一躍社交界で注目を浴びることになります。
変人と腐女子は華々しい社交界で
どうなるのでしょうか。
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