外伝2:王都の黒い噂
ご覧いただきありがとうございます。「迷宮の底、復讐の血脈はモンスターを屠る」外伝2――王都の黒い噂です。
ルインの噂が王都の裏社会や貴族たちをも巻き込み始め、周囲の人間の恐怖と警戒がさらに高まっていく様子を描きました。加速する狂気と、ルイン自身の変わらぬ孤高の姿をお楽しみください!
王都の大通りから一本外れた薄暗い裏通り。高級な石造りの建物が並ぶ表舞台とは違い、ここは埃と泥にまみれた日陰者たちの溜まり場だ。情報屋の男――ルークは、手元の安物のパイプから立ち上る煙を細目で見つめながら、目の前に置かれた銀貨の重さを確かめていた。
「へぇ、これだけの額を払ってまで知りたいってのか?」
ルークの向かいに座っていたのは、先日の酒場でガルドと口論を交わしたBランク冒険者・バルドだった。彼の顔には、苛立ちと隠しきれない焦燥の色が滲んでいる。
「もったいぶるな、ルーク。あの『死神』のことだ。あいつは最近、Aランクの『奈落の迷宮』から生きて戻ってきたんだろう? 一体裏で何をやっているのか、本当のところを教えろ」
バルドの声には、ただの嫉妬だけではない、底知れぬ恐怖に対する裏返しのような焦りが含まれていた。自分たちベテランの冒険者が何年もかけて築いてきた地位や誇りが、たった一人の少年、しかも子供の姿をした異物に踏みにじられているような感覚に囚われていたのだ。
ルークはニヤリと浅黒い笑みを浮かべ、手元の羊皮紙の束をペラペラとめくった。
「ふん、お前さんも物好きだな。だが、知りたいって言うなら教えてやろう。……あのガキ――ルインについての噂は、もはや冒険者ギルドの枠を超えて、王宮の貴族たちの耳にまで届き始めてるぜ」
「王宮の貴族だと?」バルドが眉をひそめた。
「ああ。奴らは『死神』をただのイレギュラーな怪物として見てねぇ。自分の領地や利権を守るための『便利な刃』として使えないか、あるいは、いつか自分たちに牙を向く脅威になるんじゃないかって、裏でざわついてら」
ルークは煙を吐き出しながら、さらに声を落とした。
「それに、現場を見た連中の話じゃ、あいつの戦い方は異常だ。普通、魔物と戦うときはいかに致命傷を避けるかを考えるもんだろ? だがルインの野郎は違う。自ら敵の牙の前に身を差し出し、肉を裂かれようが骨を折られようが、絶対に怯まない。まるで、自分の命になんて最初から価値がないと言わばかりに、ただ相手を殺すことだけに全神経を注いでるんだとさ」
バルドはゴクリと唾を飲み込んだ。頭の中に、酒場でガルドが言っていた言葉がよみがえる。
『あの背中を見たことがあるか……』
「……狂ってるな、やっぱりあいつは化け物だ」
「化け物か、それともただの復讐鬼か。まあ、どっちにしろ長生きはしねぇさ。あんなすり潰すような生き方をしてりゃ、いつかどこかの迷宮で綺麗に骨すら残らなくなる」
ルークは冷ややかに笑い、銀貨を懐へとしまった。
その頃、王都から遠く離れた別の古い迷宮の入り口。
月明かりも届かない漆黒の闇の中、ルインはたった一人で冷たい石畳に立っていた。
全身の古傷が疼き、服のあちこちは先日の戦闘で裂けている。だが、彼の瞳は夜の闇よりも深く、鋭く光っていた。
王都でどんな噂が流れようとも、貴族がどう動こうとも、ルインの興味の範疇には一切存在しない。
ただ目の前に立ちはだかるすべてのモンスターを引き裂き、あの日の悪夢の源へとたどり着くこと。それだけが、今の彼を動かす唯一の真実だった。
「……次だ」
呟いた声は誰にも届かず、ただ冷たい地下の風にかき消されていく。
少年の刃は、さらなる血を求めて、再び暗闇の中へと滑り出した。
外伝2「王都の黒い噂」最後までお読みいただきありがとうございました!
ルインの存在がただの「危険な冒険者」を超えて、王都全体の不穏なスパイスとして波紋を広げ始めている一幕を描かせていただきました。周囲がどれだけ騒ぎ立てようとも、自分の目的のためにひたすら闇を突き進むルインのブレなさがより際立っていれば嬉しいです。




