14. 覆面作家はドキドキ!
「オーランド・ヴィスタ・バルモント。彼の事をご存じですか?」
確かにそう聞こえましたけど、公の場で大っぴらに問われる事など絶対に無い名前ですわ。
「カレン嬢は、オーランド・ヴィスタ・バルモントをご存じじゃないですか?」
やっぱり! はっきりと私に向かって聞いていますわよね。
それも、2回言いましたわよ。エスコートして頂く為に伸ばした私の手が、空中でピタリと止まりました。
何故にこの名前をオーキッド様が知っているの? ま、まさか---
「カレン嬢?」
ゼンマイ仕掛けの人形が、いきなり止まったかの様に固まっている私の手を、オーキッド様は優しく取ると少し屈んで耳元に小さく囁きました。
「そのご様子だと、彼の事をご存じなのですね?」
すこし笑いを堪えた様に聞こえます。
ダメです! こんな所でご本人に聞かれるなんて、想定外ですわ! どうしましょう!
誤魔化すしかありませんわ。何とか誤魔化さないと!!
「あの、オーキッド様? それはどんな方なのですか? 夜会では、伺った事が無いお名前かと思いますけど……」
優しく手を引かれながら、お隣のオーキッド様を見上げて答えます。並んで歩くと本当に背が高いのですわ。丁度私の目線がオーキッド様の胸飾り位ですから。
この身長差では、ずっと見上げていると首が疲れると思います。
「そうですか? ご存じないですか? 貴女なら良くご存じかと思ったのですけど」
あら、思ったよりあっさり引き下がったのですわ。でもその代わり繋いでいる手をキュッと握られました。
「っ!?」
チラッと見上げるオーキッド様は、まるで悪戯を仕掛けた子供の様な目で私を見降ろしています。
なに、コレ。すっごく怖いんですけど? そして、全然引き下がっていませんわよ!
「あ、あの、オーキッド様、そ、そのお探しの方というのは---」
「私と似ているようです。黒髪黒目の辺境伯。ああ、でも彼は隻眼の騎士らしいですけど」
間違えようも無いですわ。
私の書いた『辺境伯編』に登場するオーランド・ヴィスタ・バルモント辺境伯の事です。黒髪の長髪、女性の様に美しい白磁の肌。スラリと高い背にバランスの取れた体躯。ただ彼の完璧な美しさを裏切るようにその左目は黒革の眼帯で覆われている……
オーランドが隻眼であるだけで、彼を語る言葉はそのままオーキッド様への賛辞になります。
美貌の辺境伯。オーランドのモデルは紛れも無く目の前にいるオーキッド様ですわ。
「やっぱりご存じありませんか? 貴女は良くご存じだと思ったのですけどね」
もしかしなくても、オーキッド様に私が作者だと疑われていますわよね?
一体どこからバレたのかしら? どなたからか小説の事を聞かれたのかしら。もしそうだとしたら、とっても不味いですわ。きっと怒っていらっしゃるんだわ!
指先がすーっと冷たくなるのが判りました。オーキッド様は小説の事をご存じで、作者を探しているんだわ。そして、私が作者らしいと当りを付けて聞いているんだわ。
なるべく動揺している事を悟られない様に、私は微笑みを浮かべて小首を傾げます。私には関係ありませんわ。そう答える変りに ココは社交の言葉でお返ししましょう。
「残念ですけど……でも、その方にお会いする事がありましたら、オーキッド様にお知らせしますわね」
精一杯の淑女の社交辞令です。ええ、これ以上はオーキッド様のお顔を見て言えませんわ。
オーランド・ヴィスタ・バルモント辺境伯に、会う事なんて現実にはありませんからオーキッド様にお話しすることはありませんわ。そうさせて下さいませ!
「そう? じゃあ、私も引き続き探そうかな。オーランド殿をね?」
「!?」
再び強く手を握られました。何でしょうか、逃がさないよ。という感じに取れますけど。気のせいであって欲しいと上を見上げると……
やんわりと目を細めて微笑むオーキッド様と目が合いました。
何てお美しいのでしょうか。そして、何て深い表情の瞳を持った方なのでしょう。
「カレン嬢、私の連れを紹介しよう。こちらはルシェール・サウザランド。今はタウンハウスで一緒に住んでいるんだ。私の大事な友人の一人なんだ」
ベランダに近いテーブルの所にその方はいらっしゃいました。
眩い銀髪が珍しいですわ。メルト王国にはあまり銀髪の方はいらっしゃらないはずです。そう言えば、この方は王妃様のお茶会にいらしていました。確か、隣国からのお客様だったはずですわ。あの時に不届き者せいで大怪我を負ったのではなかったかしら?
「カレン嬢。ルシェール・サウザランドと申します。以後お見知りおきを」
ルシェール様はそう言って、私に挨拶をして下さいましたわ。見惚れている場合ではありませんわね、私もカーテシーでご挨拶します。ルシェール様ってトウレンブルク王国の王族だったような気がしますもの。
しかし、この方もとってもお美しいですわ。サラサラの銀髪に、クールなアクアマリンの瞳に憂いを帯びた表情が何とも言えず魅力的です。ええ、創作意欲をくすぐるという点でのことですわよ。
「ルイはね、私の大事な友人であり家族なんだ。私は彼の為なら何でも出来る。そう思っているんだけど、彼は全然気づいてくれないんだけどね」
オーキッド様はそう言うと、ルシェール様の髪を一筋撫でる様に梳きました。
「ちょっ!?」
ルシェール様が眉根を寄せて、オーキッド様の手をパシリと軽く払いましたわ。
「ねっ? カレン嬢。釣れないでしょう? いつもこんな感じなんです」
頬を染めて睨んでいるルシェール様を前に、オーキッド様はくすくすと笑いながら私に向かってそう言います。ほんの少し肩を竦めるその様子も、何だか可愛らしい感じがして……
ギャップ萌えです。
エルメーヌ様がさっきの場面を見てくれていたら! 素晴らしい挿絵が描けたでしょうに!
駄目ですわ。ニマニマが止まりません。
でも、オーキッド様に疑われているのですから、ココは何とか誤魔化さなければ。
ええ、何としてでも。カレン! 平常心よ!
「ふふふ。オーキッド様とルシェール様は、仲が宜しいのですね?」
ああ! 期待で頭が爆発しそう! ですわ。
ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます。
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カレンさんのヲタク魂と令嬢気質が拮抗してます。
でも、オーキッドさんはルイ君を巻き込んで
煽っています。
カレンさんの作家心が疼いているので
どこまでオーキッドさんを誤魔化せる
でしょうか。無理でしょうけどね(笑)
次話オーキッドさん目線で参ります。
楽しんで頂けたら嬉しいです。




