19. 見当違いのおせっかい
本日3話目です。
今日はここまでになります。
「オーキッド。カレン嬢が困っています」
ルシェール様が、繋がれた私とオーキッド様の手を優しく解きます。目の前のルシェール様は、憂いのある美貌を少しだけ綻ばせています。長い銀色の睫毛が、何とも言えず雰囲気を持っていますけど、どこか笑うのを我慢している様にも感じられます。
「カレン嬢、オーキッドが迷惑をお掛けして申し訳ありません。でも、ふざけて貴女を揶揄っている訳でもありませんから。それだけは判ってあげて下さい」
「はぁ」
「そうそう。本心から言っているからね」
オーキッド様はそう言って、私の顔を覗き込みました。お茶目な表情と姿、佇まいが全くの逆方向ですわ。
ええ。いわゆるギャップ萌え? という奴ですわ。
「まあ、オーキッド殿はどうでも良いが、カレン嬢はそれで宜しいのですか? 遠慮する必要はありません。そうだ、クラウス。お前もご一緒しろ。それなら安心だな」
アレッド王太子様が、とても良い事を思いついた表情で言いましたけど……
「えーっ。クラウス殿も一緒?」
「私がオーキッド殿のお守ですか……」
オーキッド様とクラウス様が殿下に向かって抗議の声を上げました。殿下のご心配はありがたいのですが、クラウス様も傍にいて下さるとかになったら、私の神経が持ちません。
それでなくてもオーキッド様の追求に注意が必要なのに、そこにクラウス様も加わるとなると、倍です。心労が倍になります。
「違うぞ。オーキッド殿のお守りじゃない。カレン嬢のエスコトートをしろと言っているんだ。話が出来る良い機会だろう? たまにはゆっくり親交を深めろ。いいな?」
そう言って、殿下はクラウス様の肩をポンっと叩くと、私とオーキッド様の間に押し込みました。何でしょうか。それに何で私とクラウス様がおしゃべりしないといけないんでしょうか?
「?」
クラウス様も私を見ています。多分、お互い同じ疑問を感じているのでしょう。
『一体、殿下は何を言いたいの?』 と。
「なになに? クラウス殿は私じゃなくって、カレン嬢の方が良いの? 私との方が付き合いが長いのに? 協力し合っている仲なのに? 酷くないかい?」
「エスコートするなら、女性の方が良いに決まっています。女装姿の貴方をエスコートしたことは、私の人生の忌まわしき過去です。もう触れないで頂きたいですね」
オーキッド様とクラウス様が言い合っていると、殿下は呆れた様に溜息を吐かれて、苦笑いを湛えたまま片目を瞑りました。
「ということだから、カレン嬢、二人を宜しく頼む」
そして、追いうちを掛ける様にもう一言。
「じゃあ、ルシェール殿、貴方も一緒に行こう。あちらで薬学の博士を紹介しよう」
ええっ!! ルシェール様も連れて行ってしまうのですか!? この場の唯一の良心ではないのですか?
殿下やセーヴル様に連れられて、アリシア様は名残惜しそうに去って行かれました。去り際に掛けられたシリウス様の同情の眼差しと言うか、憐れむような視線が痛かったです。言葉よりはっきりと、この状況がそういう状況だと言っているのと同じですから。
「……とにかく、少し座りましょう。カレン嬢はお疲れでは無いですか?」
クラウス様が、壁際の椅子を指差しました。
「そうですね。少し疲れました」
正直私は疲労困憊で、特に精神が削られています。このまま壁の花、ええ、壁になってもいい位です。壁になってオーキッド様とクラウス様のご様子を覗き見れるなら、それに越したことがございませんわ。
「タウンハウスでの生活は如何ですか?」
「うーん。まあまあだね。やっぱり領地遠いから、あっちの仕事をするのには多少面倒になるね」
「「「……」」」
会話が続きません。
そして、突き刺さる視線が痛いです。
何と言っても王国の美形男性貴族(独身)が二人もいるのですから。本来なら、私などとても近寄れないお二人ですよ。周囲の女性陣の視線が突き刺さります。
特に、オーキッド様は王都で社交をされないらしく、初めてお会いする方々も多いのでしょう、あちこちから熱い視線を浴びてらっしゃいます。
正体不明の美形騎士様ですし、さっきまで親しそうにアレッド王太子様ともお話しされていましたから、一体誰なんだとそこかしこで囁かれています。
クラウス様だって、今は涼しい顔でワインをお飲みですけど、こんな風に女性の近く(私の事ですけど)で寛ぐ姿何て見たことありません。
「そう言えば、カーン殿はお元気ですか? 最近お見かけしませんが」
「ああ、すこぶる元気だよ。今はパルマン領に行って貰っているんだ。定期便の連絡係もしているから、カーンも忙しいんだ。いくらロゼリンと交替で行っても、往復で結構日にちが係るからね。面倒掛けちゃっているよね」
