第51話「脱出」
ドカーーーーーーーーーン!!
「ぶぺっ、ぺっぺ!」
「ぺー」
凄まじい爆発に顔中煤と泥まみれになったライトとヤミー。
見れば、捕虜たちはいち早く脱出し、外の陽光に感激しへたり込んでいた。
うん。空気がうまい……。
周囲は相変わらず白骨の山とそれをつつく野鳥群れで、爽快な光景とはかけ離れているが、それはそれ──。
「あー……今回ばっかりは死ぬかと思ったぜ」
「うんー」
流石に疲れたのか、ヤミーもしょんぼり。
それ以上にライトもヘトヘトだった。
洞穴の入口は、いまだにゴウゴウと唸り、まるで地獄の釜のようにぐらぐらに煮えたっている。
この様子だと、洞穴の中ではもはや生きている者はいないだろう。
あー疲れた。
腰と顔の泥をパンパンッと払うと、やおら起き上がるライト。
さて、と。
「……これで終わったな────悪いけど、俺は送っていけねぇんだわ」
「お、おい、アンタ!」
ひらひらひら
ライトはそれだけ言うと、引き留めようとする傭兵に、後ろ手に手を振って歩き出す。
勝手に戦線離脱しておいて、契約違反の冒険者がおめおめと隊商に戻れるはずもなし──。
まぁ、犯罪ってわけでもないから謝ればいいんだろうけど、もう面倒くさいからいいや。
「じゃ、そゆことでな。ナイフはやるよ」
丸腰だと危険だろうし──。
さーてどうするかな。
このまま、徒歩で教会都市に帰ろうか────……とそう思った矢先。
ズシン、ズシン、ズシン……。
『『『ゴルルルルルル……』』』
「え?」
ちょ……。
マ、マジかよ。
ハタと硬直するライト。
つーか、
「なんでまだ生き残りがいるんだよ────!」
ゴルルルルル……。
低く唸るオーガが数体。
どうやら、昨夜とは別働隊らしい。
獲物の鹿を背負ったソイツが巨体の上からライトを見下ろす。
(そ、そりゃそうか……。全部が全部攻撃隊のはずないわな──!)
巣穴のでかさを見くびっていたせいで起きた齟齬。
これは──……まずい!!
「あ、あははー……。か、帰ってもいいかな?」
ダラダラと冷や汗をかくライト。
しかし、その背後に気付いたオーガが、巣の有様に今更気付いて雄たけびをあげる。
まるで、なんじゃこりゃぁぁあ! と言わんばかりに、
『『『ゴルガァァァアアアアアアアアアアア!』』』
ファーーーーッ〇!
「そりゃそうなるわなぁぁ!!」
ジャキンッ!!
レーザー……くそっ、近すぎるッ!
しかも撃ててせいぜい一発か二発。これ以上は限界だ……!
──こ、ここまで来てぇぇええ!!
「今度こそ、死ぬ……」
ライトの背中に縋りつくヤミーのぬくもりを感じながら、まぁ、二人一緒ならいいかとにわかに諦めようとしたまさにその時。
『『『ゴルアッァアア────────』』』
「撃てぇぇぇえええええええええええ!!!」
ズドドドドドドドドドッンン
「な?!」「わー」
「「「ひゃぁぁああ!」」」
突如響き渡る、凶悪なまでに巨大な重弩の連射音に、ライトもヤミーも、解放された捕虜たちも悲鳴を上げる──。
(……って、重弩?!)
あ、あれってたしか──。
たしか────……。
「って、なんでアンタがここにいるんだよ!!」
「いやー、はっはっは、まぁまぁ、ボスの都合って奴だよ」
打ち方やめ──。
そういってペシペシと叩くのは、装甲馬車に積載されている迎撃用の重弩だった。
どうやら、わざわざ馬車から外して持って来るとは恐れ入った。
つーか、ほんとなんでいるんだよ!?
「な~に、大したこたぁねよー」
そう言って豪快に笑う傭兵隊長がいうのは、ライトが抜け出て、すぐに隊商のボスが方針を変えたらしい。
昨夜仕留めた『谷の番人』のことを思えば、今ここでオーガの巣をせん滅したほうが後々楽になるってね。
そういう合理的な判断をしたらしい。
なにより、『谷の番人』を倒した以上、この先街道上の脅威はほとんどないのだ。
オーガが住み着くということは盗賊も住めない街道ということなら──。
「戦力を分派しても問題ないってさ」
そう言って、一昼夜かけて重弩ごと部隊を派遣し、ライトが残した痕跡を負いながら巣穴を発見。
入口で出てくるのを待伏せしようとしていたところらしい。
「まー……出てきたのはアンタらだったけどな」
「ふざっ!……近くにいたんなら助けに来いよ!」
「そーだそーだ!」
ぶーぶーぶー!
捕虜たちからも不満が出るのは当然だ。
「無茶言うなよ。巣穴で戦闘するなんてゾッとするぜ、そこの子連れ魔術師以外、よほど頭のネジでもぶっ飛んでいないと無理だっつの」
むー。
酷い言われようだ。
「ま、もちろん。巣穴の殲滅の目的はそれだけじゃないぜ──」
ニヤリ。
「くくく。俺たちがこんな任務外のことをするってんだ。……あるに決まってんだろ、ボーナスがよー」
は?
ボーナス?
……これだけやってハム一本じゃ割に合わねーぞ。
「んなわけねーだろ。……へっへっへ。ここのオーガどもがいくつの隊商を食い物にしてきたと思ってる? なら当然あるわなー」
ある?
あるって何が──────……あ、まさか!!
「そのまさかよ。しこたまため込んでだろうなー……お宝を」
ニチャァァ!
隊長以下、それにつられてやって来た傭兵がニヒヒと下品に笑うが、ライトは冷や汗たらり。
そして、解放された捕虜達は、なかばざまぁ見ろと言わんばかりに顔を歪める。
だってなー……。
「あ、あー……お宝って、当然、巣穴のなか、だよな?」
「ったりめーよー。おめえが出てきたってことはあらかた駆除したんだろ?……ま、山分けってことで手を打とうぜ」
あ、あー……。
山分けな、山分け──。
「……山も、残ってるかな」
「は?」
ちょいちょい。
ライトの指さす先には、ドロドロに溶け落ちたオーガの巣穴──……って、
「な、な、な、な、な」
なんじゃこりゃぁっぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
凄惨なオーガの巣穴の前で傭兵隊長の悲鳴が響きわたったとかなんとか──。




