第57話「旅支度」
「ひーふーみー」
金貨が一枚二枚、いっぱいいっぱい……。
「ひ、ひょぉぉ!」
や、やべぇ。
思わず平気な顔してたけど、思いないしたらドン引きする額ですよコレはぁぁ!
「どんびきー?」
「お、おうドン引きだよ、ドン引き」
ぶっちゃけ、これだけあれば、贅沢しなければ田舎暮らしでなら一生食っていける額だ。
「だけど、田舎に引っ込んで暮らす気はないしな」
なにより、ライトの目標はSランク冒険者だ。
そうして、名を馳せて、引退するまで冒険者を続けたい。
かつてはサーヤと見た夢を今はヤミーと見たいのだ。
そしてなにより──。
「アグニールより先に、Sランクへ──……」
そうして初めて……! あのクソ野郎を下に見下すことができるのだ。
……強大な権力と財力がために、
暴力でも屈せられず、公的機関の訴えも、ましてや殺すこともできないになら──……いっそ、ぐうの音も出ない実績と実力で奴をひれ伏せさせる。
──その考えを確固たる決意としてライトは進む。
だから、胸にあてた手を虚空に伸ばすと、あたかもそこにアグニールのクソ顔があるかのように幻視して、それをグッ! と握りつぶす。
そうさ……。
それこそがライトの勝利であり、ヤミーへの賛歌となる。
──夢と野望と勝利が一緒くたになってるなんて最高じゃないか!
「……というわけで、ヤミーも目指そうぜ!」
「えす、らんく?」
おーよ、Sランクよ。
Sランク!
冒険者の頂点にして、最強の称号そのものだ。
それは金でも権力でも手に入れられぬ、本物の強者の証──。
……数多のギルドからの推薦と、数多くの実績ある冒険者たちからの称賛を経て初めて認められるもの。
それは金では得難く、
その境地に至るには、誰もが認める実力と実績が必要なのだ。
だからこそ……だからこそ、あのアグニールでさえ正攻法で狙っていた、
「ならば……、」
そう、
ならば──……ライトのやることは決まっている。
……クエストをこなしまくって、Aランク以上のモンスターを狩って、さらには未踏破のダンジョンなんかをクリアしちゃったりして──ギルドに貢献していけばッ!
……いずれ冒険者の頂点、Sランクへ到達できるであろう。
いや、できる。必ずできる──。
ライトの光線魔法ならばそれすら可能なのだ!
「……よ、よーし! そうときまれば、大都会へ行くぞー!」
「おー」
元気よく挨拶するヤミーの頭を撫でつつ、ライトはこの街を出る決意を奮い立たせた。
……いずれにせよ、この田舎じゃ、クエストのランクは頭打ち──。
ならば、
そうならば──。
「……未知なる町でがっぽり稼ぐのが一番というものさ!」
そうと決まったら、
よーし、いくぞー!
おおー!
ライトの気合と、なんとなくつられて手をあげたヤミーのそれが元気よくシンクロするのだった。
そして──。
「ぶひー」
「ぷー」
夕方まで買い物を続けて、宿の戻ったライト。
千波の子の宿はいつものギルドがあっせんする安宿ではなく、町一番の大きなところ。
まぁ、田舎なのでそこまで豪華というわけではないが、一泊銀貨5枚はするお高いところだ。
「あーベッドふかふかー」
「ふっかふかー」
ふふふ、ヤミーもご機嫌なのか、ベッドでピョンピョンしてる。
だけど、下の階の人に怒られるからほどほどにね────。
「あーこらこら。ヤミーちゃんよ、楽しいのはわかるけど、他にも泊り客がいるらな静かにね」
よっこらせっと、ヤミーを抱えると、その瞬間、ばーん!
「うっせぇんだよ! 何を陽の高いうちから、ベッドでギシギシよろしくやってん、だ……」
「あ、すみません」
ほーら。こうなった。
わかったら今後静かに────……って、
──ガチャ。
「失礼しましたー」
顔を青ざめた商人風の男が、怒鳴り込んできた時とは打って変わって大人しく────…………。
ヤミーがベッドでぴょんぴょん、ぎしぎし
それを抱えるライト
ぎしぎし、
ベッドでよろしく────…………。
「ウェイト!!」
YOUはウェイト!!
「絶対今のは誤解ですからあっぁあああああああああああああ!」
ライトの叫びが宿に響き渡るのだった。
もっとも、
次に日出発間際、チャックアウトしようとしたらあのセリフを吐かれてしまったわけだけどね!!
「ゆうべはおたのし──」
「シャーラップ!!」
だまれ、殺すぞ!
なんも楽しんでねぇよ!!
つーか、こんな変な噂立てられたらこの街に戻れねーよぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!
あーーーーーもーーーーーーー!!
冒険者ライト。
教会都市を出発するその日に伝説を残した──。




