第9話:毒牙を断つ
ご覧いただきありがとうございます。「迷宮の底、復讐の血脈はモンスターを屠る」第9話です。
Bランクの大蛇との激闘のクライマックスを描きました。毒霧と強靭な外皮を誇る強敵を前に、狂気的なまでの執念で急所を貫くルインの戦いぶりをぜひお楽しみください!
紫色の毒霧が視界を白濁させ、肺の粘膜を鋭く焼く。
だが、その程度の苦痛は、あの日の胃袋で味わった絶望に比べれば何の意味も持たなかった。
大蛇のもう一つの頭が、獲物を仕留めようと凄まじい速度で襲いかかる。大きく開かれた口内からは、金属さえ溶かす強酸性の粘液が垂れていた。
(――遅い)
脳内で加速した時間の中、僕は大蛇の突進をギリギリの軌道で躱す。
通り過ぎる巨体の鱗が頬をかすめ、生臭い体液が飛び散った。隙メンの側面へと回り込んだ僕は、両手でしっかりと握りしめた短剣を、硬い鱗の継ぎ目に叩きつけた。
「死ねっ!」
ガキィッ、と金属が激しくぶつかり合うような異音が響く。
Bランク魔獣の強固な外皮は一筋縄では通らなかったが、僕の腕に込められた殺意はそれを無理やりねじ伏せた。短剣の切っ先が鱗を突き破り、深々と肉の深部へと沈み込んでいく。
「シャアアァァッ……!」
凄まじい断末魔の咆哮が、地下水路の石造りのアーチを激しく震わせた。
大蛇が痛みに悶え、二つの頭を狂ったように振り回す。その暴風のような巨体の揺れを受け、周囲の汚水が激しく跳ね飛んだ。
「ルイン! 無茶をするな!」
少し離れた安全圏から、ガルドが戦斧を構えて大声で叫んだ。彼の腕にも、油断すれば毒に侵されかねない緊張の色が滲んでいる。
だが、僕は振り返りもしなかった。一度火がついた殺意の炎は、もう誰にも止められない。
痛みに怯む大蛇の懐へと、僕は再び踏み込む。
狙うのは、二つの首の付け根にある急所だ。あの日、自分の仲間たちの命を奪い、僕を飲み込んだすべての怪物への怒りをそのまま刃に乗せる。
「もう二度と……僕を飲み込めると思うな」
冷徹な呟きとともに、全身の体重を乗せた一撃を首の結合部へと深く突き立てた。
ぐにゃりと骨が砕ける確かな手応えが、手のひらから全身へと伝わっていく。大蛇の巨大な身体が痙攣し、やがてドサリと濁った水の中へ崩れ落ちた。
地下水路には、静寂と濃い血の匂いだけが残された。
第9話「毒牙を断つ」最後までお読みいただきありがとうございました!
Bランクの強敵をも単身で圧倒し、確実に仕留めていくルイン。その姿はもはや普通の冒険者ではなく、すべてのモンスターを根絶やしにする「死神」そのものです。戦いを経るごとに深化していく彼の復讐心と戦闘力に、今後ガルドや周囲の人々はどのように関わっていくのか……?




