第3話:夜の虫と呪われた血筋
ご覧いただきありがとうございます。「迷宮の底、復讐の血脈はモンスターを屠る」第3話です。
平穏な孤児院の裏側で、毎夜トラウマの悪夢に苛まれながらも復讐心に身を焦がしていくルインの姿を描きました。より深く狂気と闇へと沈んでいく少年の生き様を、ぜひ最後までお楽しみください!
王都に戻ったのは、夜のとばりがすっかり下りた頃だった。
馬車の荷台から降りると、全身にしみついたゴブリンの悪臭と自分の血の生臭さが鼻腔を突く。ガルドは報酬の銀貨を数枚放り投げると、「明日も朝が早い、遅れるなよ」と短い言葉を残して酒場のほうへと消えていった。
僕は銀貨を拾い上げ、埃っぽい路地裏を抜けて、寝床としている古い教会の一室へと向かった。
かつて孤児院だったその建物は、今や身寄りのない子供たちの吹き溜まりだ。ガタついた木製の扉を開けると、暖炉の微かな光の周りで、いくつかの小さな影が身を寄せ合って眠っていた。彼らの寝息は穏やかで、あの日の地獄とは無縁の世界にいる。
僕は誰にも気づかれないよう、音を立てずに自分のベッドへと潜り込んだ。
衣服を脱ぎ捨てると、冷たい夜気が汗ばんだ皮膚を撫でる。腕や胸に残る無数の擦り傷がヒリヒリと痛んだが、その痛みこそが僕が今日を生き延びた証だった。
天井のシミを見つめながら、目を閉じる。すると、すぐさま脳裏にあの光景が蘇る。
――真っ暗な胃袋。
――溶かされていく肉。
――ロイの叫び声。
「……っ」
喉元まで出かかった嗚咽を、歯を食いしばって飲み込む。心臓が狂ったような速さで打ち鳴らされ、冷や汗が背中を伝った。恐怖が内側から内臓を締め付ける。あの時、あの巨獣の腹の中で、僕は間違いなく死んだのだ。今生きているのは、その後に残された呪われた残骸にすぎない。
ふと、自分の手のひらを見つめた。
薄暗い闇の中でも、ゴブリンを突き刺した時の生暖かい感触が、皮膚の溝にこびりついて離れない。
震えていたはずの指先は、いつしか固く握りしめられていた。
恐怖じゃない。これは怒りだ。
すべてを奪い、僕をこの終わらない悪夢に閉じ込めたすべてのモンスターに対する、消えない呪詛だ。
「殺してやる……全部、根絶やしにしてやる」
誰に聞かせるわけでもなく、暗闇に向けて低い声で呟く。
その誓いだけが、冷え切った僕の体を繋ぎ止める唯一の熱だった。
翌朝、まだ太陽が昇りきらないうちに、僕は再びギルドの扉を叩いていた。
受付の女性は、昨日の今日で血走った目をしている僕を見て、わずかに息を呑み、そして怯えたように視線を逸らした。
「……おはようございます、ルインさん。今日の依頼は……」
「一番危険なやつをくれ。魔物の数が多くて、報酬が弾むやつがいい」
女性は震える手で一枚の羊皮紙を差し出した。
『呪われた廃村の地下迷宮、オークの群れの掃討』
難易度は昨日の比ではない。Cランク相当、ベテランパーティーでも数名が重傷を負うような死地だ。
僕は羊皮紙を引き抜き、冷酷な笑みを浮かべた。
血と鉄にまみれた終わらぬ殺戮の道へ、再び足を踏み出す。
第3話「夜の虫と呪われた血筋」最後までお読みいただきありがとうございました!
周囲の子供たちの穏やかな日常と、ルインが抱える終わらない悪夢の対比が、彼の抱える絶望の深さを際立たせる回となりました。恐怖を怒りに変換し、より危険な依頼へと自ら飛び込んでいく姿は、まさに復讐鬼そのものです。彼の刃がこれからどのような血塗られた道を切り拓いていくのか、今後の展開にご期待ください!