知らないお名前が二人ほど出てきましたわ。オーキッド様のお屋敷の関係者でしょうか。そう言えば、以前王妃様のお茶会に来ていた方が、カーン様とか言われていなかったかしら? 確か元有名舞台俳優だったとか。お母様は良くご存じだったみたいでしたわね。
でも、ロゼリン様は初めて聞く名前ですわ。
「……ロゼリン殿は、お、お元気ですか?」
クラウス様にしたら珍しい少しもごもごした口調でしたけど。 クラウス様はロゼリン様の事をご存じなのですね? どなたなのでしょうか。
「うん。元気だよ。相変わらずあちこち忙しそうに動き回っているけどね。そう言えば、君以前我が家に来た時お茶で火傷していたよね? 大丈夫なの? ロゼリンも心配していたよ?」
オーキッド様が、私にシャンパンを渡して下さいました。ピンク色が美しく細かな泡がシュワシュワとグラスの底から立ち昇っています
。
ええ、頂きますとも。もう飲んじゃいますわ。
私は、笑顔で何杯目かになるグラスを受け取って口を開きました。
「まあ火傷を。大丈夫なのですか?」
「ええ。もうすかっり治りました」
クラウス様が私達に見える様に手を見せてくれました。確かに、火傷の後は見当たりません。
「そう。なら良かった。ロゼリンにも言っておくよ」
さっきから出ているロゼリン様って、どういう方なのでしょうか。気になりますわね。
「あの、ロゼリン様と言うのは、オーキッド様のご家族様なのですか?」
「ああ、カレン嬢には紹介していなかったね。ロゼリンはカーンの妹で、我家にいるんだ。まあ、私にとっても妹の様な者だけどね。そうだ。カレン嬢とは年も近いし、気が合いそうだなぁ。いつか会ってくれると嬉しいな」
ロゼリン様の事をお話しされるオーキッド様は、目尻を少し下げたとても優しい表情です。本当のお兄様の様な感じですわ。
「ねっ、クラウス殿もそう思わない? カレン嬢とも仲良くできそうだよね? ロゼリンは良い娘だよね? 優しいし頭の回転も速いし、可愛いし、乗馬もダンスも上手だよ。本当に良い娘だよね? そう思わない?」
ピンときました。オーキッド様はクラウス様に、ロゼリン様を推しているのではありませんか?
私は、お酒が入ると勘が鋭くなるので、多分そうなんだと思います。
「良くできた女性だと思いますよ。カレン嬢とも気が合いそうですね」
オーキッド様のカマかけに、引っ掛からない様に注意しているのでしょうか。そっけないくらい位にあっさりと言い放ったクラウス様ですが、イヤーカフの下にある耳たぶが、ほんのり赤くなっているのが見えます。それに、少しだけ表情が柔らかくなっています。
コレ、私の気のせいではありませんわ。
コクリとグラスを飲み干し更に新しいグラスに口を付けながら、じっとクラウス様を観察します。
とにかく、このまま壁の置物(もはや花とも言えませんわ)になって、麗しいお二人のお喋りを聞いていたいものです。それに、お二人もお酒が進んでいるせいか、少しだけ距離も近くなっていますわ(物理的に!)
このまま、オーキッド様がスルーして下されば、オーランド・ヴィスタ・バルモント辺境伯と私への追及は無くなりそうですけど。
でも、オーキッド様とクラウス様が打ち解けて、親しそうに語り合うこの場面こそ、私の立場がとっても危うくなるのですわ。
なぜって、読者以外の女性達には睨まれ、読者様からは憧れと羨望の視線の余波でビシバシと攻撃されていますから。
ああ、そちらのご令嬢グループは絶対読者様でしょう。それから、向こうの二人連れも。同好の士は判りますもの。
「ところで、クラウス殿は誰かに似ていると言われた事はない? 例えば、『若き宰相のクラヴィス』 様とかさ?」
「!?」
オーキッド様、まさかの大暴露ですか!? クラリと目の前が大きく揺らぎました。
クラウス様のお返事を聞く前に、私はグラスを一気に煽りましたわ。
敵前逃亡とでも何とでも言って下さい。
私はお酒に飲まれました。
酒は飲んでも飲まれるな。先人の言葉が遠くで聞こえた様な気がしました。
ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます。
見当違いの勘違いの為、アレッドからカレンの
傍にいるように言われたクラウスです。
まあ、ロゼリンの事が少し聞けたので
彼的にはまあいいのでしょう。
オーキッドさんの爆弾投下に
カレンさんは自爆して撃沈です。
はい、酒は飲んでも飲まれるな。です。
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