第一章:剥がされた光輪
「お前の戦い方は、どうしても我らの目指す光の道とは相容れない。……すまないが、レン。ここでパーティーを離れてくれ」
宿屋の一室。光の勇者アルスは、苦渋に満ちた表情で頭を下げた。
その姿に、傲慢さはひとかけらもない。その剣技も魔法も、間違いなく世界最強と呼べる「本物の英雄」だった。だからこそ、自分の実力に寄生するだけの荷物持ちのレンを切り捨てる決断は、彼なりにパーティーの未来を真剣に考えての、誠実な選択だった。
「……分かったよ、アルス。お前たちの足を引っ張るわけにはいかないからな」
俺――レンは、いかにも傷ついた風を装ってうつむき、背負った荷物の紐を強く握りしめた。
部屋の隅では、四十を過ぎた無口なベテラン戦士、ガルツが腕を組んで静観していた。彼だけは、俺がこれから起こす「地獄」の火の粉を被らない位置に、本能的に身を置いているようだった。
「レン、今までありがとう。これは少ないけれど、君のこれからの生活費だ」
アルスは金貨の詰まった革袋を俺の手に握らせてくれた。その綺麗な瞳には、仲間を切り捨てる罪悪感が宿っている。
俺はそれを受け取り、一礼して部屋を出た。
廊下を進み、宿屋の勝手口から薄暗い裏路地へと足を踏み入れる。
「――お疲れ様、レン。やっとあの『本物』の相手をしなくて済むのね」
路地の影から、足音もなく現れたのは聖女エレナだった。
神聖な法衣の胸元を大胆に寛げ、上気した肌を晒している。表向きは清楚を絵に描いたような聖女だが、その本性は、凄まじく性的欲求の高い肉食獣だ。アルスの真っ直ぐな誠実さに息を詰まらせ、裏では王国の権力に直結する俺の、酷く執拗な愛撫に溺れて何度も声を枯らしていた。
「本当だよ! あいつ、実力だけは本物だからさ。戦うたびに『ニナ、今の索敵は完璧だったぞ!』って褒めてくるの、マジで胃が痛かったんだから!」
続いて現れたのは、盗賊のニナだ。引き締まった肢体を俺に押し付け、承認欲求を満たしてほしそうに首筋にキスを強ねてくる。彼女はアルスの「本物の称賛」では満足できず、俺がスキルの魔力で与える、脳が蕩けるような快楽の支配を求めて、進んで俺の駒になっていた。
そして、最後に少し離れた場所から、躊躇いがちに足を進めてきたのは魔術師のミュシャだった。
人形のように可愛い彼女は、アルスに対しては「身持ちの固い少女」を完璧に演じていた。それはアルスの執着を煽るための演技であり、彼女もまた、俺の夜の枕元で何度も淫らな声を上げていた一人だ。
だが、ミュシャの瞳には、ニナやエレナのような狂信的な光はない。
「……レン。これで、本当に終わり……?」
ミュシャは衣服の裾をぎゅっと握りしめ、冷ややかな視線を俺に向けてくる。
「ああ、仕掛けはすべて終わったよ」
俺は三人の女たちを引き寄せ、ニヤリと笑った。
固有職【美人局】。王国の命令により、制御不能になり得る「最強の勇者」の破滅の引き金を、いつでも引けるように管理するのが俺の任務だった。俺にとってこのスキルは、極上の女たちを侍らせ、楽に人生を生きるための最高に便利な道具に過ぎない。
俺は懐から魔導通信機を取り出し、王都のギルドと教会へ、同時にはじめての「告発状」を送信した。




