第52話「布石」エピローグ
それから、数時間後。
ライトが戦線離脱したことは、作戦の一環ということお咎めなし。
むしろ、捕虜を解放した功績で、隊商のオーナーから金一封と、特別配給を貰うまでになった。
もちろん、『谷の番人』や、その他オーガの素材もライト持ちだ。
いらない部位や持ちきれない部分は、荷を失った分、馬車に飽きに出た隊商がそのまま買い取ってくれるという。
さすが大店。気前がいい。
そして、オーガの巣穴だが、
さすがにライトのレーザーでボロボロにはなってはいたが、時間が立てばなんとか内部を調査できるくらいには落ち着き、数体の満身創痍の生き残りを掃討し、内部を改めることができた。
そこには、数百体分の人骨のほか、
これまでに隊商を襲ってため込んだ物資がたんまりあった、
もっとも、高価なものはそれほどなく、食料の大半は喰い荒らされているか、腐っていたが、いくつかの装備や貴金属が回収された。
お金の類はほんの僅か。
オーガには価値のないものだし、人骨の中から出てきたところをみるに、食われた人の持ち物だったとい言ったところだろう。
それらの権利のうち、いくつかがライトに譲渡された。
さすがに全部というわけにもいかなかったし、持ちきれるものでもなかったが、まぁそれなりの額だ。
そうして、中々に実りあるクエストを終えたライトは、街道の途中ですれ違った隊商に乗り換え、教会都市への帰路に就いた。
ライトの任務は元々入れ違う隊商とバトンタッチする形で護衛を中継することだ。
一番の危険地帯の谷の道をし短時間で往復することになるが、まぁそれももう大丈夫だろう。
こうして、帰路についたライトは割とのんびりとその旅路を過ごしていた。
ヤミーはと言えばいつものように、スピスピとライトの膝の上で転寝をしているので、その髪を優しくなでるライトが、ふわわと大きな欠伸をする。
「ま、たまにはこういうクエストも悪くはないかな? 夜中中戦闘するのは御免だけどね」
結構な怪我をしたし、ヤミーが一時期行方不明になるというのもあったが、遠出をするのも悪くはない。
……そろそろ、教会都市から出る時期がきているのかもしれないな、とライトは思う。
もっとも、あまり拠点から離れるのも危険だと理解している。
アグニールの件はちっとも解決していいないし、お金だってまだまだ必要だろう。
だけど、S級冒険者を目指すなら旅立ちの時期が近いのかもしれない。
なにより、アグニール達を本当に意味で打倒するなら、奴がこだわっていたその地位にライトが上り詰めた方が手っ取り早い気がする。
そうして、その地位にたって初めてこう言ってやるんだ。
「ざーこ」
「くっくっく。いいじゃないか。……やってやるぜ、アグニール」
ぐっ!
馬車の中から空に輝く太陽に手を伸ばしたライト────。
その視界を横切った大きなカラスが鳴きながらどこかへ待っていくのだった。
まるで、ライトの気持ちを代弁するかのように──……。
そして、
ギャーギャー……。
オーガの巣穴に群れていたカラスが一羽舞い戻り、上空をグルグル回ったあと、今度こそ、どこかへ飛び去っていく。
そいつにフォーカスを当てるものがあれば気付いただろう。
それはカラスにあらず……。
首元に、『魔塔』のマークが刻まれた浮遊型ゴーレムであることに……。
そして、ゴーレムが届ける映像は一元化して魔塔に集められているのだが……。
「ふむ。ようやく引っかかってくれましたね」
「長かったですねー。ライトのやつ、用心深いねー」
ぎしっ。
豪華な椅子を軋ませながら集められた報告書に目を通していたアグニールが、サーヤが両手に抱える水晶球を脇に押しやる。
「十分な成果だが、まだ足りない。資金はいくら使ってもいいから、もっと情報を集めろ」
「はーい。でも、今回のケースは莫大な金がかかっちゃいますよ? 王都の商人もこっちの言うことなんて聞きませんしー?」
ジロリ。
「言ったはずだ、いくらかかってもいい」
「はいはーい。了解で~す」
ふん。
馬鹿女め──そう言いながら、報告を取りに行ったサーヤのケツをなんとなく眺めながら、自らも分析を継続する。
……あれから数カ月。
アグニールは本家の発言力と、資金を盾に、あの一件をうやむやにしてしまった。
その代わり、冒険者ギルドではしばらく肩身が狭くなってしまったが、それはまぁいい。どうせ、たかがギルドごときにアグニールをどうこうする力などのないのだから。
なにせ、こっちは魔術最高機関『魔塔』という強力な後ろ盾があるのだ。
……それにしても、
「光線魔法、か」
ライトの至った境地は、アグニールと同じ、属性進化のそれらしい。
だが、光魔法がまさかあんな強力な魔法属性に化けるなど誰が知りえたであろうか。
「恐ろしい威力──そして、凄まじい力……」
伝手のある貴族を使った護衛クエストには一切乗らなかったライトであったが、
一部融資している商人に圧力をかけて行わせた王都への食料輸送に無理矢理冒険者を雇わせるという二重三重の手間のかかるからめ手を使ってようやくライトの力を間近に見ることができた。
少々情報が錯綜していても、現場の傭兵の情報と、ゴーレムを使った情報をつなぎ合わせればおおよその検討はついた。
「ふ……。レーザーか。厄介だが、弱点がないわけでもなさそうだ──……それに、」
スリ……。
報告書に書かれていた似顔絵を撫でるアグニール。
「元気そうじゃないか、闇1号」
くっくっく。
まさか、まだ生きているとはな──。
携帯魔力タンクにした素体が長生きする事例はない。
ほとんどが成人を経ずに死亡。
まぁ、栄養も最低限。
陽の光を浴びることも少なければ当然と言えば当然なのだが────。
「くくくくく。……いいさ、元気ならそれでいい」
いずれ、返してもらうさ。
私の装備共々な────!
はーっはっはっははは!!
そう言って嗤うアグニールの周囲には、
屍となった少年少女が床を埋め尽くさんばかりに転がっていた。
それぞれ、額には適当に闇2号、3号、そして光1号、2号、丁型、乙型と割り振ったそれとともに──────。
「さーて忙しくなるぞ! クッソに預けた素体もそろそろ仕上がるかな? 今度は一個と言わずに二つ三つと用意しよう。あのロリコンが女ばかり選ぶので時間がかかるが、なーにクッソの調教の腕前はなかなかのもの!」
そうして、完成した『量産型・携帯魔力タンク』とともにライトにお礼をしなければなぁっぁあああ!
ブサァッァアア!!
次のステップに移るべく立ち上がったアグニールがローブを纏った瞬間、頭部からカツラが落ちる。
あの日、やられた傷のせいで、なかなか生えてこない髪の毛のお礼はもとより、
『死霊王の杖』
その対となる『死霊王の衣』を取り返さねばならないだろう。
ゴポゴポと培養液の中につけられた死霊王の杖は魔塔の研究者が引き続き研究中らしく、その研究結果が、培養液につけられた死霊王の杖の入ったカプセルにバシンッ! と生々しく張り紙されていた。
持ち出し厳禁ッ!
使用には『死霊王の衣』が絶対に必要。許可なく使用した者の生命は保証しない────。




