11. お嬢様のモヤモヤ
少し短いですけど。
「カレン様、お疲れになりましたか?」
メゾンからの帰り道、馬車の中で問い掛けられました。多分、少し考え事をしていたので、クララから見たら疲れている様に見えたみたいです。
「いいえ? ちょっと考え事をしていただけよ。今日は色々とあったから」
だってそうでしょう? ピーコック商会で打ち合わせをして、その後メゾンに行けることになって噂のデザイナーさんにも会えましたもの。ドレスだって来シーズンの夜会用とお茶会用に2着づつと、普段着用のワンピースドレスもお願いしちゃいました。勿論髪飾りや、バッグ、靴までのトータルコーディネイトで。オーキッド様も似合っていたって言って下さいましたもの。
でも、それより何より、願っていた方との再会です!! ええ!! オーキッド様と偶然にもお会いして、お話しも出来ました。夜会とか以外で、全くのプライベート? で、エスコートもして貰いました。それもド・レ・ス姿のオーキッド様にです。
「驚きましたわ。お会いできるなんて思ってもいませんでしたもの」
ふと、零れた言葉にクララが反応しました。
「そう言えば、メゾンでお会いしたオーキッド様って、どちらのご婦人ですか? きっと身分の高いお屋敷の奥様ですよね?」
うーん。ですわね。そう見えますわね。正直に言ってもいいのかしら? 何か躊躇してしまいますわ。
「それにしても、背が高くてスタイルも良くて、不思議な雰囲気の美女でした。でも、変わっていらっしゃいますね、階段でカレン様をエスコートされましたもの。まるで、騎士様みたいに自然でしたけど」
「そ、そうね。あの方、オーキッド様とおっしゃるのだけど、辺境伯に縁のある方なの。少し変わっている方らしいけど……」
嘘は言っていませんよ。クララに嘘を吐くと、後でややこしい事になり兼ねないので暈かして教えておきましょう。
「そうですか。そんな感じもしますね。まあ、でもカレン様とは気が合いそうですから良かったです」
どこを見てそう思ったのか判りませんけど。オーキッド様の覚えが良いので安心しました。
屋敷について、自分の部屋で寛いでいると、青緑色の袋が目に付きました。
少なくなっていた原稿用紙を買った事を思い出しましたわ。今回は4冊も買い込んできましたから、次回作には足りそうです。
トン。と机の上に置いて、パラパラと白紙の原稿用紙を捲っていると、新しい紙の匂いがしますわ。私は紙の匂いや、インクの匂いが大好きです。何とも落ち着く香りだと思うのですけど。
原稿用紙を机の引き出しに仕舞うと、ぺしゃんこになった青緑色の紙袋が残りました。美しいピーコックブルーの上質な紙で作られた紙袋は捨てるには惜しいので、丁寧に畳んで小引き出しの方に入れようとした時に思い出しました。
「そう言えば、オーキッド様はこの袋が気になって、声を掛けてきたんでしたっけ……どこの店のモノか知りたがっていたわね。でもこの紙は、『マリオン様のお店』の包装紙になるのですから、一般の方には手に入らないわよね」
そうなのです。この青緑色の包装紙は、元々はあの本を包装する為に作った特別な紙なのです。マリオン様のこだわりで、色は勿論の事、厚さも手触りも考えて作られているのですわ。本は基本的に発送されて読者の手元に届きますけど、一目で注文の本だと判る様に、このピーコックブルーにしているのです。発送元がピーコック商会のマリオン様であることが、注文者には想像できるようにです。
どんな危険本なんですか? 多少耽美的ではありますけど、真の愛を追求した純愛物だと思っているのですけど。まあ、ほんの少しだけ邪な見方をしているかもしれませんが……
コホン。ごめんなさい。聞き逃して下さいな。
「それにしても、オーキッド様はお美しかったわね。あれで本当の男性なのかしら? 腰も細くて、スタイル抜群だったし、お肌何て白磁の陶器の様でしたわ。毛穴なんか見えませんでしたし、ええ、髭なんてとんでもないですわ。妖艶な美女そのものでした……」
机に肘をついて、夕暮れて来た窓の外を眺めながら独り言です。
自分と比べても仕方がありません。あの方と自分を比べるなんておこがましいです。男性なのに美しさを追求しているオーキッド様と、お洒落に興味なく、薦められるままを受け入れていた私では差があり過ぎます。
「でも、やっぱり男性なんですね。階段では自然に手を出して下さいました。階段をエスコートして貰うなんて初めてですわ。私の速度に合わせてゆっくりと手を引いて下さいました」
うーん。これって使えるかも。なのですわ。小説の中に使えるエピソードかもしれません。同性によるエスコート。それもエスコートしてくれるのは背の高い美丈夫。
「イケそう。このエピソードは頂きですわ!」
私は忘れない様に、ネタを書き留めている手帳に今日の事をメモしていきます。
「同性エスコートでしょ? それからお抱えのデザイナーがいるでしょ? そのデザイナーさんとは気安い関係で、遠慮が無く深い友情で結ばれているとか? イイですわぁ」
ついつい顔が綻んでしまいます。美味しいネタが今日は収穫できましたもの。
書き終わって、パタンと手帳を閉じました。
でも、何か変なのです。
何でしょう、だって、頭に浮かぶのはオーキッド様のお顔ばかりなんですけど?
浮かんでは滲んで消える、綺麗に彩られたボルドーの唇。黒曜石の様な艶の黒い瞳。そして白い頬に堕ちる睫毛の濃い影……
もしかして、
わ、私ったら……ソッチの趣味があったのでしょうか!?
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なんかモヤッてきたカレンさん
奥手でリアル恋愛の経験がゼロの
カレンさんですけど、オーキッドさんが
気になってきましたね。
できれば、20話位で完結したいけど
頑張りまーす!
楽しんで頂けたら嬉しいです。




