第6話:血塗られた最奥
ご覧いただきありがとうございます。「迷宮の底、復讐の血脈はモンスターを屠る」第6話です。
オークの群れとの激闘がクライマックスを迎える回となりました。恐怖を完全に殺意へと変え、ガルドをすら戦慄させるほどの戦闘力を発揮し始めたルインの姿を、ぜひお楽しみください!
「まだ来るぞ!」
ガルドの怒声が、洞窟の湿った岩肌を激しく震わせた。
残されたオークたちは、仲間の死に怒り狂ったのか、先ほどよりもさらに荒々しい獣の咆哮を上げながら、一斉に巨体を揺らして突進してくる。その数はまだ三匹。どれも人間の倍以上の体重を持つ、肉の壁だ。
僕は息を整える間もなく、返り血で赤く染まった短剣をしっかりと握り直した。
恐怖はない。あるのは、ただ目の前の生き物を引き裂きたいという冷徹な衝動だけだ。
あの日の暗闇で感じた無力感が、逆に今の僕を異常なまでの集中力へと導いていた。すべての音がスローモーションのように聞こえ、オークたちの筋肉の動き、息づかい、次にどこへ踏み込むかが痛いほどに明確に見える。
「ルイン、そっちは――っ!」
ガルドが目の前の敵を仕留め、こちらに加勢しようと身を翻した。
しかし、その隙を突くように、一匹の大型オークがガルドの死角から巨大な斧を振り下ろそうと飛びかかった。
間に合わない。そう思った瞬間、僕の身体は勝手に動いていた。
「邪魔だ……!」
地面を蹴り飛ばし、ガルドの視界を掠めるようにして敵の懐へと跳ぶ。
狙うのは、オークの喉元だ。硬い外皮ではなく、皮膚の継ぎ目である頸動脈のわずかな隙間に、全体重を乗せた短剣を突き立てた。
ぐにゃりと骨が砕ける感触と同時に、鮮血が噴水のように飛び散る。
オークは叫び声を上げることもできず、その場で崩れ落ちるように絶命した。
「なっ……!」
ガルドが目を見開き、信じられないものを見る目で僕を見下ろした。
だが、感嘆している暇はない。残る二匹のオークが、殺気立った目を血走らせて同時に襲いかかってきた。
僕は倒れたオークの巨体を踏み台にして高く跳び上がり、空中で身を翻す。
一匹目の頭上に着地すると同時に、躊躇うことなくその頭蓋骨めがけて短剣を突き下ろした。鈍い音とともに、脳髄を抉り抜く。
最後の二匹目も、振り返りざまに喉を切り裂いた。
数瞬後、地下迷宮の一角は、再び不気味な静寂に包まれた。
転がっているのは、無数のオークの死骸と、血の海に染まった石畳だけだ。
僕は荒い息を吐き出しながら、血まみれの短剣を地面に突き立てた。全身が痛み、筋肉が悲鳴を上げている。だが、心臓の奥底にある空洞は、不思議とほんの少しだけ満たされたような気がした。
「お前……本当にただのガキかよ」
ガルドは戦斧を下ろし、引きつった笑みを浮かべながら僕に近づいてきた。その額には、冷や汗がにじんでいる。ベテランの冒険者である彼が、自分よりはるかに年下の少年に対して恐怖に似た感情を抱いているのが分かった。
「……終わったか」
僕は冷え切った声でそう呟き、血塗れの顔を拭いもせずにガルドを見返した。
「ああ、掃討は完了だ。これだけの数、ギルドに持ち帰れば報酬も跳ね上がるだろうよ」
ガルドは呆れたように肩をすくめると、疲れた足取りで出口の方向へと歩き出した。
僕はもう一度、さらに深く暗い迷宮の奥へと視線を向けた。
ここはまだ浅い。世界にはもっと深く、もっとおぞましい闇が広がっている。
すべてのモンスターを根絶やしにするまで、僕の旅はまだ始まったばかりだ。
第6話「血塗られた最奥」最後までお読みいただきありがとうございました!
ガルドの危機を身を挺して(あるいは効率的な殺戮として)救い、オークの群れを単身で圧倒したルイン。彼の戦闘スタイルは、復讐に囚われた者の狂気と、生き残るための残酷なまでの効率性が同居しています。
少しずつ周囲を圧倒し始める彼が、今後どのような強敵と出会っていくのか。次回の展開もぜひお楽しみに!




