第10話:深層への誘い
ご覧いただきありがとうございます。「迷宮の底、復讐の血脈はモンスターを屠る」第10話です。
大蛇討伐を成し遂げ、周囲からの恐れと畏怖をさらに集めていくルイン。そして物語はいよいよAランクの迷宮「奈落の迷宮」へと動き出します。加速する復讐の旅路をぜひお楽しみください!
「……おい、嘘だろ」
水面を染める大蛇の巨大な黒い死骸を見下ろしながら、ガルドは戦斧を下ろしたまま呆然と呟いた。彼の額を、冷たい汗の一滴が伝い落ちていく。
Bランクの難敵であるオロチ。
その討伐は本来、熟練のパーティーが何日も作戦を練り、犠牲を覚悟して挑むような死闘のはずだった。それを、目の前にいる年端もいかない少年が、文字通り単身で屠り去ってしまったのだ。
「終わったか」
僕は返り血に染まった短剣を汚水で軽く洗い流すと、淡々とそう言い放った。
自分の身体中が微かに震えているのは、恐怖からではなく、全身を駆け巡った興奮の名残だった。
もっと強い奴を殺したい。もっと深い闇の底にいる化け物どもを引きずり出し、あの日の絶望をそのまま味わわせてやりたい。その渇きは、どれだけ魔物の血を浴びても満たされることはなかった。
「お前……本当に人間なのかよ」
ガルドは恐怖と畏怖が入り混じった複雑な眼差しで僕を見つめ、それ以上言葉を続けなかった。
数日後、王都の冒険者ギルド。
受付のカウンターに並べられたオロチの巨大な毒牙と真黒な鱗の山を見た受付の女性は、顔を真っ青にして文字通り震え上がっていた。
Bランククエストの完璧な達成。それも、驚異的な短期間での単独に近い快挙だ。
ギルド内ではすでに、僕の名前が静かな恐怖とともに囁かれ始めていた。
「『鬼童』どころか、もはや『死神』の通り名がつきそうだな……」
カウンターの隅で、ガルドが苦笑しながらワインを煽る。
周囲の冒険者たちは、僕が近くを通るだけで蜘蛛の子を散らすように道をあけ、誰も目を合わせようとしなかった。恐れられているのは分かっていた。だが、どうでもよかった。むしろ、馴れ合う必要がないその孤独な空間は、今の僕にとって心地ですらあった。
僕はギルドの依頼掲示板の最も奥、誰も近づかない一画に貼られた、古びて変色した一枚の羊皮紙に目を留めた。
そこに描かれていたのは、王都のさらに深くに眠る、かつての古代遺跡を利用した最難関のダンジョン――『奈落の迷宮』の地図だった。
難易度はAランク。
そこは、かつて人間が踏み込むことを禁じられた、真の闇の領域。
「……これにする」
僕がその羊皮紙を引き剥がした瞬間、ギルド全体の空気が凍りついたように静まり返った。
第10話「深層への誘い」最後までお読みいただきありがとうございました!
周囲から完全に異物として恐れられながらも、一切迷うことなく次の高みへと歩みを進めるルイン。ついにAランクの「奈落の迷宮」に手を伸ばした彼を待ち受けるものとは……? 物語はいよいよ中盤の大きな山場へと突入していきます。




