第三章:濁った楽園
王都から遠く離れた街道を、一台の高級な馬車が走っていた。
車内は、王都の喧騒とは無縁の、甘く頽廃的な空気に満ちている。
「ふはははは!」
レンはふかふかのシートに腰掛け、高級ワインをグラスで回しながら、愉快そうに声を上げて笑った。
「いやあ、傑作だったな。俺を追放しなければ、あの実力だけは本物の勇者は、あのまま何も知らずに、世界の救世主としての冒険をまだまだ楽しめたのになぁ」
「本当ね♫」
エレナがドレスの裾を揺らしながら、レンの太ももに身を寄せ、淫らな吐息を漏らす。
「あの男、最後まで清廉潔白を突き通して本当に退屈だったわ。実力があっても、あんなに扱いやすくちゃ、弄び甲斐もないもの」
「そうだね! あいつ、私が怯える演技したら、連行される時まで本気で私のこと心配そうな目で見てんだもん。騙されてることも知らずにさ。レンに『俺の可愛い猟犬』って首輪をつけられてる時の方が、ずっとゾクゾクするのにね!」
ニナがレンの首筋に抱きつき、下俗な快楽の記憶に身を震わせながら声を弾ませる。
レンは二人の身体を交互に愛撫し、その滑らかな肌の感触を楽しんだ。これだから【美人局】のスキルはやめられない。本物の善人が、本物の英雄が、何の落ち度もないまま、完璧な理不尽によって奈落へ落とされる。この圧倒的な不条理こそが、何よりも人生をイージーモードにする。
ふと、正面のシートを見る。
そこには、可愛い旅装束に身を包んだミュシャが、窓の外をじっと見つめて座っていた。彼女は俺たちの会話に加わろうとせず、ただ静かに佇んでいる。
「次の勇者パーティーは、もっと面白い奴だといいな」
レンがワインを一口煽り、次の獲物に思いを馳せながらそう呟くと、女たちはそれぞれの表情を浮かべた。
エレナは、次の権力を貪るように、妖艶な笑みを浮かべて。
「そうね♫」
ニナは、新たな獲物を壊す高揚感に瞳を輝かせて。
「そうだね!」
そして、ミュシャは――。
ゆっくりとこちらに顔を向け、俺のその下俗で冷酷な横顔に、ほんの少しだけ、嫌そうな、軽蔑の混じった視線を向けた。
「……」
彼女は何も言わず、ただ小さくため息をつき、再び窓の外へと視線を戻す。
その瞳には、救いようのない嫌悪と、それ以上に、自分もまたあの清廉な英雄を嵌める片棒を担ぎ、この泥沼から二度と抜け出せないという、底知れない絶望の諦めが澱みのように溜まっていた。
誠実な者は何も知らぬまま奈落へ落とされ、悪辣な者たちは良心の呵責すらなく肥え太り、僅かに正気を残した者もただ濁流に呑まれて摩耗していく。
レンはそのミュシャの「暗い絶望の表情」すらも、極上のエンターテインメントとして楽しみむ。
そして、馬車のシート深く腰掛け、次の世界を汚すための悪辣な計画の絵図を、思いのままに描き始めるのだった。




