第二章:破滅の宣告
翌朝。勇者アルスは、理不尽な現実の濁流に呑み込まれていた。
宿屋の廊下をドタバタと騒がしい足音が埋め尽くし、部屋の扉が乱暴に開け放たれる。突入してきたのは、教会の異端審問官と、王国の近衛兵たちだった。
「光の勇者アルス! 貴殿を以下の容疑で拘束する!」
「な……何のことだ!?」
アルスはベッドから飛び起き、聖剣に手を伸ばしようとした。だが、その前に審問官が数枚の「記憶結晶」を突きつける。
審問官は感情の起伏を一切排した、冷徹な機械のような声で、淡々と罪状を読み上げ始めた。
「第一。神聖なる教会の最高位聖女エレナに対し、その地位を笠に着た執拗な性的関係の強要、ならびに精神的搾取。
第二。ギルドに所属する隠密部隊員ニナに対する、公金流用による買収、ならびにギルド裏帳簿の隠蔽教唆。
第三。未成年の魔術師ミュシャに対する、夜間の執拗な威圧による純潔の強奪未遂。
これら三件の性的脅迫、ならびに地位乱用罪。証拠は、被害者三名の宣誓書、ならびに肉体的・魔術的な『証拠結晶』の提出により、すでに確定済みである」
「嘘だ……! 嘘だ、そんなの! 僕はそんなこと、一度だって……!」
アルスはパニックになり、部屋の隅にいる彼女たちに目をやった。
女たちは一様に、怯えた表情で顔を覆い、肩を震わせて泣いていた。
「アルス……どうして、あんな酷いことを……」
エレナが涙を流し、傷つけられた被害者として彼を哀れむように見つめる。
「嘘って言わないでよ、アルス……。私、本当に怖かったんだから!」
ニナもまた、恐怖に怯える少女の顔でアルスから身を隠した。
「……アルス」
ミュシャは何も言わず、ただ本当に痛ましいものを見るような、悲痛な瞳で彼を見つめ、静かに顔を背けた。
完全に清廉潔白だったアルスは、自分がどれだけ身の潔白を訴えようとも、国が、教会が、そして何より自分が大切に思っていた女たち自身が、自分を「犯罪者」として完璧に仕立て上げ、心配そうな顔をしながら自分を奈落へ突き落としている現実を理解できなかった。
「ガルツ! 助けてくれ! 僕は、僕は何もしていないんだ!」
アルスがベテラン戦士に縋り付くが、ガルツは荷物を背負い、冷たい一瞥をくれただけだった。
「……言ったはずだ。俺はパーティーの崩壊を何度も見てきた。身に覚えがあろうがなかろうが、女を複数囲い、裏の管理を怠った時点で、お前の命運は尽きていたんだよ。……じゃあな、元・勇者」
ガルツは躊躇なく部屋を出て行った。
アルスはただ淡々と法執行の手続きに従って組み伏せられ、魔力封じの手錠をかけられた。何の落ち度もないまま、俺たちの嘘と女たちの完璧な「被害者の演技」だけで一瞬にしてゴミのように使い捨てられる。彼を救う光は、どこにもなかった。




