其々が過ごす時間②
……え?
春太郎の口から飛び出した、予想もしていなかった言葉に、ヒナは息を呑んだ。
そんな彼女の後ろから、ヒナに代わって驚きの声が響く。
「えぇ~~~!? 春太郎が? ヒナを? 好き~?!」
「うわぁ~~!? 清太? いつからそこにいたの??!」
いつの間に二人の側にいたのか、声の主である清太の登場に驚く春太郎。
「いつからって、今はおいらの事なんかどうでも良いんだよ。それより今の話は何だ?」
「もぉ、清太はまた大事な所で邪魔をする。何って、聞いてたなら分かるでしょ。告白だよ。ヒナに僕の気持ちを告白したんだ!」
「な、何?! 春太郎がこく、こく、こくは……」
口をパクパクさせながら驚く清太を無視して、再び春太郎はヒナに言った。
「でも安心して。ヒナを困らせるつもりはないんだ。ヒナが秋成の兄貴を好きな事は知ってるし、今の僕じゃあ、秋成の兄貴には勝てるはずないって事も分かってる。けど僕……何も伝えずに、何の努力もしないで諦めるのは嫌だったんだ。ヒナが僕の方を少しでも振り向いてくれるように、もっともっと頑張る。もっともっと強い男になるから、だから見ててねヒナ」
照れくさそうに、はにかみながら春太郎は言う。
「ちょっと……待て。……え? 今さらっとまた驚く事を言ってた気がするんだが? え……えぇ……?! ヒナは秋成の兄貴の事が好きなのか??! おいおいおい、なんだ、このとんでも展開は? いつからお前ら、恋にうつつを抜かすようになってたんだ?」
一人展開についていけない清太をよそに、春太郎は急いで持ってきていた夕飯の鍋料理を口の中にかきこむと、「じゃ、そういう事だから」と言って、まるで逃げるように二人の元から去って行った。
残された二人は、未だ放心状態で、走り去って行く春太郎の背中をただただ見送る事しかできなかった。
***
所変わって、数年ぶりに再会を果たしたこの大人組はと言えば――
「おい四季! いつまで俺様をこんな縄で繋いでおくつもりだ? 怪我人の手当てもちゃんと手伝っただろ。もう逃げやしねぇから、いい加減この縄をほどけ!」
「ダメっすよ。お頭の了解が出るまでは。もう少しだけ我慢しててください、ハル兄」
「四季お前、昔は俺様の言う事は、何でもハイハイ素直に聞いて可愛かったのに、もう全く可愛くなくなったな!」
「当たり前っすよ。それ、何年前の話っすか。純真無垢な子供を騙して、イタズラの片棒担がされてたあの頃の俺とはもう違うんすよ」
「ハル兄ハル兄って、いっつも後ろをチョロチョロついて歩いてたくせに! 俺様に忠誠を誓うって言った言葉は嘘だったのか?」
逃げ出す機会を見計らう玄明と、玄明を見張るよう芳泉から頼まれていた四季、二人の攻防戦が勃発している。
そんな二人のもとに近付く人影があった。
「その純粋な忠誠心を先に裏切ったのは、どこのどいつだったかねぇ。まったく、キャンキャンわぁわぁ喚くんじゃないよ、この男は」
「げ、芳泉!?」
「あ、お頭~!」
木にくくりつけられ座らされている玄明を、見下ろすように仁王立ちする芳泉に、玄明の顔は瞬時に青ざめ、逆に四季は待ってましたとばかりに芳泉の登場を喜んだ。
「さて玄明。こっちの用事は全て終わったよ。さっきの話の続きをしようじゃないか」
「…………」
じわりじわりと距離を縮め、威圧してくる芳泉に、先程までの元気は何処へやら、すっかり小さくなった玄明。
「どうしたんだい?急にしおらしくなっちまって」
「……かったよ」
「あぁ?そんなゴニョゴニョ話してたんじゃ、何言ってるか聞こえないよ。言いたい事は、はっきり言いな」
「だから、悪かったっつってんだよ! 反省してる! もう言い訳もしねぇ!! 煮るなり焼くなり、お前達の好きにしろい!」
ついに芳泉の威圧に堪えられなくなった玄明は、開き直ったかのように、大声で怒鳴り散らしながら謝罪の言葉を口にした。
「その態度、とても反省してるとは思えないがな」
「う、うるせぇ!」
言葉とは裏腹の玄明の態度に、芳泉は呆れたように溜め息を吐きながらも、話題を次に進めた。
「まったく。で?この10年の間、あんたはいったい、どこで何をしてたんだい?」
「何って、別に……大したことはしちゃいない」
「盗賊に落ちぶれた奴が? 本当に大したことはしてないのかい?」
「なっ、何で知ってんだ?!」
「そりゃ必死になってあんたの事探したからね」
「……な、なら、そういうお前らこそ今まで何処で何してた?」
盗賊に落ちぶれていた事がバレている。
と言う事は、今まで働いた悪事も全て知っているのか?
恐怖に駆られながらも、何とか話題を逸らそうと玄明は、芳泉達に同じ質問を返した。
「…………」
「……?」
何故黙っているのか? 暫くの間、沈黙が続いたその後で、芳泉はやっと重たい口を開き始める。
「……同じさ。あたしらもあんたと同じ、盗賊を名乗って生きてきた」
「はぁ?? どうしてお前らが盗賊を名乗る必要がある? だって、領主であった俺さえ消えれば、お前らの生活は守られたはずだろ? なのにどうして?」
思いもよらなかった返答に、玄明は驚きを隠せない様子でわけを尋ねた。
そんな玄明の疑問に、芳泉はポツリポツリと語り始めた。




