第4話:呪われた廃村の地下迷宮
ご覧いただきありがとうございます。「迷宮の底、復讐の血脈はモンスターを屠る」第4話です。
Cランクの難所「呪われた廃村の地下迷宮」での初戦闘を描きました。ガルドの制止を振り切り、トラウマを殺意に変えてオークの群れに単身突っ込んでいくルインの狂気と凄みをお楽しみください!
羊皮紙に記された「呪われた廃村」は、王都から馬車で半日ほど離れた、かつては豊かな穀倉地帯だった場所にあった。今では草木も枯れ果て、黒ずんだ土壌が広がるだけの死地と化している。
ガルドは僕が持ち込んだCランクの依頼書を一瞥すると、大きくため息をついた。
「おいおい、正気か? オークの群れだぞ。あいつらはゴブリンとは桁違いの体躯と力を持っている。一撃でももらえば、お前のその細い骨なんて簡単に粉々だ」
「関係ない」
僕は短く吐き捨て、馬車の荷台から飛び降りた。
ガルドは呆れと苛立ちが入り混じった顔をしたが、これ以上何を言っても無駄だと悟ったのか、ぶつぶつと文句を言いながらも重い戦斧を肩に担いだ。
廃村の中央には、かつて井戸だったと思われる巨大な石造りの穴が開いていた。そこから立ち込めるのは、獣臭さと腐敗臭が入り交じった耐え難い悪臭だ。
地下迷宮への入り口。その闇は、あの日の巨獣の喉の奥を思い出させるには十分すぎるほど深かった。
「……行くぞ」
ガルドが先頭に立ち、松明を片手に慎重に梯子を下っていく。
僕はその後に続き、地下へと足を踏み入れた。湿った暗闇が、まるで冷たい泥のように纏わりついてくる。
地下空間は広く、かつての地下貯蔵庫や排水路が複雑に入り組んでいた。
少し進むと、ぐちゃり、と足元で嫌な感触がした。視線を落とすと、そこには人間や動物の白骨死体が無造作に転がっている。オークたちが食い荒らした残骸だ。
(――食べられる、ということ)
あの日の恐怖が、冷たい手で心臓を鷲掴みにする。
丸呑みにされ、胃液に溶かされ、生きたまま肉を砕かれた仲間たちの姿が脳裏に浮かび、呼吸が浅くなった。
「グルル……」
その時、闇の奥から低く地響きのような唸り声が響いた。
壁の影から現れたのは、豚のような醜悪な顔に、人間の何倍もある筋肉質の巨体を誇る魔物――オークだった。手に持った巨大な骨のこん棒が、微かに明かりを反射している。
一匹ではない。奥の闇からは、さらに何対もの血走った目がこちらを睨みつけていた。五匹、いや、それ以上いる。
「くそっ、群れじゃねぇか! 退くぞ、ルイン!」
ガルドが叫び、剣を構えて一歩引いた。Cランクの依頼として見ても、単独の冒険者パーティーが挑むには数が多すぎる。
しかし、僕の足は一歩も後ろへ引かなかった。
逃げたら、またあの日の自分に戻る。
あの暗闇の中で泣き叫び、ただ食われるだけの無力な子供に戻ってしまう。
「……逃げない」
小さく呟き、僕はガルドの制止を無視して突進した。
「おい、馬鹿っ!」
ガルドの怒声が背後で響くが、もう耳には入らない。
先頭にいたオークが、怒号を上げながら巨大なこん棒を振り下ろしてきた。風圧だけで肌がヒリつくほどの剛撃だ。
直撃すれば一巻の終わり。だが、その巨体ゆえに動きは大ぶりだった。
僕は紙一重でこん棒の軌道から身をかわし、オークの懐へと飛び込む。
狙うのは急所ではない。筋肉の隙間、動きを止めるための靭帯だ。
「死ねっ!」
冷徹な殺意を乗せた短剣が、オークの足首の太い腱を深くえぐり取った。
分厚い皮膚と筋肉を切り裂く凄まじい手応えが、手のひらを通じて脳髄にまで響く。
「ギィィィッ!」
オークが断末魔の悲鳴を上げ、バランスを崩して巨大な身体を石畳に叩きつけた。
畳みかけるように、僕はその背中に飛び乗り、無慈悲に何度も短剣を突き立てる。返り血が黒い瞳を濡らし、視界を赤く染め上げていく。
恐怖は消え失せていた。そこにあるのは、目の前の肉塊を完全に破壊し尽くすという狂気的な渇望だけだった。
第4話「呪われた廃村の地下迷宮」最後までお読みいただきありがとうございました!
ガルドの「退くぞ」という常識的な判断を無視し、恐怖を克服するのではなく「殺意」でねじ伏せていくルインの戦い方が描かれた今回。容赦なく急所や靭帯を破壊していく姿は、もはや少年ではなく立派な復讐鬼です。
次回の激闘の行方や、ガルドの反応にもご注目ください!




